電子船荷証券の商法改正案が国会へ、STANDAGEとDCPは書類と代金の同時決済を2028年度に

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貨物はもう港に着いているのに、紙の原本が届かないので引き取れない。国境を越える取引では、そんなことが今も起きています。10月23日、その紙に法律上の電子の代わりを作る法案が国会に提出されました。けれども、代金が書類とは別の道を通るかぎり、待ち時間はなくなりきりません。


電子船荷証券(eB/L)を法的に位置づける商法改正案が2026年10月23日に閣議決定され、STANDAGEとDCPは2027年度中の施行を見込む。両社は10月28日、商工中金の参加のもとで、決済一体型の貿易プラットフォームの共同検討を始めたと発表した。eB/Lと、商工中金が発行するトークン化預金「DCJPY」を連携させ、書類と代金を同時に決済する仕組みを検証する。

両社は背景に、紙の船荷証券を使う実務での代金の未回収リスクや郵送の遅れ、書類より先に貨物が着くことによるデマレージ(滞船料)の発生を挙げ、2028年度の商用化を目指す。STANDAGEは、この決済機能を自社の貿易プラットフォームに組み込む計画だ。

From: 文献リンクSTANDAGE、DCP、2028年度の商用化に向け決済一体型貿易プラットフォームの共同検討を開始

【編集部解説】

紙の原本が、貨物より遅れて届く

船荷証券(B/L)は、運送人が貨物を受け取ったことや船積みしたことを示し、その貨物の引き渡しを請求する権利を表す有価証券です。原則として、正当な所持人が原本を差し出し、それと引き換えに貨物を受け取ります。

信用状を使う決済などでは、この紙の原本が、輸出者から銀行を経由して輸入者へと、国境を越えて郵送されます。航路が短い場合、船のほうが先に着くこともあります。原本の到着を待つあいだに引き取りが遅れ、コンテナの無料保管期間を超えると、デマレージ(超過保管料)と呼ばれる追加の費用がかかります。リリースはこれを「滞船料」と表記しています。

リリースは、この紙のやり取りが、代金を回収できないリスクや郵送の時間とともに、中小・中堅企業の資金繰りを圧迫していると指摘しています。

商法改正案で「電子の原本」ができる

この紙を、法律の上でも電子に置き換える準備が進んでいます。

政府は10月23日、法務省が所管する「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出しました。要綱によれば、船荷証券に代わる電子の記録を「電子船荷証券記録」として新たに定義します。

要となるのは「支配」という考え方です。システムの上で、特定の人だけが権利を持つ者としてその記録を使える状態を「支配」と呼びます。法案は、次の権限者へ記録を「提供」する仕組みと、記録上の権利の譲渡に関する効力の要件を設け、紙の時代に原本の受け渡しが担っていた働きを、電子の世界で実現しようとしています。

電子化が一律に義務づけられるわけではありません。運送人または船長は、荷送人または傭船者の承諾を得て、電子船荷証券記録を提供できるとされています。紙の所持人や電子の記録を支配する権限を持つ人の承諾を得て、運送人または船長が紙と電子を相互に転換する制度も設けられます。倉庫に預けた物品の倉荷証券や、複数の輸送手段を使う複合運送証券にも、同様の電子の制度が作られます。

法案では、施行は一部を除き、公布から1年以内に政令で定める日とされています。リリースは2027年度中の施行を見込んでいます。

世界はすでに動いている

この改正は、国連のUNCITRALが2017年にまとめたモデル法(MLETR)に沿ったものです。

UNCITRALによれば、MLETRに基づく法律、またはその影響を受けた法律を採用したのは、13か国の計13法域に広がっています。法律を採択した年は、シンガポールが2021年、英国が2023年、フランスが2024年、中国が2025年(船荷証券のみ)です。日本は、ここに加わろうとしている段階です。

実務の側でも準備が進みます。2026年6月には、コンテナ海運の標準化団体DCSAが、異なるeB/Lの基盤どうしでeB/Lをやり取りするための規約を、CargoXを含む5つの基盤が採用したと発表しました。各基盤がこの規約を組み込んだ利用規約は、船主責任保険の国際組織であるIG P&Iの承認を受けています。今回STANDAGEが採用しているのが、このCargoXの基盤です。

書類が速くなっても、代金は別便のまま

ただ、書類が電子になっても、それだけでは貿易の手続きは速くなりきりません。

リリースが「最大のボトルネック」と呼ぶのは、書類と貨物の流れ(商流・物流)と、代金の流れ(金流)が分かれていることです。書類は一瞬で届くようになっても、代金はSWIFTなどを通じた従来の海外送金で、時間と手数料をかけて動きます。後払いなど、輸出者が代金を受け取る前に貨物や書類を渡す取引では、書類を電子化するだけでは未回収のリスクが残ります。

今回の構想は、eB/Lと、銀行が発行するトークン化預金「DCJPY」を、同時に入れ替える(DvP)ことで、この分断をなくそうとするものです。

リリースの図は、この違いを左右に並べています。左の「現在」では、銀行と銀行のあいだを書類が飛行機で運ばれ、書類の遅れや決済のずれが、デマレージや未回収のリスクを生んでいます。右の「今回の取り組み」では、輸出企業と輸入企業のあいだに貿易プラットフォームが入り、eB/Lとトークン化預金が「DvP決済」の線で結ばれています。

構想では、輸入企業がコンテナの動きに合わせて24時間いつでもオンラインで申請し、そのうえで、銀行による所定の確認を経て、eB/Lの権利の移転と決済を行える仕組みを目指しています。銀行の確認を工程に組み込んだうえで、書類と代金の移転を同期させる設計です。

2021年の実証から、制度の整備も前へ

STANDAGEにとって、書類と代金の同時移転は初めての挑戦ではありません。

2021年、STANDAGEは東京海上日動、NTTデータ、トレードワルツとともに、貿易プラットフォーム「TradeWaltz」と複数のブロックチェーンを連携させ、電子化した船荷証券と「デジタル通貨(または暗号資産)」を同時に移転できることを、約4か月の実証で確かめています。当時は、電子の船荷証券を紙と同じように扱う法律が日本にはありませんでした。

5年後の今回は、事情が違います。法案が国会に提出され、決済には銀行が発行する預金を使います。政府も、7月の「骨太の方針2026」で、オンチェーン金融の活用が見込まれる例の一つとして「貿易実務における書類管理」を挙げました。技術、制度、お金の3つが、同じ方向を向き始めたことになります。

普段の銀行が、入口になる

この構想で、中小・中堅企業にとって大きいのは入口の低さです。

リリースによれば、企業は大きなシステムを作ったり、経理の流れを変えたりする必要はなく、普段使っている金融機関を通じて、この仕組みを使えるとしています。リリースは、ほかの金融機関もDCPの基盤の上でトークン化預金を発行すれば、この貿易プラットフォームと連携できる設計だと説明しています。

商工中金も同日の発表で、限られた人員で貿易を担う企業にとって、煩雑な手続きが課題になっていると書いています。

ただし、今回はまだ共同検討の段階で、実証実験に向けた準備を進めているところです。DCJPYは円建てで、両社は将来的に海外送金ネットワークへの接続も見据えています。海外の取引先の利用条件や、対応する通貨・口座などの具体的な運用は、今回の資料では明らかにされていません。

「紙を待つ」時間が消えたあとに

貿易の世界は、何百年ものあいだ、紙の船荷証券の原本を受け渡してきました。その紙に、法律の上で電子の代わりが生まれようとしています。

紙が消えるだけなら、書類は速くなります。けれども、書類と代金の移転を同期できれば、その受け渡しの時間差から生まれる待ち時間やリスクを、さらに減らせる可能性があります。

2028年度の商用化に向けた実証で、どの銀行が加わり、どの航路の取引から使われ始めるのか。紙を前提に組まれてきた貿易の段取りが、どこから組み替わっていくのかを見ていきたいと思います。

【関連記事】

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【編集部後記】

紙の原本を待てない現場は、これまでも工夫を重ねてきました。B/Lの原本を船積み地で船会社に返し、輸入地で原本なしに貨物を引き取るサレンダードB/Lもその一つです。

ジェトロの相談窓口は、この方式には法的な裏付けがないと説明しています。法律より先に、実務のほうが紙を迂回していたことになります。今回の改正案は、紙を迂回するのではなく、紙の原本が担ってきた役割そのものを電子で引き受けられるようにする試みとも読めます。


【用語解説】

船荷証券(B/L)
運送人が貨物を受け取ったことや船積みしたことを示し、その貨物の引き渡しを請求する権利を表す有価証券。英語のBill of Ladingの略でB/Lと呼ぶ。

電子船荷証券記録
改正案で新たに定義される、船荷証券に代わる電子の記録。改ざんの有無を確かめられるなど、法務省令で定める措置がとられたシステムで作られ、管理される。

支配(電子船荷証券記録の支配)
システムの上で、特定の人だけが権利を持つ者として電子船荷証券記録を使える状態。紙の船荷証券でいえば、原本を持っている状態にあたる。

倉荷証券
倉庫営業者が、預かった物品の引き渡しを請求する権利を表す有価証券。改正案では、電子倉荷証券記録の制度も作られる。

複合運送証券
船と鉄道、トラックなど複数の輸送手段を組み合わせて運ぶ物品について発行される証券。改正案では、電子の制度も作られる。

デマレージ
陸揚げされたコンテナを、無料保管期間を過ぎても引き取らずにコンテナヤードに置いたときにかかる超過保管料。

信用状
輸入者の取引銀行が、条件に合った書類が出されることを条件に、輸出者への支払いを確約する仕組み。L/Cとも呼ばれる。

MLETR
国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)が2017年に採択した「電子的移転可能記録に関するモデル法」。船荷証券などを電子でも紙と同じように扱えるようにするための、ひな形の法律である。

IG P&I(国際P&Iグループ)
船主の賠償責任などを補償するP&I保険を引き受ける組合の国際的な連合。eB/Lの基盤の利用規約を審査・承認している。

トークン化預金
銀行預金を、ブロックチェーン上で移転できる形にしたもの。中身は銀行の預金のままである。

DvP
Delivery versus Paymentの略。渡すものと代金を同時に入れ替える決済の方式。

SWIFT
世界の金融機関が国際送金などの通知に使う通信網を運営する協同組合。海外送金の多くが、この通信網を通じて行われる。

【参考リンク】

商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案(法務省)(外部)
法務省の法案ページ。2026年10月23日の国会提出日のほか、法律案要綱、法律案・理由、新旧対照条文のPDFを掲載している。

STANDAGE(スタンデージ)|貿易をもっと自由に簡単に(外部)
中堅・中小企業の輸出支援と、デジタル貿易プラットフォーム「デジトラッド」を手がける。決済機能の「デジトラッドペイメント」も展開する。

DCP|トークン化預金プラットフォーム(外部)
トークン化預金「DCJPY」の基盤を提供する株式会社DCPのサイト。2026年7月にディーカレットホールディングスから商号を変更した。

商工中金(外部)
中小企業の金融を担う株式会社商工組合中央金庫のサイト。今回の構想で使うトークン化預金「DCJPY」の発行を担う金融機関である。

CargoX(外部)
電子船荷証券の管理・移転の基盤を提供する事業者。STANDAGEが採用し、DCSAの相互運用の規約を採用した5つの基盤の一つである。

UNCITRAL Model Law on Electronic Transferable Records (2017)(外部)
国連国際商取引法委員会によるMLETRの紹介ページ。モデル法の本文と解説のほか、各国が採用した法律の一覧へのリンクがある。

Digital Container Shipping Association (DCSA)(外部)
コンテナ海運の大手が設立した非営利団体。データの標準化を進め、電子船荷証券の基盤どうしでeB/Lをやり取りする規約も作っている。

【参考記事】

商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案要綱(外部)
電子船荷証券記録の定義、「支配」と「提供」の仕組み、紙との転換、倉荷証券と複合運送証券への拡大、施行期日を示した法務省の要綱。

電子船荷証券(eB/L)とトークン化預金を活用した同時決済の実現に向け共同検討を開始(外部)
商工中金の同日の発表。限られた人員で貿易を担う中小・中堅企業の課題を挙げ、今回の取り組みを実証実験に向けた準備の段階と位置づけている。

新たな貿易決済の仕組みの実現に向けた実証実験を実施(外部)
NTTデータの2021年12月の発表。約4か月の実証で、電子化した船荷証券とデジタル通貨(または暗号資産)の同時移転を確認した。

Five eBL Platforms Adopt DCSA Interoperability Annex(外部)
2026年6月のDCSAの発表。CargoXなど5つのeB/L基盤が、IG P&Iの承認を受けた相互運用の規約を採用したと公表した。

コンテナのデマレージとディテンション・チャージとの違い:日本(外部)
ジェトロの貿易・投資相談Q&A。デマレージをコンテナヤードでの超過保管料、ディテンションを返却延滞料と区別して説明している。

輸出代金のL/C決済におけるB/L直送要求:日本(外部)
ジェトロの貿易・投資相談Q&A。貨物がB/Lより先に着く問題と、保証状やサレンダードB/Lによる対応とそのリスクを説明している。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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