【解説】Quantum World Congress 2026——富士通・JIJら日本勢とIBM・IonQ・D-Waveの今と未来は?国際社会での日本の量子コンピュータ戦略

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NEDOが主催するジャパンパビリオンにはスタートアップ7社が集まり、JETROとQ-STARも出展者に名を連ねました。

2026年9月23日から25日までの3日間、米国メリーランド州カレッジパークで量子技術の国際会議「Quantum World Congress 2026(QWC 2026)」が開かれました。30の国際代表団が集まり、IBM、IonQ、D-Waveといった量子コンピュータの主要企業が、展示フロアに大型ブースを並べました。

日本からは、2026年度中に1,000量子ビット機の公開を掲げる富士通が単独で出展しました。

QWC(Quantum World Congress)とは

QWC(公式サイト)は、2022年にワシントンD.C.で始まった量子技術の国際会議です。その後3年間はバージニア州タイソンズで開かれ、2026年にメリーランド大学のあるカレッジパークへ会場を移しました。

運営は非営利団体のConnected DMVで、量子経済開発コンソーシアム(QED-C)と量子産業連合(QIC)が共催しています。

会場がカレッジパークに移ったことには理由があります。メリーランド大学にはJoint Quantum Institute(JQI)などの研究拠点があり、周辺にはIonQが本社を構えています。Microsoftも同地区に量子研究センターを設けつつあり、DARPAは州と組んでベンチマーク拠点を立ち上げました(プリンスジョージズ郡経済開発公社)。

研究機関、企業、政府が近接する「量子の首都圏」での開催は、今回のQWCの性格をよく表しています。

三層構えの日本勢——重なり合う四つの組織

QWC 2026の日本勢は、出展の「枠」で見ると三つの層に分かれます。この三分類は本稿の整理で、主催者側の区分ではありません。

第1層は、富士通の出展です。第2層は、NEDOが主催するジャパンパビリオン(Section 3、ブース35〜38)で、スタートアップ7社が入りました。第3層は、JETROとQ-STARの出展と、会期前日の9月22日に開かれた日米量子イノベーション交流会です。交流会はJETRO、G-QuAT、Q-STAR、NEDOが実施し、日米のスタートアップによるピッチ、ネットワーキング、事前に調整した1対1の商談が行われました。QWCの公式サイドイベントに位置づけられています。

登場する四つの組織

三層を動かしているのは、NEDO、JETRO、G-QuAT、Q-STARの4組織です。

NEDOは経済産業省所管の国立研究開発法人で、研究開発の資金配分を担います。JETROは日本企業の海外展開と海外企業の日本進出を支援し、G-QuATは量子・AI融合技術の研究開発を推進し、Q-STARは産業界を中心にエコシステムを形成しています。G-QuATは産総研のセンターで、量子・古典融合計算基盤、評価テストベッド、超伝導量子回路試作施設を1か所に集約しています。Q-STARは2026年5月時点で158法人が会員で、半数以上がユーザー側の法人です。研究の側にG-QuAT、産業界の側にQ-STAR、海外展開の側にJETRO、資金の側にNEDOが立つ構図です。

なお、交流会の主催の表記は資料によって異なります。JETROの募集ページでは、主催はジェトロ・ニューヨーク事務所で、G-QuAT、Q-STAR、NEDOは協力とされています。

覚書で正式化された連携の延長

この4組織のうち、JETRO、G-QuAT、Q-STARの3者の連携は、2026年の覚書に始まったものではありません。3者は覚書の前から、米国イリノイ州、マサチューセッツ州、コロラド州へのミッション派遣などを続けてきました。そのうえで、2026年3月5日に、量子技術分野の国際連携促進に関する連携協力覚書を締結しました。

締結の場は、3月2〜5日に3者が共催した「北米量子訪日ミッション」で、米国とカナダから約30人が来日しました。つくばのG-QuATを訪れ、NEDOの事業に採択された13社が取り組みを紹介しています。NEDOは覚書に入っていませんが、採択企業を通じて同じ場に現れています。富士通もNEDOが推進する国家プロジェクトに、2027年度までの事業期間で参画しています。

研究基盤の面でも、層は重なります。G-QuATには超伝導方式、中性原子方式、光量子方式の3種の量子コンピュータとGPUスーパーコンピュータが設置されています。光量子機は、OptQCの1号機「MoQuren」が2026年7月21日に稼働を始めました。G-QuATの紹介資料では、超伝導機は富士通製、中性原子機はQuEra製とされています。第1層の富士通も、第2層のOptQCも、第3層の研究拠点と結びついています。

ジャパンパビリオンの7社

ジャパンパビリオンに並んだ7社は、量子技術のスタックをほぼ一通り網羅しています。

計算、通信、制御、アルゴリズム、応用まで、7社でスタックのほぼ全域を覆っています。公式ピッチコンテストの決勝は6カ国7社で争われ、そのうち2社をOptQCとJIJが占めました。

JETROの源流は、1951年に大阪で設立された財団法人海外市場調査会です。1954年に国際見本市協議会などと統合して海外貿易振興会となりました。当時の英語名は「Japan External Trade Recovery Organization」で、戦後復興のための輸出振興が出発点の使命でした。

1958年には特殊法人・日本貿易振興会に改組し、本部を東京に移しました。1998年にアジア経済研究所と統合し、2003年10月に現在の独立行政法人日本貿易振興機構となっています(JETRO事業報告書)。いまも大阪に「大阪本部」を置いているのは、ここが創業の地であるためです。

役割は時代とともに変わってきました。貿易摩擦が深まった1990年代には、政府の輸入促進策の一環として、輸入車の展示会や常設展示場を手がけています(日本自動車輸入組合)。現在の柱は中小企業の海外展開支援と対日投資の促進で、スタートアップの海外展開支援もその一つです。

輸出品を売り込む機関から、技術と人を国境の向こうへつなぐ機関へ。創設75周年の年に量子分野の商談の場を設けたことは、その変化を象徴しています。

富士通——計算機の老舗が挑む「1,000量子ビットの壁」

富士通は2026年度中に、1,000量子ビットの超伝導量子コンピュータを設置・公開する計画です。設置先は川崎市の本店Fujitsu Technology Parkに建設を進めてきた「量子棟」で、同社は「世界最大規模」とうたっています(富士通 量子コンピュータ)。QWCでは単独ブースを構え、米国の研究拠点Fujitsu Research of Americaの研究者も登壇者に名を連ねました。

70年を超える計算機の歴史

富士通の計算機の歴史は長く、1954年には日本初の実用リレー式自動計算機FACOM100を完成させています(富士通 FACOM100)。理研と共同開発したスーパーコンピュータ「京」と「富岳」は、いずれもTOP500で世界首位に立ちました。

一方、量子コンピュータの開発に本格的に着手したのは2020年頃と、比較的最近です(富士通広報note)。

転機は2021年4月、理研と共同で「理研RQC-富士通連携センター」を設立したことでした。2023年10月に国産2号機となる64量子ビット機を公開し、2025年4月には外部に提供される実機として世界最大級の256量子ビット機を実現しています(理研)。2024年5月には産総研から超伝導量子コンピュータシステムを受注し、日本企業として初めて商用量子コンピュータを受注しました。

1,000量子ビットは通過点

1,000量子ビットは最終目標ではありません。富士通は2030年度に1万物理量子ビット超の機体を構築し、誤り訂正で守られた「論理量子ビット」を250個動かす計画を掲げています。

鍵となるのが、大阪大学と開発した「STARアーキテクチャ」です。誤り耐性の初期段階(early-FTQC)でも、6万量子ビットあれば現行の計算機を超える速度で実用アルゴリズムを実行できる道筋を示しました(富士通プレスリリース 2025年8月1日)。

[embedded content: 富士通の超伝導量子コンピュータ ロードマップ · 2023〜2035年度]

図の濃い丸は達成済み、強調色は2026年度に公開予定の1,000量子ビット機、薄い丸は計画値です。2035年度には複数の量子ビットチップを遠隔で接続し、論理量子ビット1,000個を目指します。

富士通には、もう一つの顔があります。量子現象に着想を得た専用計算機「デジタルアニーラ」を、2018年5月からクラウドサービスとして提供してきました(富士通 2018年5月15日)。組合せ最適化問題を、現在の計算機で高速に解くアプローチです。

量子ハードウェアの大規模化と、足元の最適化需要の取り込み。富士通はこの二つを並行して進めています。この「最適化」は、後述するJIJやD-Waveにも共通するキーワードです。

JIJ——量子アニーリングの系譜から生まれ、最適化で生き抜く

ジャパンパビリオンの7社のうち、ここではJIJを詳しく取り上げます。

JIJはジャパンパビリオンに出展したほか、公式プログラム「Quantum Startup Pitch Competition」の決勝にも進みました。登壇者はPresident of the AmericasのSteven Gibson氏で、数理最適化、AI、量子コンピューティングを組み合わせた産業課題への取り組みを紹介するとしていました(JIJ)。

ルーツは量子アニーリングの研究室

JIJは2018年11月、科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創出プログラム「START」の成果をもとに設立されました。CEOの山城悠氏とCTOの西村光嗣氏は、ともに東京工業大学(現・東京科学大学)西森研究室の出身です(JIJ 会社概要)。

西森秀稔氏は1998年、当時指導していた門脇正史氏とともに「量子アニーリング」を提唱した研究者です(Physical Review E)。JIJは、量子アニーリングが生まれた研究室から誕生した企業といえます。

社名の「Jij」は、統計物理学のイジングモデルで要素iとjの相互作用の強さを表す記号に由来します。量子アニーリングで最適化問題を解く際、問題はこのイジングモデルの形に書き換えられます。社名そのものが、同社の技術的な出自を示しています。

量子だけに依存しない戦略

JIJの特徴は、創業以来、量子ハードウェアの完成に事業の命運を預けてこなかった点にあります。

2019年にイジングマシンのシミュレータ「OpenJij」をオープンソースで公開し、2021年には量子アニーリング・イジングマシン向けクラウド「JijZept」のβ版を出しました(PR TIMES)。当時から、専門人材のノウハウをクラウドで届ける「Expert as a Service」という考え方を掲げています。

その後の製品群は、量子よりも「最適化」を軸に広がっていきました。

  • 数式を書く感覚で定式化できるモデリングツール「JijModeling」
  • 古典コンピュータで動く数理最適化ソルバー「JijZept Solver」
  • 2026年初頭にβ版の提供を始めた、最適化向けAIエージェント「JijZept AI」

一方で、2023年にはIBM Quantum Networkに参画し、量子プログラミング言語「Qamomile」の開発も進めるなど、ゲート型量子への布石も打っています(JIJ ニュース)。

2026年8月には、グローバル・ブレインをリードとする総額約8.4億円の資金調達を発表しました。富士通ベンチャーズのファンドも前回に続いて出資しています。資金は数理最適化事業の拡大、ゲート型量子向けミドルウェアの研究開発、グローバル展開に充てるとしています(JIJ)。英国ハーウェルとドイツ・ハンブルクにも拠点を構え、米州には専任のプレジデントを置きました。

息の長い事業モデル

量子の実用化時期をめぐっては、この数年、楽観と悲観の波が繰り返されてきました。その間もJIJは、製造、物流、交通、通信、エネルギーの現場で、現在の計算機で解ける最適化を届けて実績を積んできました。

問題を定式化し、解き、業務に組み込む工程を担っていれば、裏で動く計算機が古典から量子に替わっても、顧客との接点は失われません。派手さはないものの、量子スタートアップにとって息の長い事業モデルの一つといえるでしょう。

IonQ——量子コンピュータと量子セキュリティの二本柱

QWCの新会場は、IonQの地元です。本社はカレッジパークにあり、展示フロアでは4区画(15〜18番)を占め、会長兼CEOのニコロ・デ・マシ氏も登壇者に名を連ねました。

30年の学術研究から生まれた企業

IonQは2015年、メリーランド大学のクリス・モンロー氏とデューク大学のジョンサン・キム氏が創業しました。両大学が30年以上にわたって積み重ねてきたイオントラップ研究の成果をライセンスして出発しています(IonQ 会社概要)。

イオントラップ方式は、電磁場で捕まえた個々のイオン(原子)を量子ビットとし、レーザーで操作する方式です。人工的に作る超伝導回路と異なり、同じ種類の原子は本質的に同一であるため、高い精度を出しやすいのが強みです。

2021年10月にはニューヨーク証券取引所に上場し、量子コンピュータ専業として初の上場企業となりました(IonQ)。2025年には、2量子ビットゲートの忠実度99.99%を達成しています。

もう一つの柱、量子鍵配送(QKD)

IonQの収益の中心は量子コンピュータです。2026年第2四半期の売上高は8,010万ドルで、同社は増収の主な要因を、量子コンピュータ「Tempo」の世界的な導入とクラウド利用の好調と説明しています(IonQ 2026年第2四半期決算)。

そのIonQが、量子コンピュータと並んで力を入れているのが、量子鍵配送(QKD)を中心とする「量子セキュリティ」です。

QKDは、光の粒(光子)に暗号の鍵を乗せて送る技術です。通信の途中で盗み見ようとすると量子の性質上その痕跡が残るため、盗聴の有無を物理的に確かめながら鍵をやりとりできます。

量子コンピュータが実用化されると、現在広く使われている公開鍵暗号が破られるおそれがあります。金融、通信、政府機関にとっては今から備えるべき課題であり、QKDは量子コンピュータの完成を待たずに需要がある製品といえます。

IonQは2025年5月、QKDの老舗であるスイスのID Quantique(IDQ)の支配株式の取得を完了しました(IonQ)。IDQは2001年創業で、シンガポールや韓国の国家プロジェクト、欧州の量子通信インフラにQKDを納めてきた企業です。買収を発表した2025年2月の時点で、IonQはIDQが短期的な受注と売上に貢献すると見込んでいました(IonQ 2025年2月26日)。

2026年6月には、既存の都市の光ファイバー網のまま使えるQKD製品「Clavis XG Multiplex」を投入しました。専用の光回線を用意せずに導入できるため、運用コストの低減につながるとしています(ID Quantique)。2026年8月の決算説明会では、量子コンピュータと量子セキュリティのセット販売を「手の届く果実(low-hanging fruit)」と表現し、アジアではQKDですでに強い存在感があるとも述べています(IonQ 2026年第2四半期 決算説明会)。

量子コンピュータの導入を伸ばしながら、完成を待たずに需要のある量子セキュリティでも顧客をつかむ。IonQはこの二本柱で事業を広げています。

レーザーから半導体へ

量子コンピュータの開発も急ピッチで進んでいます。2025年には、チップ上にイオントラップを作る技術を持つ英Oxford Ionicsの買収に合意しました。買収額は10.75億ドルです(SEC提出資料)。2026年7月には、米半導体ファウンドリSkyWater Technologyの買収も完了しています。

9月8日には第6世代の「Superion 256」を発表し、受注を開始しました。顧客への納入は2027年を予定しています(IonQ)。

要となるのは、Oxford Ionics由来の「電子的な量子ビット制御」です。複雑なレーザー光学系をチップに集積した電子回路で置き換え、ロードマップ全体で量子ビットあたりのコストを300分の1以下に下げる計画です。2030年には物理量子ビット200万、論理量子ビット最大8万を目指しています(IonQ ロードマップ)。

事業規模も急拡大しており、SkyWater買収の完了を受けて、2026年通期の売上高見通しを4.5億〜4.6億ドルに引き上げました(IonQ Investor Day 2026)。

量子コンピュータと量子セキュリティの二本柱に、半導体の量産力を加える。それが、地元開催のQWCに臨んだIonQの現在地です。

IBM——パンチカードから量子まで、115年「計算」を支えてきた企業

IBMはIonQの隣、19〜22番の4区画に出展しました。2025年のQWCではIBMのジェイ・ガンベッタ氏が登壇しており、今年も量子導入担当副社長のスコット・クラウダー氏らが登壇者に並んでいます(QWC公式・登壇者)。

IBMの量子事業を理解するには、同社が「計算する力」を社会に届けることで成長してきた歴史を振り返る必要があります。

国勢調査のパンチカードから

IBMの源流は19世紀末にさかのぼります。米国の国勢調査の業務に携わったハーマン・ホレリスは、穴を開けたカードで人口データを記録し、電気で数える集計機を発明しました。この機械は1890年の米国国勢調査で使われ、政府の時間と費用を大きく節約しました。その後、カナダ、フランス、ロシアなど各国の国勢調査にも採用されています(IBM:パンチカード集計機)。

ホレリスは集計機を、鉄道会社や百貨店、公益企業にもライセンスしていました。自前では持てない計算の道具を、必要とする企業が使えるようにする。現在のクラウドにも通じる発想です。

1911年、ホレリスの会社はほかの2社と合併し、Computing-Tabulating-Recording Company(C-T-R)が誕生しました。1924年には社名を「International Business Machines」、つまりIBMに改めています(IBM:創業の歴史)。

メインフレームで社会の計算を担う

第二次世界大戦中には、ハーバード大学で使われた初期のリレー式計算機を製作しました(スミソニアン)。

1964年には、社運を賭けた「System/360」を発表します。4年間で50億ドルを投じたこのシリーズは、小型から大型まで同じソフトウェアが動く「ファミリー」としてのコンピュータでした。現在も使われる「8ビット=1バイト」を広めたのもSystem/360です(IBM:System/360)。

その流れをくむメインフレーム「IBM Z」は、いまも社会の基幹を支えています。IBMによれば、世界の上位50行のうち45行、上位5社の航空会社のうち4社がIBM Zを利用しています(IBM)。

量子計算の源流にも

量子とのつながりも古く、1981年にはMITと共同で、計算の物理学をテーマにした会議を開催しました。この場でリチャード・ファインマンが「自然をシミュレートするなら、量子力学的な計算機が必要だ」と述べたことはよく知られています(IBM Research)。

1984年には、IBMのチャールズ・ベネットがジル・ブラッサールとともに、量子暗号の基本方式「BB84」を発表しました。IonQの節で紹介したQKDの原点も、IBMの研究にあります。

2016年には、5量子ビットの実機をインターネット経由で誰でも使える「IBM Quantum Experience」を公開しました。2017年にはオープンソースの開発キット「Qiskit」を(IBM:Qiskitの歴史)、2019年には一体型の商用機「IBM Q System One」を発表しています。

パンチカードの集計機を企業に届けていた会社が、100年後には量子コンピュータをクラウドで届けている。IBMの量子事業は、「計算資源を届ける」という本業の延長線上にあるといえます。

日本との縁も深く、2025年6月には理研に「IBM Quantum System Two」を設置し、スーパーコンピュータ「富岳」との連携運用を始めました。米国外への設置は初めてです(IBM Newsroom)。理研は富士通と共同開発した国産の超伝導機も擁しており、日本は米国勢と国産勢が並走する場にもなっています。

数より質へ、そして2026年の「量子優位性」

IBMは2023年に1,121量子ビットのプロセッサ「Condor」を発表しましたが、その後は量子ビット数よりも誤りの少なさと接続性を優先する方針に転じました。2025年11月に発表した120量子ビットの「Nighthawk」は、各量子ビットを4つの隣接ビットと結ぶ正方格子を採用しています(IBM Newsroom)。

IBMは、量子コンピュータが古典計算だけの手法を上回る「量子優位性」の最初の事例が、2026年末までにコミュニティで検証されると見込んでいます。量子は古典のスーパーコンピュータを置き換えるのではなく、その「加速装置」として位置づけられています(IBM Quantum Blog)。古典の計算基盤を長く担ってきたIBMらしい考え方です。

その先には、2029年にニューヨーク州ポキプシーで稼働させる誤り耐性量子コンピュータ「Starling」(200論理量子ビット・1億ゲート)があり、2033年以降には2,000論理量子ビットの「Blue Jay」も計画されています(IBM Quantum Roadmap)。

富士通が1,000量子ビット機の公開に挑む2026年は、IBMにとって量子優位性の真価が問われる年でもあります。同じ超伝導方式でも、規模で攻める道と、回路の質で有用性を示す道があります。

D-Wave——日本発の理論を「最初の商用量子コンピュータ」にした企業

D-Waveは51・53番の2区画に出展しました。登壇者リストには、同社の最高科学責任者としてロブ・シェルコフ氏の名前があります。

シェルコフ氏は、同社が「トランズモンとデュアルレール量子ビット技術の発明者」と紹介するイェール大学の研究者です。ゲート型超伝導量子ビットの第一人者が、アニーリングの老舗の看板を背負って登壇する。この点に、2026年のD-Waveの変化が表れています。

1999年創業、いち早く商用化

D-Waveは1999年、カナダ・ブリティッシュコロンビア州で創業しました。社名は、初期の量子ビット設計に用いたd波超伝導体に由来します。

同社が選んだのは、汎用のゲート型ではなく、最適化問題に特化した量子アニーリング方式でした。1998年に門脇正史氏と西森秀稔氏が提唱した理論を、いち早くハードウェアとして実装した企業です(東京科学大学)。

2007年に16量子ビットの試作機「Orion」を公開し、2011年に128量子ビットの「D-Wave One」を「世界初の商用量子コンピュータ」として発表しました。最初期の顧客にはロッキード・マーティンが名を連ね、その後グーグルとNASAの共同研究拠点にも導入されています(Wikipedia)。多くの競合が研究段階にあった時期に、すでに実機を販売していたことになります。

その後も世代ごとに量子ビット数を伸ばし、2020年に5,000量子ビット超の「Advantage」を投入しました。2025年には接続性を高めた「Advantage2」(4,400量子ビット超)の一般提供を始めています。同社は、Advantage2で実在の磁性材料のシミュレーションにおいて古典計算を上回ったと主張しています。これまでに100以上の組織が利用し、投入された問題は2億件を超えるとしています。

アニーリング専業から「二刀流」へ

2026年1月、D-Waveは誤り検出機能を内蔵した「デュアルレール」量子ビットを開発する米Quantum Circuitsの買収を完了しました。買収額は5.5億ドルで、同社創業者のシェルコフ氏が最高科学責任者に就いています。アニーリング機と並行して、ゲート型の初期システムを2026年中に一般提供する計画です(D-Wave)。

量子アニーリングの理論は日本で生まれ、カナダで製品となり、その上で動くソフトウェアをJIJのような日本企業が磨いてきました。そのD-Waveが、アニーリングとゲート型の二刀流へ踏み出しています。最適化の実需を足場に次の方式へ手を伸ばす姿は、JIJの戦略とも重なります。

方式の見本市——その他の主な出展企業

展示フロアには、量子コンピュータの主要な方式がほぼそろいました。超伝導、イオントラップ、中性原子、光、トポロジカル、猫量子ビットです(QWC公式・展示フロア図)。どの方式が主流になるかはまだ決まっておらず、各社が自らの方式を競ってアピールする場となっています。

企業・団体方式・領域拠点
Microsoftトポロジカル量子ビット(「Majorana 1」は2025年のQWCでも紹介)米国
Quantinuumイオントラップ米国・英国
Rigetti超伝導米国
Infleqtion中性原子、量子センシング米国
QuEra中性原子米国
Quantum Computing Inc.光(フォトニクス)米国
Photonicシリコンと光をつなぐ分散型量子計算カナダ
Alice & Bob猫量子ビット(誤り耐性)フランス
Riverlane量子誤り訂正英国
Phasecraft量子アルゴリズム英国
Classiq量子ソフトウェアイスラエル
Qblox量子制御装置オランダ
Bluefors希釈冷凍機フィンランド

国単位の出展も目立ちました。日本のほか、フィンランドはカントリーパビリオンを、オーストラリアも国としてブースを構え、韓国からは量子産業協会(KQIA)が出展しました。地元メリーランド州の商務省とメリーランド大学もブースを出しています。

QWCは企業の見本市であると同時に、国や地域が量子産業を誘致し合う外交の場でもあります。

完成までの収益化戦略

もう一つ見えてきたのは、「量子コンピュータが完成するまでの間、どう収益を上げるか」という戦略の違いです。

IonQは量子コンピュータの販売に加え、QKDを軸にした量子セキュリティでも需要を取り込んでいます。IBMはクラウドで実機を開放し、100年以上続く「計算資源を届ける」本業の延長で量子を育てています。

富士通のデジタルアニーラ、D-Waveの量子アニーリング、JIJの数理最適化プラットフォームは、方式も規模も異なりますが、「最適化」という共通の領域で現在の課題を解いている点で重なります。富士通ベンチャーズがJIJに重ねて出資していることも、この領域の近さを示しています。

日本の立ち位置

日本には、1998年に定式化された量子アニーリングと、富士通と理研による超伝導機の大規模化という蓄積があります。光、中性原子、制御装置、通信まで、スタートアップも層をなしています。今回のQWCでは、そこに海外への出口をつくる動きが重なりました。3月に覚書を結んだJETRO、G-QuAT、Q-STARの3者と、パビリオンを主催したNEDOが、それぞれの枠でQWCに関わりました。

一方、米国勢は買収で技術と製造力を束ね、垂直統合を急いでいます。D-Waveが約5.5億ドルでQuantum Circuitsの買収を完了し、IonQは10.75億ドルでOxford Ionicsを傘下に収めました。日本勢が今回示したのは、企業を買い集める力というより、企業と支援機関を重ね合わせて海外の入口をつくる、横のつながりでした。

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野村貴之
大学院を修了してからも細々と研究をさせていただいております。理学が専攻ですが、哲学や西洋美術が好きです。日本量子コンピューティング協会にて量子エンジニア認定試験の解説記事の執筆とかしています。寄稿や出版のお問い合わせはinnovaTopiaのお問い合わせフォームからお願いします(大歓迎です)。

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