Last Updated on 2025-05-14 15:37 by admin
2025年5月13日(現地時間、米国太平洋夏時間)、日本時間2025年5月13日16時、Appleは自社の混合現実プラットフォームvisionOSで脳–コンピュータ・インターフェース(BCI)デバイスのサポートを「今年後半」に追加すると発表した。対応するのは米Synchron社の永久埋め込み型BCI「Stentrode」で、新たに導入されるBCI用HIDプロトコルを通じ、iOS/iPadOS/visionOSの“Switch Control”機能から操作を有効化する仕様である。
Stentrodeは2019年にFDA(米食品医薬品局)の調査用医療機器として臨床試験を開始した世界初の非開頭手術型BCIで、頸静脈経由のカテーテル挿入によりこれまでに10名が埋め込みを受けている。2024年8月にはALS患者を対象に非公式デモが実施され、視線による要素選択と「思考」によるクリック動作を組み合わせた操作が成功した。今年初めにはSynchronがNVIDIAと協力し、別のALS患者がApple Vision Proを介してスマート家電をBCIで制御するデモンストレーションを行っている。
今後、StentrodeはvisionOS上で公式の入力デバイスとして認定される見込みであり、視線追跡とBCIによるクリックを組み合わせたシステムは、重度運動障害者向けXR入力の新たな基準となることが期待される。
References:
Synchron To Achieve First Native Brain-Computer Interface Integration with iPhone, iPad and Apple Vision Pro | Business Wire
Apple to Support Brain-Implant Control of Its Devices | The Wall Street Journal
Apple Is Developing a Brain-Computer Interface | Gizmodo
visionOS Is Getting Brain-Computer Interface (BCI) Device Support | UploadVR
Apple unveils powerful accessibility features coming later this year | Apple Newsroom
【編集部解説】
AppleがvisionOSでBCIデバイスを公式サポートする決定は、アクセシビリティ領域のさらなる進化を予感させます。SynchronのStentrodeは開頭手術を避けながら脳表面に電極を到達させる血管内埋め込み型デバイスとして、FDAからも調査用医療機器の承認を得ており、これまでに10名の被験者で機能が実証されています。従来の侵襲性が高いBCIに比べ、安全性と実用性の両立が最大の強みです。
visionOSへの統合では、新設のBCI用HIDプロトコルを介し“Switch Control”機能から脳信号を単一クリックとして認識させる仕組みを採用。これにより、視線だけでは完結しにくかったクリック動作を思考でカバーでき、重度の運動障害者でも直感的なXR操作が可能になります。将来的には多様な脳信号命令へのプロトコル拡張が期待され、XRデバイスの標準的入力となり得るでしょう。
一方で、神経信号を扱うBCIはプライバシーとセキュリティの課題を伴います。読取データには個人の認知・感情に関わる情報が含まれる可能性があり、通信経路の暗号化やアクセス制御の厳格化は必須です。また、長期埋め込み時の生体適合性評価や故障リスクへの対応、医療機器としての規制遵守も慎重な検証が求められます。
社会的影響としては、アクセシビリティを超えた応用範囲の拡大が見込まれます。ゲームや遠隔操作、リハビリ支援など、ハンズフリー操作の新たな体験を一般ユーザーにも提供し得ます。UX設計から法制度整備までを含めたエコシステム構築が、技術実装の鍵となるでしょう。
長期的にはBCIとAI、拡張現実の融合が人と機械のインターフェースを大きく変革します。innovaTopiaでは今後も技術成熟度、倫理的側面、社会実装の進展を追い、テクノロジーが「人類の正しく持続可能な進化」に寄与する姿を追い続けます。
【用語解説】
脳–コンピュータ・インターフェース(BCI):
脳から発せられる電気信号を読み取り、外部機器を制御する技術である。
HIDプロトコル:
マウスやキーボードなどのヒューマンインターフェースデバイスをOSが認識・操作するための通信規格である。
Switch Control機能:
iOS/iPadOS/visionOSに搭載されるアクセシビリティ機能で、外部スイッチ型デバイスやBCI入力による操作を可能にする。
ALS(筋萎縮性側索硬化症):
運動ニューロンが変性し、全身の筋力低下や麻痺を引き起こす進行性神経疾患である。
XR:
VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を含む、現実世界と仮想世界を融合・拡張する技術の総称である。
FDA(米食品医薬品局):
米国保健福祉省傘下の行政機関で、医療機器や医薬品の安全性・有効性を規制・監督する。
【参考リンク】
Synchron(公式)(外部)
Brain–Computer Interface技術の研究・開発を手掛ける米国法人。
Apple visionOS(開発者向け)(外部)
Mixed Reality OS「visionOS」の開発者向け情報を提供する公式サイト。
Switch Control(Appleサポート)(外部)
iOSのアクセシビリティ機能「Switch Control」の設定・利用方法を解説。
Stentrode(Wikipedia)(外部)
カテーテル経由で脳表面に電極を配置する埋込み型BCIデバイス「Stentrode」の解説ページ。
FDA(公式)(外部)
米国における医薬品・医療機器の規制当局公式サイト。