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Red Eléctrica・スペイン大停電2025:再生可能エネルギー時代の電力網リスクと教訓

Red Eléctrica・スペイン大停電2025:再生可能エネルギー時代の電力網リスクと教訓 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-02 10:25 by admin

2025年4月28日12時33分(中央ヨーロッパ夏時間)、スペインとポルトガル全土、アンドラ、南フランスの一部で大規模な停電が発生した。

スペイン国内で消費されていた電力の約60%に相当する15ギガワットが、わずか5秒で失われたことが主な原因とされている。

この影響で、スペインとフランス間の電力網接続も断たれ、イベリア半島全域の約6000万人に影響を及ぼし、鉄道、空港、通信網、病院などで大きな混乱が生じた。また、この停電の影響でスペイン国内で7人の死亡が確認された。

停電は翌29日朝までにほぼ全域(99%)で復旧したが、原因は依然として特定されていない。スペインの送電網運営会社レッド・エレクトリカ(Red Eléctrica)は、サイバー攻撃や人為的ミス、異常気象の可能性を否定し、「2つの発電切断」が引き金となった可能性を示唆している。

この事象は南西部エクストレマドゥーラ地方で発生し、太陽光発電設備に関連している可能性があるとされている。

停電発生時、スペインの電力構成は太陽光が59%、風力が約12%、原子力が11%、ガス火力が5%だった。わずか5分間で太陽光発電量が18GWから8GWへと半減したことも報告されている。専門家は「機械的慣性」の不足が停電拡大の一因となった可能性を指摘しているが、スペイン首相のペドロ・サンチェス氏は再生可能エネルギーへの依存が主因であるとの見方を否定している。

スペイン政府と欧州委員会は、今回の停電原因について調査を進めている。

from:What Caused the European Power Outage?

【編集部解説】

今回のイベリア半島大規模停電は、再生可能エネルギー時代の電力インフラが直面する新たな課題を浮き彫りにした。

技術的には、スペインとフランスを結ぶ送電線の障害を発端とした「系統の同期喪失」が発生し、イベリア半島の電力網が欧州大陸系統から孤立したことが最初のトリガーと考えられている。その後、再生可能エネルギー比率が非常に高い状態で「機械的慣性」が著しく低下していたことが、急激な周波数低下と需給バランス崩壊を招き、全域停電へと至った。

再生可能エネルギーは、太陽光や風力のように発電量が天候や時間帯で大きく変動しやすく、従来の火力・水力発電のような「同期発電機」が持つ慣性(インフラの安定性を支える回転エネルギー)を持たない。停電時、スペインの電力供給の約59%が太陽光発電によるもので、5分間で18GWから8GWへと半減した。このような大規模な出力変動を吸収する仕組みが十分でなかったことが、ブラックアウトの拡大要因となった。

ただし、再生可能エネルギー自体が停電の直接原因ではないという見方も強い。スペインのエネルギーシンクタンク「Fundacion Renovables」は、再生可能エネルギー発電所の切断は周波数変動の「結果であり原因ではない」と指摘している。実際、停電からの復旧過程では、太陽光、風力、水力発電が先に復旧し、原子力やガス、石炭火力はオフラインのままだったというデータもある。

イベリア半島の電力系統はピレネー山脈という地理的障壁により他国との連系能力が設置容量の3%と極めて低く、EU目標の15%を大きく下回っている。この国際連系の弱さが、局所的な問題が全域停電に発展した一因と考えられる。

今後は、再生可能エネルギーの変動を吸収するための大規模蓄電池や揚水発電の拡充、「仮想慣性」や周波数安定化装置の導入、国際連系線の強化など、複合的な対策が必須となる。

この事例は、エネルギー転換期におけるインフラ設計の根本的な見直しと、システム全体の「レジリエンス(回復力)」強化の必要性を示している。

【用語解説】

再生可能エネルギー(Renewable Energy)
太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、自然界に存在し、枯渇せずに繰り返し利用できるエネルギー。CO2排出が少なく、持続可能な電源。

機械的慣性(Mechanical Inertia)
発電所の大型回転機械(同期発電機)が持つ、回転運動によるエネルギーの蓄積。電力系統の周波数変動を緩和し、急な需要や供給の変動時にショックアブソーバーの役割を果たす。大きなコマが回っている状態をイメージすると分かりやすい。

同期発電機(Synchronous Generator)
発電所で使われる大型の回転式発電機。電力系統の周波数と同期しながら発電し、機械的慣性を提供する。

インバーター(Inverter)
直流(DC)を交流(AC)に変換する電力変換装置。再生可能エネルギー(特に太陽光や風力)で発電した電気を電力系統に接続する際に用いられるが、同期発電機のような慣性は持たない。

国際連系線(Interconnection)
国境を越えて電力を融通するための送電線。今回の停電ではスペインとフランスの連系線が話題となった。

【参考リンク】

Red Eléctrica de España(REE)(外部)
 スペインの送電網を一元管理し、電力の安定供給と再生可能エネルギーの導入を推進する企業。

ENTSO-E(欧州送電系統運用者ネットワーク)(外部) 
 欧州の送電系統運用者を統括する組織。今回の停電に関する公式声明を発表。

Fundacion Renovables(再生可能財団)(外部) 
 スペインのエネルギーシンクタンク。再生可能エネルギーの普及促進と政策提言を行う。

【参考動画】

【編集部後記】

今回の停電は、再生可能エネルギーの普及が進む中で私たちが直面する新たな課題も浮き彫りにしました。太陽光や風力などのクリーンな電力は持続可能な社会に不可欠ですが、一方で「機械的慣性」が不足しやすく、急な需給変動や系統トラブルに弱いという弱点もあります。再エネの長所だけでなく、こうしたリスクや課題についても知っておくことが、これからのエネルギー選択を考えるうえで大切かもしれません。みなさんは、電力の安定供給と持続可能性、どちらをより重視したいと思いますか?

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TaTsu
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