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ispace月着陸機「Resilience」墜落、NASA衛星が寒冷の海で暗いしみを確認

ispace月着陸機「Resilience」墜落、NASA衛星が寒冷の海で暗いしみを確認 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-23 12:35 by admin

NASAの月偵察軌道船が2025年6月11日、日本のispace社の月着陸機「Resilience(レジリエンス)」の墜落現場を撮影した。

同社は6月5日(UTC)に着陸を試みたが通信が途絶え、着陸失敗となった。着陸機は高度約80キロメートル(50マイル)上空から撮影され、月の極北部にある火山地域Mare Frigoris(寒冷の海)に墜落した。

From: 文献リンクNASA spacecraft around the moon photographs the crash site of a Japanese company’s lunar lander

【編集部解説】

今回のispace社「Resilience」の月面衝突は、民間宇宙開発における技術的課題の複雑さを改めて浮き彫りにした出来事です。同社にとって2023年に続く2度目の失敗となりましたが、前回とは異なる要因での失敗という点が重要な意味を持ちます。

NASA月偵察軌道船による撮影画像は、墜落現場の科学的分析に貴重なデータを提供しています。Mare Frigoriに残された暗いしみと周囲の明るいハロー効果は、衝突時に月の土壌(レゴリス)が掘削・再分布されたことを示しており、今後の着陸技術改良に重要な情報となるでしょう。

特に注目すべきは、Mare Frigoriという着陸地点の選択です。この地域は35億年以上前に玄武岩の大規模噴火によって形成された比較的平坦な火山平原で、大規模な断層である「しわ尾根」が点在しています。重い玄武岩堆積物の重量により地殻が座屈して形成されたこれらの地形的特徴は、月面着陸の技術的難易度を物語っています。

商業的な観点では、民間月面探査市場における競争が激化する中、技術的アプローチの多様性と失敗からの学習能力が企業の生存を左右する状況となっています。ispaceが予定している記者会見での詳細な失敗分析は、業界全体の技術向上に寄与する貴重な情報となるはずです。

長期的視点では、この失敗は月面探査の民主化プロセスにおける必要なステップと捉えるべきでしょう。NASAのアルテミス計画や各国の月面探査計画が本格化する中、民間企業の技術蓄積は不可欠です。今回失われたTenacious小型ローバーには、スウェーデンの赤と白の家で有名なMikael Genbergの「Moonhouse」というアート作品も搭載されており、技術的側面だけでなく文化的な損失も含んでいます。

【用語解説】

Mare Frigoris(寒冷の海):
月の北極地域に位置する火山性の平原。約35億年前に玄武岩の大規模噴火によって形成された。比較的平坦な地形のため月面着陸の候補地として選ばれることが多い。

月偵察軌道船(Lunar Reconnaissance Orbiter/LRO):
NASAが2009年6月18日に打ち上げた月探査衛星。月面の詳細な地形図作成や資源探査を行っており、高解像度カメラで月面を継続的に観測している。

レゴリス:
月面を覆う岩石と塵からなる土壌。隕石衝突や宇宙風化により長期間にわたって形成された細かい粒子で構成されている。

しわ尾根(Wrinkle Ridges):
月の火山平原に見られる大規模な断層構造。重い玄武岩堆積物の重量により地殻が座屈して形成された地形的特徴。

HAKUTO-R:
ispaceが開発した月面探査プログラムの名称。HAKUTOは日本語の「白兎」に由来し、Rは「Reboot」を意味する。アジア初の民間企業による月面着陸を目指している。

【参考リンク】

ispace公式サイト外部)
東京に本社を置く民間月面探査企業。2040年までに月面経済圏構築を目指す

NASA Lunar Reconnaissance Orbiter(外部)
NASAの月偵察軌道船公式サイト。月面観測データや画像を提供している

【参考動画】

【参考記事】

ispace RESILIENCE Lunar Lander Completes All Lunar Orbital Maneuvers: (外部)
Resilience着陸機が月軌道での全ての軌道制御を完了し、6月6日の着陸に向けて準備が整ったことを報告。高度100kmの円軌道に投入され、2時間で月を一周する状態だった。

Laser Rangefinder Malfunction Causes Ispace Resilience Lunar Lander Crash:(外部) 
レーザー距離計の故障が墜落の直接原因であることを詳細に分析。時速187kmで月面に衝突し、予定着陸時刻の1分45秒前に通信が途絶えたことを報告している。

NASA moon orbiter spies grave of crashed Japanese lunar lander:(外部) 
NASA月偵察軌道船が撮影した墜落現場の詳細な分析。Mare Frigoriの地質学的特徴と、墜落によって形成された暗いしみと明るいハローの成因を科学的に解説している。

【編集部後記】

今回のispaceの挑戦を見て、皆さんはどう感じられましたか?2度目の失敗という結果に落胆された方も多いかもしれませんが、NASA月偵察軌道船による詳細な墜落現場撮影が業界全体の技術向上に貢献する姿勢に希望を感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私たちが生きているこの時代は、まさに民間企業が宇宙開発の主役になろうとしている歴史的転換点です。アポロ計画から半世紀以上が経ち、今度は企業が月を目指す時代になりました。皆さんは、この宇宙ビジネスの未来にどんな可能性を感じますか?そして、失敗を重ねながらも挑戦を続ける企業の姿勢についてどう思われますか?ぜひコメント欄で皆さんの想いをお聞かせください。

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TaTsu
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