innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

AIによる税務革命:Filed社1720万ドル調達、AI財務ツールにより深刻な会計士不足に光明

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-22 17:36 by admin

AIスタートアップFiledが、シードおよびプレシードラウンドで合計1,720万ドルの資金調達を完了した。同社は、Northzone主導のもと、Day One Ventures、J Ventures、Raine、Neo、Greens Venturesといった投資家から支援を受けた。

同社CEO兼共同創設者のLeroy Kerry氏とCTOのAtul Ramachandran氏が立ち上げたFiledは、税務業界特化型のAI税務準備ツールを開発している。税務専門家の時間の最大40%を占める価値の低い反復作業(データ入力、文書収集、進捗追跡など)を自動化し、追加人員を雇うことなく税務申告処理を最大3倍高速化することを可能にする。

特筆すべきは、このソフトウェアが既存の税務ソフトウェアシステムに直接統合できる専門プラグインで構成されており、組織がシステムを一から再構築する必要がない点である。AIは24時間365日稼働し、過去の選択や設定、前年度のロジックを記憶して一貫性のある処理を行う。

実際の導入事例として、JCG Tax Advisory Inc.やJalada Inc.などの専門税務事務所ではレビューサイクルを30%から50%削減し、処理時間を一週間から一晩に短縮するケースが報告されている。Jalada共同創設者のBraedon Porter氏は、CPAの人数が減少したにも関わらず、チームが以前の4倍の税務申告を処理できるようになり、「現在のチームで1,000件の申告を楽に処理できる」と証言している。

この資金調達の背景には、米国の会計業界が深刻な人材不足に直面している現実がある。2016年以降、CPA試験受験者数が37%減少し、会計学部の卒業者数も18.2%減少している。現在働いている公認会計士の75%が今後15年以内に退職予定であり、業界全体で年間約136,400件の求人が発生すると予測されている。Filed社は今回の資金を活用して、税務業界のAIインフラ基盤となることを目指し、将来的には文書管理、監査準備、クライアント協業の分野にも展開予定である。

References:
文献リンクAI tax startup Filed bags $17.2M to turbocharge tax return processing | SiliconANGLE
文献リンクFiled raises $17M to automate the drudgery of tax prep | TechCrunch
文献リンクAI startup Filed raises $17m to supercharge tax firms’ capacity | Sifted
文献リンクThe Big CPA Shortage Problem in Accounting | Kiplinger
文献リンクAddressing the CPA Shortage with International Talent | The CPA Journal

【編集部解説】

今回のFiledによる資金調達は、AI技術を活用した税務業界の構造変革を象徴する事例として注目しています。特に重要なのは、同社のアプローチが単純な作業代替ではなく、既存システムとの統合と人間の専門性の向上を重視している点です。

税務作業者の負担がどの程度緩和されるのか

現在の税務専門家は、作業時間の最大40%を価値の低い反復作業に費やしていると言われています。これは、まさに医師が患者の診察よりも書類作成に多くの時間を割いているような状況です。Filed社のソリューションは、こうした「書類作業」を自動化することで、税務専門家が本来の専門性を活かした業務に集中できるようにします。

具体的な効果として、導入事務所では以下のような改善が報告されています。

  • 税務申告処理能力が3〜4倍向上
  • レビューサイクルが30-50%短縮
  • 処理時間が一週間から一晩に短縮
  • 小規模チーム(パートタイムCPA1名、準備担当1名)で1,000件の申告処理が可能

これにより、税務専門家はデータ入力や進捗管理といった単純作業から解放され、戦略的アドバイザリー業務、複雑な税務計画立案、クライアントとの関係構築により多くの時間を割けるようになります。

税務作業というお金が絡む問題をAIに任せても大丈夫なのか

お金に関わる税務作業をAIに任せることへの懸念は確かに存在しますが、重要なのは「完全な代替」ではなく「人間とAIの協働」という考え方です。

Filed社のシステムでは、以下のような安全性担保の仕組みが組み込まれています。

  • AIによる自動処理後、必ず人間による最終確認を実施
  • すべてのAIアクションが追跡可能で監査証跡を自動生成
  • 事務所固有のルールと閾値を学習し、一貫性のある判断を実行
  • 異常値や潜在的問題を自動的にフラグ付けして人間の注意を促す
  • 現役CPAによる継続的な監査とトレーニング

実際の精度について言えば、AI税務システムは従来の手動作業を上回ることが多く、人的ミスの削減という点でむしろ信頼性が向上します。これは、パイロットと自動操縦システムの関係に似ており、自動操縦が飛行の大部分を担当しますが、重要な判断や最終的な責任は常にパイロットが負っているのと同様です。

さらに、データセキュリティ面では、Filed社は米国のMicrosoft Azureサーバーでデータをホストし、顧客データでの学習は行わず、Section 7216コンプライアンスにも対応しています。

会計士の減少が問題となっているが、AIの導入によりその問題が解消されるのか

米国では会計士の高齢化と新規参入者の減少が深刻な問題となっています。具体的な数字として

  • CPA試験の受験者数が2016年から37%減少
  • 会計学修士号および学士号取得者の総数が2015-16年度以降で18.2%減少。
  • 現在働いている会計士の75%が今後15年で退職予定
  • 過去2年間で30万人以上の会計士・監査人が離職
  • 業界全体で年間約130,800件の求人が発生予定

この状況において、AIは「人を置き換える」のではなく「人の能力を増強する」役割を果たします。1人の会計士が従来の3〜4倍の業務をこなせるようになることで、業界全体の供給不足を緩和できる可能性があります。

特に重要なのは、AIの導入により以下のような好循環が生まれることです

  • 単調な作業の削減により、業務の魅力度が向上
  • 技術を活用した現代的な職場環境が若い世代にアピール
  • 重要度の高い業務への集中により、専門性と収入の向上
  • ワークライフバランスの改善により、離職率の低下

実際、Filed社を導入した事務所では、少ない人数でより多くの業務を処理できるようになり、既存スタッフの燃え尽き症候群の軽減も報告されています。これは、AIと人間が対立関係ではなく、補完関係を築くことで実現されています。

長期的には、AI支援により税務業界のイメージが刷新され、新たな人材の流入も期待できると考えられます。重要なのは、テクノロジーを恐れるのではなく、適切に活用して業界全体のサービス品質向上と持続可能性を実現することです。

【用語解説】

CPA(Certified Public Accountant)
米国の公認会計士資格。150時間の大学単位取得、厳格な4部構成の試験合格、実務経験を経て取得される専門資格で、税務申告書の作成や監査業務を行う権限を持つ。この高い参入障壁が現在の人材不足の主要因とされている。

シードラウンド・プレシードラウンド
スタートアップ企業の初期段階における資金調達。プレシードはアイデアや初期プロトタイプへの投資、シードはプロダクト開発や市場検証を目的とし、通常数百万から数千万ドル規模。Filed社は両方を合わせて1,720万ドルを調達した。

ジェネレーティブAI
大量のデータから学習し、新しいコンテンツを生成できる人工知能技術。税務分野では申告書の自動作成、異常値の検出、税務アドバイスの生成、文書の要約などに活用される。ChatGPTも同様の技術だが、Filed社は税務専門に特化している。

Section 7216
米国税法の条項で、税務準備者が顧客の税務情報を適切に保護することを義務付けている。Filed社はこのコンプライアンス要件に準拠し、顧客データでのAI学習は行わずプライバシーを保護している。

【参考リンク】

Filed公式サイト(外部)
AI税務準備ツールの詳細情報、顧客事例、デモンストレーション。税務事務所向けの具体的な機能説明とROI計算ツールも提供。

Northzone(外部)
Filed社のシードラウンドを主導したベンチャーキャピタルの公式サイト。ヨーロッパを拠点とするテクノロジー投資に特化した投資会社。

American Institute of CPAs(AICPA)(外部)
米国公認会計士協会。CPA資格、業界統計、人材不足に関する詳細データを提供。業界動向レポートや統計データの信頼できる情報源。

TaxGPT(外部)
税務専門家向けAIアシスタントサービス。Filed社の競合他社事例として参考になる。税務研究、メモ作成、監査支援機能を提供。

Black Ore(外部)
CPAを対象とした包括的なAI税務準備プラットフォーム。業界動向の理解に有用。SOC-2準拠のセキュリティ体制でエンタープライズ向けソリューションを提供。

U.S. Bureau of Labor Statistics – Accountants and Auditors(外部)
会計士・監査人の雇用統計、将来予測、給与データの公式情報源。米国政府による信頼性の高い労働市場データを提供。

Thomson Reuters Tax & Accounting(外部)
税務・会計業界向けAIソリューションとFuture of Professionals Reportの発行元。業界の将来予測と技術動向に関する権威ある情報源。

Wolters Kluwer Tax & Accounting(外部)
税務・会計業界向けAI技術とソリューションの大手プロバイダー。機械学習とジェネレーティブAIを活用した業務効率化ツールを開発。

【関連記事】

テクノロジーと経済ニュースをinnovatopiaでもっと読む

投稿者アバター
まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためること。
ホーム » AI(人工知能) » AI(人工知能)ニュース » AIによる税務革命:Filed社1720万ドル調達、AI財務ツールにより深刻な会計士不足に光明