Last Updated on 2025-05-13 18:18 by admin
AI画像処理技術企業のGlass Imagingが、2025年5月12日(現地時間、日本時間5月13日)に2000万ドル(約30億円)のシリーズA資金調達を完了した。この資金調達はグローバルソフトウェア投資家のInsight Partnersが主導し、GV(Google Ventures)、Future Ventures、Abstract Venturesなどの既存投資家も参加した。
カリフォルニア州ロスアルトスに本拠を置くGlass Imagingは、AIを活用してデジタル画像品質を向上させる「GlassAI」技術を開発している。この技術はレンズの収差やセンサーの欠陥を修正し、カメラのパフォーマンスを10倍向上させることができる。同社はこの資金を活用して、スマートフォン、ドローン、ウェアラブルデバイスなど様々なカメラプラットフォームにGlassAI技術を実装・展開する予定である。
Glass ImagingはZiv Attar CEOとTom Bishop CTOによって創業された。両氏はかつてAppleに在籍し、iPhoneのポートレートモード技術の開発チームをリードしていた。現在、同社は16人のチームで、光学工学、計算イメージング、ディープラーニング、効率的なコンピュータビジョンアルゴリズムの専門知識を持つメンバーで構成されている。
GlassAI技術は、従来の画像処理パイプライン(ISP)とは異なり、単一のニューラルネットワークでシャープニング、ノイズ除去、HDR、エッジ強調などすべての処理を行う。これにより、効率と品質を大幅に向上させることができる。昨年秋にはQualcommがAndroidデバイスでのGlassAI技術のデモンストレーションを行い、その効果を実証した。
今回の資金調達に伴い、Insight PartnersのManaging DirectorであるPraveen Akkiraju氏がGlass Imagingの取締役会に加わり、同社のJonah Waldman氏が取締役会オブザーバーとなる。Glass Imagingは2024年に930万ドルのシード資金調達を完了しており、2021年には初期シード投資もLDV CapitalとGroundUP Venturesから受けていた。
Attar CEOによると、Glass Imagingの技術を搭載した製品は2025年中に発表される見込みである。
References:Glass Imaging raises $20M to use AI to improve digital image quality
【編集部解説】
Glass Imagingが開発するGlassAI技術は、スマートフォンカメラの限界を根本から覆す可能性を秘めています。従来のスマートフォンカメラが抱える物理的な制約-小型レンズによる収差や小さなセンサーによるノイズ-は、これまで避けられない問題でした。しかしGlassAIは、これらの問題をAIの力で解決する新しいアプローチを提案しています。
注目すべきは、この技術が単なる画像の「補正」や「強調」ではなく、カメラの物理的特性を学習し、その欠点を「逆算」して修正する点です。従来の画像処理パイプライン(ISP)では、ノイズ除去、シャープニング、HDR処理などが個別のアルゴリズムとして順番に適用されていました。この過程で画質の劣化が生じることが多く、特に小型センサーでは「泥のような」不鮮明な画像になりがちでした。
GlassAIはこの問題に対し、カメラのRAWデータから直接処理を行い、単一のニューラルネットワークですべての処理を一括して行うという革新的なアプローチを採用しています。これにより、処理の各段階で生じる画質劣化を最小限に抑え、より鮮明で詳細な画像を生成することが可能になりました。
実際の効果は驚異的です。PetaPixelの記者がGlass Imagingの本社を訪問した際のデモでは、DJIドローンで撮影した画像をGlassAIで処理したところ、まるで大型センサーのカメラで撮影したかのような鮮明な画像が得られたと報告されています。重要なのは、この処理が「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる生成AIの問題を回避している点です。つまり、存在しない詳細を勝手に生成するのではなく、実際に存在する情報を最大限に引き出しているのです。
この技術の応用範囲は非常に広いと言えるでしょう。スマートフォンはもちろん、ドローン、ARグラス、セキュリティカメラ、映画用カメラなど、あらゆる撮像デバイスの性能を飛躍的に向上させる可能性があります。特に小型化が求められる機器において、物理的な制約を超えた画質を実現できることの意義は計り知れません。
技術的な特徴として、ISO感度に応じた処理の最適化も挙げられます。低照度環境では高いISO感度が必要となり、通常はノイズが増加しますが、GlassAIは照明条件に応じて処理を調整することで、様々な環境下でも最適な画質を維持できるとされています。
創業者のZiv Attar氏とTom Bishop氏がAppleでiPhoneのポートレートモード開発に携わった経験を持つ点も、この技術の信頼性を高めています6。現在16人という比較的小規模なチームで、数千人のエンジニアを抱えるAppleに匹敵する画質を実現できると自信を示している点は注目に値します。
一方で、この技術にも課題はあります。SWOTレポートによれば、Glass Imagingは高い製造コストやニッチ市場への依存といった弱点を抱えており、また半導体不足などのサプライチェーンの脆弱性も潜在的なリスクとして挙げられています。さらに、模倣品や偽造品の市場参入リスクも指摘されています。
今回の2000万ドルの資金調達により、GlassAI技術の開発と展開が加速することは間違いありません。Qualcommがすでに昨年秋にAndroidデバイスでのデモンストレーションを行っていることから、実用化も近いと考えられます。Attar氏によれば、GlassAI技術を搭載した製品は2025年中に発表される見込みとのことです。
この技術が広く普及すれば、私たちの写真体験は大きく変わるでしょう。スマートフォンで撮影した写真がプロ用一眼レフカメラに匹敵する品質になれば、一般ユーザーとプロの写真家の間の垣根が低くなります。GVのパートナーであるErik Nordlander氏が述べるように、「誰もが写真家である時代において、Glass Imagingの技術はアマチュアユーザーとプロのクリエイターの間のギャップを埋め、イメージング分野の無限の可能性を広げている」のです。
テクノロジーの進化によって、私たちが日常的に使うデバイスの能力が飛躍的に向上する-GlassAIはまさにそのような革新的技術の一つと言えるでしょう。今後の展開に大いに期待が持てます。
【用語解説】
GlassAI:
Glass Imagingが開発するAI画像処理技術。レンズの収差やセンサーの欠陥を学習し、単一のニューラルネットワークで画像処理を行うことで、カメラの性能を最大10倍向上させることができる。
ISP(イメージシグナルプロセッサ):
カメラセンサーから取得した生データ(RAWデータ)を処理し、最終的な画像を生成するためのハードウェアやソフトウェア。従来のISPはノイズ除去、シャープニング、HDR処理などを個別のアルゴリズムとして順番に適用する。
レンズ収差:
レンズの物理的特性により生じる画像の歪みや色のにじみなどの問題。理想的なレンズでは一点から出た光は一点に集まるが、実際のレンズでは光が完全に一点に集まらず、画像がぼやけたり歪んだりする現象。
エッジAI:
クラウドではなく、デバイス自体でAI処理を行う技術。データをクラウドに送信せずに処理することで、レイテンシの削減やプライバシー保護が可能になる。スマートデバイス上でリアルタイム処理を実現する。
シリーズA:
スタートアップ企業の資金調達段階の一つ。シード段階の次に来る本格的な事業拡大のための資金調達。
【参考リンク】
Glass Imaging(外部):
AIを活用してカメラハードウェアから最大限の画質を引き出す技術を開発する企業。レンズ収差やセンサーの欠陥を修正し、スマートフォンからプロ用カメラまで幅広いデバイスの画質向上を実現している。
Insight Partners(外部):
グローバルなソフトウェア投資家として、高成長のテクノロジー、ソフトウェア、インターネットのスタートアップ企業に投資している。2024年9月時点で900億ドル以上の規制資産を運用し、800社以上に投資実績がある。
GV (Google Ventures)(外部):
2009年にGoogle Venturesとして設立されたGoogleの投資部門。北米とヨーロッパで400以上のアクティブなポートフォリオ企業を持ち、100億ドル以上の資産を運用している。
Future Ventures(外部):
エネルギー転換と社会の脱炭素化を加速させることをミッションとするスタートアップ企業を支援する投資会社。ヨーロッパ、イスラエル、アメリカで活動するスケール準備段階のスタートアップに投資している。