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Sporosarcina pasteurii細菌が実現する月面都市建設 – インド科学研究所が革新的なレゴリスレンガ修復技術を開発

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Last Updated on 2025-04-08 08:28 by admin

インド科学研究所(IISc)の研究チームが、月面での建設に革命をもたらす可能性のある細菌技術を開発した。この研究は2025年3月27日に「Frontiers in Space Technologies」誌に掲載された。

研究チームは地球上に存在する一般的な細菌「Sporosarcina pasteurii」を使用して、月の砂(レゴリス)から作られたレンガを建設・修復する方法を開発した。この細菌は炭酸カルシウムを生成し、レゴリス粒子をグアーガムと混合することで結合させる。

研究チームはまた、ポリビニルアルコールと混合したレゴリスシミュラントを高温で焼結する方法も探求した。この方法で作られたレンガはより強固だが、月面の過酷な環境(温度変化が121°Cから–133°C)では脆さが問題となる。

そこで研究者たちは、Sporosarcina pasteurii、グアーガム、レゴリスシミュラントを含むスラリーを開発し、損傷したレンガに塗布することで修復する方法を考案した。修復されたレンガは元の強度の28%から54%を回復した。

IIScの主任研究者コウシク・ヴィスワナタン氏とアローク・クマール氏らは、この技術が宇宙環境でも機能するかを確認するため、インドの最初の有人宇宙飛行ミッション「ガガニヤーン」(2026年に予定)でSporosarcina pasteuriiのサンプルを宇宙に送る計画を立てている。

from:This Bacteria Might Be the Key to Building the First City on the Moon

【編集部解説】

インド科学研究所(IISc)の研究チームが開発した細菌を用いた月面建設技術は、宇宙開発の新たな可能性を切り開く革新的なアプローチです。この技術の核心は、Sporosarcina pasteuriiという細菌を利用した微生物誘導炭酸カルシウム析出(MICP)法にあります。

MICPは、地球上でも土壌改良や建設分野で注目されている技術ですが、月面環境での応用は画期的です。この方法は、月の砂(レゴリス)を使って作られたレンガの修復に特に有効であることが示されました。

月面環境は極めて過酷で、温度変化が激しく(-133°Cから121°C)、宇宙放射線や微小隕石の衝突にさらされます。このような環境下で建造物の耐久性を保つことは大きな課題でした。

IIScの研究チームが開発したバクテリアスラリーは、損傷したレンガの強度を28%から54%回復させることに成功しています。これは、月面基地の長期的な維持管理において非常に重要な成果といえるでしょう。

しかし、この技術にはまだいくつかの課題があります。まず、地球上の実験室環境と実際の月面環境では条件が大きく異なります。微小重力、真空、高レベルの放射線など、月面特有の環境がバクテリアの活動にどのような影響を与えるかは未知数です。

また、長期的な耐久性も確認が必要です。月面での建造物は数十年、場合によっては数百年単位で使用することが想定されるため、バクテリアによる修復効果がどれだけ持続するかは重要な検討事項となります。

さらに、地球外環境への微生物の持ち込みに関する倫理的・法的な問題も考慮する必要があります。惑星保護の観点から、地球の生命体が月面環境に与える影響についても慎重に評価しなければなりません。

一方で、この技術が成功すれば、月面での持続可能な建設が可能になり、人類の宇宙進出に大きく貢献する可能性があります。地球からの資材輸送を最小限に抑えられるため、コスト削減にもつながります。

さらに、この技術は月面に限らず、火星やその他の惑星探査にも応用できる可能性があります。各惑星の環境に適した細菌を選択・改良することで、様々な惑星環境での建設技術として発展する可能性を秘めています。

IIScの研究チームは、2026年に予定されているインドの有人宇宙飛行ミッション「ガガニヤーン」でこの細菌の宇宙実験を行う計画を立てています。この実験の結果が、バクテリアを用いた宇宙建設技術の実用化への重要な一歩となることでしょう。

【用語解説】

微生物誘導炭酸カルシウム析出(MICP)
細菌が尿素を分解する過程で炭酸カルシウムを生成し、それが固体として析出する現象。建設材料の強化や修復に利用できる。

Sporosarcina pasteurii
土壌中に存在するグラム陽性菌で、ウレアーゼ酵素を分泌し、尿素を分解して炭酸カルシウムを生成する能力を持つ。アルカリ性環境(pH 9-10)で生育する特性がある。

レゴリス
月や火星などの天体表面を覆う細かい砂や岩石の破片のこと。地球の土壌に相当するが、水や有機物をほとんど含まない。

焼結
粉末状の物質を高温で加熱し、溶融せずに粒子同士を結合させる技術。月面レゴリスの場合、約1100℃で加熱することで普通レンガ相当の強度を持つ固化体になる。

【参考リンク】

インド科学研究所(IISc)(外部)
インドの最高学術研究機関の一つで、科学技術分野の研究・教育を行う研究所

Space Quarters(外部)
宇宙建築ロボットシステムを開発する日本のスタートアップ企業

【編集部後記】

月面での建設技術に細菌を活用するという発想、皆さんはどう思われますか?地球上の生命が宇宙開発の鍵を握るというのは、なんとも興味深い展開です。もし月面都市が実現したら、どんな暮らしが待っているのか、想像してみるのも楽しいかもしれません。細菌という小さな生命が人類の大きな夢を支える—そんな視点で身の回りの微生物たちを見直してみると、新たな発見があるかもしれませんね。皆さんの「宇宙×バイオテクノロジー」についての考えをコメント欄でぜひ教えてください。

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TaTsu
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