ソフトバンク、空飛ぶ基地局HAPSが日本上空でスマホ通信に初成功

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米国から13日かけて飛んできた機体が、高知県沖の成層圏にとどまり、地上のスマホとつながりました。ソフトバンクとSceyeは「日本初」「世界初」と発表していますが、その範囲は注釈で丁寧に限定されています。どこまでが実際に確かめられたのかを、原典に沿って整理します。


ソフトバンクとSceyeは2026年9月2日、成層圏を飛ぶHAPSによる試験サービスの提供に成功したと発表した。SceyeのLTA型HAPSは8月9日午後10時(日本時間)に米ニューメキシコ州を出発し、太平洋上空を約13日間、1万5,000km以上飛行して8月23日午前7時11分に日本上空へ到達した。

高知県室戸岬沖の上空で半径最小5km以内に位置を保持しながら、ソフトバンクのコアネットワークに接続し、4G LTE相当の基地局を介した音声通話や大容量データ通信、緊急速報メールシステム、海上保安庁協力の118番緊急通報、ドローンとの通信を確認した。

HAPSに搭載したサーバーの応答処理時間は往復平均68ミリ秒で、クラウド処理と比べ遅延を40%以上低減した。両社は2027年以降の商用化を目指す。

From: 文献リンク日本初、「空飛ぶ基地局」HAPSの商用化に向けた試験サービスの提供に成功

【編集部解説】

「空飛ぶ基地局」という言葉は、ここ数年で何度も見出しに載ってきました。今回それが一段進んだのは、機体が飛んだからでも、電波が届いたからでもありません。米国から日本まで自力で飛来した機体が、日本の管制空域のなかで、ソフトバンクのコアネットワークに実際につながったからです。

ソフトバンクとSceyeは、この一連の運用を「試験サービス」と呼んでいます。2025年6月に両社が提携を発表したときの呼称は「プレ商用サービス」でした。2026年7月の説明会では両方が併記され、今回のリリースでは「試験サービス」に統一されています。期間もエリアも端末も限定した運用であり、商用化の目標は2027年以降。言葉が控えめな方向に整えられていったこと自体が、この技術がいまどの地点にあるかを正確に示しています。

Sceyeにとって、成層圏を長距離・長期間飛べるかどうかを確かめる段階は、越えつつあります。機体は8月9日午後10時(日本時間)に米ニューメキシコ州ロズウェルを発ち、太平洋上空を約13日かけて1万5,000km以上飛び、8月23日午前7時11分に日本上空へ到達しました。日本での試験を終えたあとは米国へ向けて折り返し、9月2日の発表時点でも太平洋上を飛び続けていました。太平洋を渡って戻る運用能力の確認が、復路まで進んだというのが今回の大きな変化です。

Sceye側の発表によれば、ST1と名付けられたこの機体は日本の管制空域内に7日以上とどまり、運用高度はおよそ16.5kmでした。HAPSは一般に「高度約20kmの成層圏」と説明されることが多く、ソフトバンクの日本語リリースは機体の高度に触れていません。今回の運用高度は、Sceye側の資料でのみ確認できます。

ちなみに、ITUの無線通信規則がHAPS局として定義しているのは、高度20〜50kmに位置する物体上の局です。一方、Sceyeが自社のHAPSと呼ぶST1について発表された今回の運用高度は、約16.5kmでした。制度上のHAPS局の高度要件と、企業がHAPSと呼ぶ機体の今回の運用高度は一致していません。今後この分野が免許や周波数の話に進むとき、「機体としてのHAPS」と「無線通信規則上のHAPS局」は分けて見る必要があります。

滞空の精度も具体的です。指定された試験エリアで、長時間にわたり半径最小5km以内に位置を保ちました。「最小」という限定と、その精度がどれだけ続いたかが公表されていないことは押さえたうえで、災害時に特定の被災地の上空へとどまり続けるという用途を、具体的な数字で検討できるところまで来ています。

「日本初」と「世界初」が指している範囲

リリースには2つの「初」があります。読むときに注意したいのは、本文の書き方と注釈の定義で範囲が違うことです。

本文は「日本上空を飛行するHAPSによる通信試験に成功したのは、国内で初めて」と書いています。一方、注釈の※2はもう少し狭く、「HAPSからスマホおよびドローンの通信試験に成功したのは日本初」と定義しています。世界初とされる※3はさらに限定的で、「HAPS上にモバイルコアとウェブサーバーを搭載し、スマホからの通信を地上ネットワークを経由せずにHAPS内で応答処理し、その結果をスマホへ返す試験」を指します。いずれも2026年8月23日時点の公開情報に基づくソフトバンクの調べです。

つまり、これは「HAPSでエッジコンピューティングをやったのが世界初」ではありません。成層圏の機体の上で、モバイルコアからウェブ応答までを完結させたのが世界初です。この違いは細かく見えて、実は今回の核心そのものを指しています。

68ミリ秒が意味していること

HAPSに処理サーバーを積んだ検証では、応答処理時間が往復平均68ミリ秒でした。インターネット経由でクラウドに投げる場合と比べ、遅延を40%以上減らせたとしています。比較対象となったクラウドの所在や条件は公表されていないため、この40%はソフトバンクが示した条件下での数字として読むのが正確です。

それでも、この検証が置かれている文脈ははっきりしています。ソフトバンクが挙げているのはフィジカルAI、つまりロボットがセンサーやカメラの情報をAIで解析し、その判断で動く領域です。ここでは処理の往復時間が、動作の応答性や制御の質を左右する要素のひとつになります。

広いエリアを一度にカバーできることと、遅延が小さいことは、地上の設備では両立しにくい組み合わせです。地上基地局は低遅延ですがカバー範囲が狭く、静止衛星は広域ですが距離ゆえに遅延が大きい。成層圏はその中間にあり、静止衛星のおよそ1,800分の1という近さで、なおかつ広域を見通せます。処理機能をその高さに置いたのが今回の検証です。

なお、Sceyeは全面展開時に1機で地上基地局およそ500基相当のエリアをカバーする設計だとしています。これは設計値であって今回の実測ではありませんが、成層圏に置くことの経済的な意味はこの数字に集約されています。

なぜ室戸だったのか

試験エリアに選ばれたのは高知県室戸市周辺の上空、室戸岬沖でした。南海トラフ地震などの大規模災害を想定した場所です。高知県では今回の試験に向けて地上ゲートウェイの設置準備が進められており、実際の通信試験も地上ゲートウェイを介して行われました。

確認された内容も、災害時の通信を具体的に想定したものでした。緊急地震速報や津波警報を配信する緊急速報メールシステムに加え、海上保安庁の協力の下で118番緊急通報が音声通話で通ることを確かめています。緊急地震速報や津波警報が届き、助けを呼べる。通信インフラの復旧という話をするとき、まず必要なのはこの2つです。

搭載されたのは4G LTE相当の基地局で、地上ゲートウェイを介してコアネットワークにつながりました。動画視聴やビデオ通話も安定して行え、地上基地局との電波干渉を抑えながら地上と同等の通信性能が出たとしています。5Gではないことを物足りなく感じる向きもあるかもしれませんが、被災地でまず求められるのは最新規格ではなく、確実につながる回線です。

空にも基地局を向ける

もうひとつの試験が、HAPSとドローンの通信でした。HAPSの通信環境下でドローンを遠隔から自動飛行させ、飛行制御、位置情報の送信、映像伝送を安定して行えることを確認しています。

多くの地上基地局は、地上の利用者を効率よくカバーするため、アンテナの主ビームを下向きに設計しています。上空にもサイドローブなどで電波が届くことはありますが、安定した上空通信を前提とした構成ではありません。成層圏から見下ろす形なら、地表もその上空も同じ視野に入ります。ソフトバンクが「3次元通信ネットワーク」と呼ぶのはこの構図です。

今回は、1機のHAPSで地上のスマホとの通信と、上空を飛ぶドローンとの通信を、それぞれ確認しました。目指されているのは、被災地の上空に1機を置けば、地上の人と空の機械の両方を支えられる状態です。被害状況の把握、物資輸送、インフラ点検、山林の監視といった用途が並べられていますが、いずれも「人が入れない場所に、機械を先に送る」という同じ形をしています。

成層圏という「層」

料金も提供条件も、まだ何も示されていません。商用化は2027年以降とだけ告げられており、期間・エリア・端末の限定がどこまで外れるかもこれからです。運用方法の整備と通信品質の向上を進めるというのが、両社が自ら挙げている次の宿題です。

それでも、この半年の進み方は速い。2026年3月にはSceyeの別の機体がニューメキシコからブラジル沖まで1万km超を12日以上かけて飛び、複数の選定地点で合計88時間以上にわたり位置と高度を保ちました。その飛行中に記録した位置保持半径は、最小で1kmです。その延長線上に今回の太平洋横断があり、次は日本での商用化が置かれています。

宮川潤一CEOは、地上と上空、宇宙がシームレスにつながるインフラを目指すと述べています。衛星は宇宙から、基地局は地上から。そのあいだにぽっかり空いていた高度20km前後の帯が、今回はじめて日本の通信網の一部として実際に使われました。インフラの層がひとつ増えた、という言い方が、たぶんいちばん正確です。

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【編集部後記】

Sceyeのリリースをさかのぼると、2024年に完了したプログラムの説明で手が止まりました。成層圏で昼夜の一巡を電力を切らさずに越え、同じエリアの上にとどまり続ける。同社はこれを「パワーループを閉じた」と表現しています。

飛ぶことより、夜を越えることのほうが難しい。昼に太陽電池で貯めた電力で夜を持たせ、朝また日を浴びる。この輪が一度も切れないという条件が満たされて初めて、成層圏は通りすぎる場所ではなく、居られる場所になります。今回の13日間は、その輪が13回続いたということでもあります。


【用語解説】

HAPS(High Altitude Platform Station)
成層圏に機体を滞空させ、そこから地上へ直接通信サービスを提供する仕組み。「空飛ぶ基地局」とも呼ばれる。ITUの無線通信規則では、高度20〜50kmに位置する物体上の局として定義されている。

LTA型(Lighter Than Air)
空気より軽いガスの浮力で浮上し、飛行を維持するHAPS。飛行船に近い形態で、翼と推進力で飛ぶHTA型(Heavier Than Air)と対になる。重いペイロードを長期間積める点が特徴。

ST1(Service Test 1)
今回日本上空へ飛来したSceyeの機体、およびそのミッション名。同社のService Test Programの第1弾にあたる。

コアネットワーク
携帯電話網の中枢。基地局から届いた通信を受け、認証、課金、通話やデータの経路制御を担う。基地局が「窓口」なら、こちらは「本部」にあたる。

モバイルコア
コアネットワークの機能をまとめたソフトウェア群。通常は地上のデータセンターに置かれる。今回はこれをHAPSに搭載した点が「世界初」とされている。

地上ゲートウェイ
上空の機体と地上のネットワークをつなぐ中継設備。HAPSが受けた通信は、ここを経由してコアネットワークへ渡される。

4G LTE
第4世代の携帯通信規格。5Gの一世代前にあたり、日本国内で最も広く使われている。

エッジコンピューティング
データを遠くのクラウドへ送らず、発生源に近い場所で処理する考え方。今回はその「近い場所」が成層圏の機体上だった点が通常と異なる。

フィジカルAI
ロボットのセンサーやカメラ、外部システムから得た情報をAIが解析・判断し、その結果に基づいてロボットが柔軟で複雑な動きをする技術。

3次元通信ネットワーク
地上だけでなく、上空を飛ぶドローンなどのモビリティも含めて空間全体をカバーする通信網。従来の地上網が地表を覆う「2次元」であるのに対する呼び方。

サイドローブ
アンテナが主に電波を放つ方向(主ビーム)以外に漏れ出る放射。設計上の主目的ではないが、条件によっては通信が成立することがある。

緊急速報メールシステム
緊急地震速報や津波警報などを、基地局から圏内の端末へ一斉に配信する仕組み。個別のあて先を持たず、エリア単位で送られる。

118番
海上における事件・事故の緊急通報用電話番号。海上保安庁が運用しており、110番・119番と同じく緊急通信として扱われる。

南海トラフ地震
駿河湾から日向灘沖にかけての海底の溝(南海トラフ)沿いで想定される大規模地震。高知県沿岸は津波の影響が大きいとされる地域にあたる。

【参考リンク】

成層圏通信プラットフォーム「HAPS」|ソフトバンク(外部)
ソフトバンクのHAPS特設ページ。技術の概要に加え、HAPSアライアンスでの活動や6GとNTNに関する白書も掲載している。

Sceye(外部)
米国ニューメキシコ州に本社を置く航空宇宙・材料科学企業の公式サイト。機体開発からペイロード、運用までを一貫して手がける。

海の「事件・事故」は118番|海上保安庁(外部)
118番の運用について海上保安庁が説明する公式ページ。通報時に伝えるべき内容や、NET118というサービスの案内も掲載されている。

HAPS – High-altitude platform systems|ITU(外部)
国際電気通信連合によるHAPSの解説ページ。無線通信規則上の定義と、周波数をめぐる国際的な検討の経緯をまとめて紹介している。

【参考記事】

Sceye and SoftBank Corp. Complete Stratospheric Connectivity Demonstration in Japan, Advancing Towards HAPS Commercialization(外部)
Sceye側の発表。ミッション名ST1、ペイロード名SceyeCELL、運用高度約16.5kmなど日本語版にない数値を示す。

Sceye Completes Historic 12-Day, 6,400 Mile Stratospheric Flight, Advancing a New Layer of Infrastructure for Humanity(外部)
Endurance Programの完了報告。SE2が12日以上・6,400マイル超を飛行し、位置保持半径は最小1kmを記録した。

「空飛ぶ基地局」のHAPS、2026年に日本でプレ商用サービス開始(外部)
Sceyeへの出資と日本国内での独占契約を伝えるリリース。当時の呼称は「プレ商用サービス」で、開始時期は2026年とされていた。

空飛ぶ基地局「HAPS」がいよいよ日本上空へ。実用化に向けて試験サービスを実施(外部)
2026年7月23日の説明会をまとめた記事。機体・通信・地上設備の準備状況を伝え、試験サービスの位置づけを詳しく説明している。

“空飛ぶ基地局”HAPSの試験サービスを8月開始、ソフトバンクが準備状況を発表(外部)
上村征幸統括部長による説明会の詳報。同じ場所にとどまり続ける定点保持の技術が、災害時の通信確保で鍵になると位置づけている。

ソフトバンク、空飛ぶ基地局「HAPS」とスマホの通信に国内で初成功 27年以降商用化(外部)
今回の発表を伝えた記事。68ミリ秒という応答時間と40%の遅延低減、モバイルコアとWebサーバーの搭載を簡潔に整理している。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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