「なんとなく良さそう」から「何が変わるか」へ|生食ドッグフードHUGBOX、腸内細菌研究で特許出願

愛犬の「体の変化」は、腸で起きていたのかもしれません。国内の生食ドッグフードブランドが、飼い主の実感を腸内細菌叢というデータで見ようとする試みを始めています。


6月5日、生食ドッグフードの製造・販売を行う株式会社ハグオールは、畜肉の生肉を有効成分として含有する腸内細菌叢改善用ペットフードに関する特許を出願した。

出願した特許は、鶏、馬、羊などの畜肉の生肉を主原料とし、犬や猫の腸内細菌叢の改善を目指すペットフードに関するものだ。骨や内臓を含む構成も可能とし、野菜・果物類、植物由来油脂、食酢などを組み合わせることで、日常的に取り入れやすい設計を想定している。

研究の焦点は、腸管免疫や炎症性腸疾患との関連が報告されているSutterella属細菌の相対存在量の変化にある。実施例において、生肉を含むペットフードの摂取前後で腸内細菌叢を解析した結果、同細菌の有意な減少が確認された。飼い主による評価では、排便状態や口腔内状態の改善、ストレス関連行動の改善や落ち着きの向上も示唆されている。

今回の研究成果は、2026年7月12日に日本獣医生命科学大学で開催される日本ペット栄養学会第27回定例大会で発表予定だ。

From: 文献リンク生食ドッグフード「HUGBOX」を展開するハグオール 腸内細菌叢改善用ペットフードに関する特許を出願|PR TIMES

【編集部解説】

ペットの食事をめぐる議論に、少しずつ変化が起きています。「体に良さそう」「食いつきが変わった」という飼い主の実感を、腸内細菌叢という測定可能な指標で見ようとする動きです。今回の特許出願は、その流れの中に位置しています。

今回の出願が「注目に値する」理由

今回ハグオールとバイオシスラボが出願した特許の核心は、非加熱の畜肉を含むペットフードを摂取させることで、犬・猫の腸内に存在するSutterella属細菌の相対存在量が有意に減少した、という観察にあります。

Sutterella属は、腸管免疫への関与や炎症性腸疾患との関連が報告されている細菌群です。PLoS ONE誌(2012年)に掲載された犬の腸内細菌叢に関する研究では、急性出血性下痢を発症した犬において、健常犬と比較してSutterella属の割合が有意に上昇していることが確認されています。この細菌群と消化器疾患の関係は、複数の論文で繰り返し観察されており、今回の特許が「どの指標を見るか」について一定の根拠を持って選んでいることは読み取れます。

バイオシスラボは、藤田医科大学公認のプレバイオティクス・プロバイオティクス啓発ベンチャーとして、腸内細菌研究の知見を産業応用する活動を行っています。生食ペットフードの実態に精通した事業会社と、腸内細菌研究の専門機関が共同で臨床評価を設計したという点は、今回の取り組みの背景として重要です。

「特許出願」と「効果の証明」は別の話

ここで注意が必要な点があります。特許出願は、発明の内容を権利化するための手続きです。「科学的に効果が証明された」とは異なります。

今回プレスリリースに記載されている実施例の結果(Sutterella属の有意な減少、飼い主による行動・排便状態の改善評価)は、特許の技術的根拠として示されたものです。まだ査読付き論文として発表されたわけではなく、試験の規模・対象犬数・実施プロトコルの詳細も現時点では公開されていません。研究成果は2026年7月12日に日本ペット栄養学会第27回定例大会で発表予定とされており、その場でより詳細な内容が示される見込みです。

生食(ローフード・BARF)と腸内細菌叢の変化については、国際的にも複数の研究が進んでいます。生食を与えた犬と市販食を与えた犬で腸内細菌叢の組成が異なることはいくつかの研究で示されていますが、「どの変化が健康に有益か」については、現時点で一致した結論はありません。また、生食には衛生管理上のリスクや栄養バランスの問題も指摘されており、これらは今後も向き合うべき課題です。ハグオールの代表自身も、その点をプレスリリースの中で明示しています。

「体感」に科学の目を向けようとしていること、その意味

生食ドッグフード市場では長らく、飼い主の実感が主な判断基準になってきました。毛ヅヤが変わった、便の状態が安定した、食いつきが良くなった。それらは飼い主にとって強いリアリティを持つ観察ですが、「再現性があるか」「他の要因ではないか」という問いには答えられません。

今回の取り組みは、その体感を腸内細菌叢という測定可能な軸で見ようとした試みです。結論が出たというよりも、「問いを立て、測定の仕組みを作り、データを得た」という段階です。それ自体は、国内の生食ペットフード領域においてこれまで少なかった取り組みであり、今後の学会発表と、そこから始まるであろう議論に注目する価値があります。

愛犬・愛猫の健康を食事から考えようとする飼い主にとって、「なんとなく良さそう」から「何がどう変わるのかを問う」視点への移行は、小さいようで重要な変化です。その問いの先に何があるのかは、まだこれからの話です。

【用語解説】

腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)/ マイクロバイオーム
腸内に生息する細菌・ウイルス・真菌などの微生物の集合体。消化・栄養吸収・免疫調節に深く関わり、そのバランスの乱れ(ディスバイオシス)が消化器疾患や免疫機能の低下と関連することが多くの研究で示されている。

Sutterella属(サテレラ属)
β-プロテオバクテリア綱に属する腸内細菌の一群。腸管免疫への影響が研究されており、犬の急性出血性下痢(AHD)や炎症性腸疾患(IBD)を発症した個体で相対存在量が上昇することが複数の研究で観察されている。

ローフード / 生食(Raw Food Diet)
非加熱の生肉・骨・内臓・野菜などを主原料とするペットフードの総称。BARF(Bones and Raw Food)とも呼ばれる。素材の栄養や水分をそのまま摂取しやすい点を特長とする一方、衛生管理や栄養バランスへの注意が必要とされる。

【参考リンク】

HUGBOX(ハグボックス)公式サイト(外部)
ハグオールが展開する生食ドッグフードブランド。主力商品「ハグボックスブレンド」の詳細・購入方法・ローフードに関する情報を発信。

株式会社バイオシスラボ(外部)
藤田医科大学公認のプレバイオティクス・プロバイオティクス啓発ベンチャー。腸内細菌研究の産業応用を推進し、複数の企業と共同プロジェクトを展開。

日本ペット栄養学会(外部)
ペットの栄養・食品に関する学術研究の発表・情報交換を行う学会。毎年定例大会を開催し、研究者・獣医師・食品メーカーなどが参加する。

【参考記事】

The Fecal Microbiome in Dogs with Acute Diarrhea and Idiopathic Inflammatory Bowel Disease|PLOS ONE(2012年)(外部)
健常犬・急性下痢犬・IBD犬の腸内細菌叢を比較した査読論文。急性出血性下痢の犬でSutterella属が有意に上昇することを示した研究として引用頻度が高い。

The fecal microbiome and metabolome differs between dogs fed BARF diets and dogs fed commercial diets|PLOS ONE(2018年)(外部)
生食(BARF)を与えた犬と市販食を与えた犬の腸内細菌叢・代謝物の違いを比較した査読論文。食事の違いが腸内環境の組成に影響を与えることを示す。

【関連記事】

IFFが犬専用プロバイオティクス「PureStrong」発表|「転用」から「犬由来」へ、犬向け腸活の最前線
犬の腸内環境への科学的アプローチは、食事の側からだけでなく、サプリメント・プロバイオティクスの側からも進んでいます。国際的な動向については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

【編集部後記】

生食か、加熱加工食か。この問いは、ペットフードをめぐる議論の入口に過ぎないのかもしれません。私たちは、伴侶動物の健康を「どう測るか」という問い自体を、もう少し丁寧に考えてみたいと思います。

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りょうとく
趣味でデジタルイラスト、Live2Dモデル、3Dモデル、動画編集などの経験があります。最近は文章生成AIからインスピレーションを得るために毎日のようにネタを投げかけたり、画像生成AIをお絵描きに都合よく利用できないかを模索中。AIがどれだけ人の生活を豊かにするかに期待しながら、その未来のために人が守らなけらばならない法律や倫理、AI時代の創作の在り方に注目しています。