Last Updated on 2025-06-20 11:28 by admin
SpaceXのStarship Ship 36が2025年6月18日午後11時頃(現地時間)、テキサス州Starbase施設のMassey試験サイトで爆発した。
第10回飛行試験に向けた6基のRaptorエンジンの静的燃焼試験の準備中、液体メタンと液体酸素の推進剤充填作業中に「重大な異常」が発生し、巨大な火球が夜空を照らした。
SpaceXは全職員の安全を確認し、周辺住民への危険はないと発表した。イーロン・マスクCEOは翌日「かすり傷だ」とコメントし、ペイロードベイ内の窒素貯蔵ユニット(COPV)が耐圧限界を下回って破損したことが原因と説明した。
Starshipは高さ120メートル(Super Heavyブースター含む)の再使用可能ロケットで、2025年に入り第7回、第8回、第9回飛行試験でも上段部が失敗している。
同ロケットは2027-2028年のNASAアルテミス3・4号ミッション、2030年以降のStarlab宇宙ステーション打ち上げ、火星植民地化計画の中核を担う。6月29日に予定されていた第10回飛行試験は延期される見込みである。
From: SpaceX’s Starship explodes during routine test in Texas
【編集部解説】
今回のStarship Ship 36の爆発事故は、SpaceXの「高速反復開発」アプローチの現実を改めて浮き彫りにしました。事故は静的燃焼試験のエンジン点火予定時刻の10-15分前、推進剤充填中に発生しており、推進システムの根本的な課題を示唆しています。
技術的な背景と課題
爆発は2段階で発生し、最初にロケット先端部付近で爆発が起き、その直後に機体左側で二次爆発が発生しました。マスクCEOの説明によると、ペイロードベイ内の窒素COPV(複合材料製圧力容器)が耐圧限界を下回って破損したことが原因とされています。これは液体メタンと液体酸素の極低温推進剤システムにおける構造的な問題を示しており、タンク設計や燃料充填プロトコルの見直しが必要になる可能性があります。
Massey試験サイトはStarbase本体から約5マイル離れた場所にあり、ブラウンズビル市街地からは約9マイルの距離です。それでも周辺住民は爆発の衝撃波を感じ、家屋が揺れたと報告しています。
宇宙産業への波及効果
2025年に入ってからの連続する失敗は、Starshipプログラムの信頼性に深刻な疑問を投げかけています。第7回、第8回、第9回飛行試験に続く今回の地上試験での爆発は、NASAのアルテミス計画における月面着陸船としての役割に影響を与える可能性があります。
特に重要なのは、6月29日に予定されていた第10回統合飛行試験が延期されることです[1]。これにより、2027-2028年のアルテミス3・4号ミッションのスケジュールにも影響が及ぶ可能性があります。
規制環境への影響
連続する失敗により、FAA(連邦航空局)による安全審査がより厳格化される可能性があります。ただし、今回の事故についてはFAAが正式な調査を開始しないことが確認されており、SpaceX内部での原因究明に委ねられています。
長期的な視点での評価
一方で、マスクCEOの「かすり傷だ」というコメントは、SpaceXの「失敗を恐れない」開発文化を象徴しています。同社は各事故から得られるデータを活用し、タンク設計、推進剤取り扱い、構造的完全性の改善を続けています。
火星植民地化という最終目標を考えれば、現在の技術的課題の早期発見と解決は、長期的な成功への重要なステップとも言えるでしょう。
【用語解説】
Ship 36
SpaceXが開発したStarship上段部の36番目のプロトタイプ。第10回統合飛行試験に向けて準備されていたが、静的燃焼試験前に爆発した。
Massey試験サイト
Starbase施設から約5マイル離れた場所にあるSpaceXの試験施設。ロケットエンジンの地上試験を実施するための専用サイト。
静的燃焼試験(Static Fire Test)
ロケットを地上に固定した状態でエンジンを点火し、推進システムの動作を確認する試験。今回は6基のRaptorエンジンの試験が予定されていた。
第10回統合飛行試験(IFT-10)
Starship上段とSuper Heavyブースターを組み合わせた完全なシステムでの10回目の飛行試験。6月29日に予定されていたが延期となった。
COPV(Composite Overwrapped Pressure Vessel)
炭素繊維で補強された複合材料製圧力容器。軽量かつ高圧に耐える設計で、宇宙機の推進剤や高圧ガス貯蔵に使用される。
Raptorエンジン
SpaceXが開発したメタン燃料エンジン。Starship上段には6基、Super Heavyブースターには33基搭載される。
【参考リンク】
SpaceX公式サイト(外部)
SpaceXの企業情報、ロケット技術、ミッション詳細を掲載する公式ウェブサイト
NASASpaceflight(外部)
宇宙開発の専門メディア。Starbaseの24時間ライブ配信や詳細な技術解説を提供
LabPadre(外部)
Starbase施設の監視カメラを運営し、SpaceXの活動をリアルタイムで配信
【参考動画】
【参考記事】
Next Starship explodes on test stand – Spaceflight Now(外部)
Ship 36爆発事故の詳細を報じる専門メディアの記事。Massey施設での事故状況と6月29日の飛行試験延期について解説
SpaceX Starship upper stage explodes during ramp-up to expected engine test firing – CBS News(外部)
マスクCEOのCOPV故障説明と火星計画への影響を詳細に分析したCBSニュースの報道
SpaceX’s ninth Starship test flight ends in another explosion – Mashable(外部)
2025年5月28日の第9回飛行試験失敗を報じるMashableの記事。連続する失敗の文脈で今回の事故を位置づけ
【編集部後記】
今回のStarship爆発事故について、皆さんはどのような印象を持たれましたか?「また失敗」と感じる一方で、マスクCEOの「かすり傷だ」というコメントからは、失敗を恐れずに挑戦し続ける姿勢が伝わってきます。
私たちinnovaTopia編集部も、この「高速反復開発」アプローチが従来の宇宙開発とは根本的に異なることに注目しています。皆さんは、このような開発手法についてどう思われますか?火星移住という壮大な目標に向けて、現在の挫折がどのような意味を持つのか、一緒に考えてみませんか?