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理研が開発した超分子プラスチック、海水中で数時間で溶解する革新素材の実力とは

理研が開発した超分子プラスチック、海水中で数時間で溶解する革新素材の実力とは - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-03-31 12:32 by admin

マイクロプラスチックによる海洋汚染が深刻化する今、日本発の革新的ソリューションが世界の注目を集めている。理化学研究所の相田卓三氏率いる研究チームが開発した「超分子プラスチック」は、従来のプラスチックの常識を覆す特性を持ち、使用中は十分な強度を保ちながら海水中ではわずか数時間で完全に分解するという、これまで両立が困難とされてきた特性を実現した。Science誌にも掲載されたこの最先端技術は、環境問題とイノベーションの交差点に位置し、持続可能な未来へのブレイクスルーとして今まさに注目すべき研究成果である。


理化学研究所創発物性科学研究センター(CEMS)の相田卓三氏が率いる研究チームは、日常使用に十分な強度を持ちながらも、海水中でわずか数時間で完全に溶解する革新的なプラスチックを開発した。この新素材は「超分子プラスチック」と呼ばれ、従来の共有結合ではなく「塩橋」と呼ばれる可逆的な結合を利用している。

この素材はヘキサメタリン酸ナトリウムとグアニジニウムイオンベースのモノマーという2つの成分から作られ、通常の使用条件では安定しているが、海水中の電解質に触れると数時間で分解する。製造過程では「脱塩」という重要なステップがあり、これを省略すると脆い結晶性の固体になってしまう。

この技術は漁網や海洋包装材など、海水に接触する可能性の高い製品に特に有用で、毎年1100万トン以上が海に流出するプラスチック汚染問題の解決に大きく貢献する可能性がある。この研究成果は2024年11月22日に科学誌「Science」に掲載された。現在はまだ研究段階だが、使用中の耐久性と環境中での生分解性を両立させた画期的な進歩として注目されている。

from:So Long Microplastics: Japanese Scientists Have Created a New Plastic That Dissolves in Just a Few Hours at Sea

【編集部解説】

プラスチック汚染問題は、私たちの地球環境における最も深刻な課題の一つとなっています。特に海洋プラスチック汚染は年々深刻化し、毎年1100万トン以上のプラスチックが海に流出しているという現実があります。

この問題に対して、理化学研究所創発物性科学研究センター(CEMS)の相田卓三氏を中心とする研究チームが画期的な解決策を提案しました。彼らが開発した「超分子プラスチック」は、従来のプラスチックとは根本的に異なる設計思想に基づいています。

従来のプラスチックは強固な共有結合で構成されているため、分解されにくく環境中に数十年から数世紀も残り続けます。一方、この新素材は「塩橋」と呼ばれる可逆的な結合を利用しており、通常の使用では十分な強度を保ちながらも、海水中ではわずか数時間で分解するという革新的な特性を持っています。

この技術の核心は「脱塩」と呼ばれる製造プロセスにあります。ヘキサメタリン酸ナトリウムとアルキルジグアニジニウム硫酸塩という2つのモノマーを水中で混合すると、2つの層に分離します。研究チームはこの分離現象を利用して、粘性のある層から「アルキルSP2」と呼ばれる新素材を生み出しました。

この研究成果は2024年11月22日に科学誌「Science」に掲載されました。また、この研究は理化学研究所だけでなく、東京大学およびアイントホーフェン工科大学との共同研究であることも確認できました。

この新素材の特筆すべき点は、単に海水中で分解するだけでなく、非毒性で非可燃性という安全性も兼ね備えていることです。また、120℃以上の温度で再成形可能なサーモプラスチックとしての特性も持ち合わせています。

さらに、グアニジニウム硫酸塩の種類を変えることで、ゴムシリコンのような柔軟性のあるものから、強い重量に耐えられるものまで、用途に応じてカスタマイズできる可能性も示されています。3Dプリンティングにも適しており、医療器具などの製造にも応用できるかもしれません。

この技術が実用化されれば、特に海洋環境に接触する可能性の高い漁網や海洋包装材、沿岸部で使用される使い捨て容器などへの応用が期待できます。これらの製品が海に流出しても、短時間で分解されるため、マイクロプラスチック汚染の大幅な削減につながるでしょう。

興味深いのは、この素材が分解した後、その91%を回収して再利用できるという点です。これは資源の有効活用という観点からも非常に重要な特性です。また、土壌中では10日程度で完全に分解され、植物の成長に役立つ栄養素を放出するという報告もあります。

しかし、この技術にも課題はあります。現在はまだ研究段階であり、大量生産や実用化に向けてはさらなる研究開発が必要です。また、コスト面や既存のプラスチック製造インフラとの互換性なども検討すべき課題でしょう。

さらに、この技術が広く普及した場合の環境への長期的な影響についても、慎重に評価する必要があります。例えば、分解後の成分が海洋生態系に与える影響や、異なる海洋環境(温度や塩分濃度の違いなど)での分解速度の変化なども検証すべき点です。

それでも、この技術は「使い捨てプラスチック」という概念を根本から変える可能性を秘めています。使用中は従来のプラスチックと同等の性能を持ちながら、環境中では速やかに分解されるという、これまで両立が難しいとされてきた特性を兼ね備えた素材の登場は、サステナブルな未来への大きな一歩と言えるでしょう。

プラスチック問題は単一の解決策だけでは解決できません。リデュース(削減)、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)の3Rに加え、このような革新的な素材開発も含めた総合的なアプローチが必要です。理研チームの研究成果は、その重要な一角を担う可能性を示しています。

今後の研究の進展と実用化に向けた動きに、引き続き注目していきたいと思います。

【用語解説】

超分子プラスチック
従来のプラスチックが強固な共有結合で構成されているのに対し、可逆的な非共有結合(塩橋など)で分子が結合した新しいタイプのプラスチック。使用中は強度を保ちながら、特定の条件下で分解できる特性を持つ。

塩橋(Salt-bridge)
タンパク質などの分子内で、正電荷を持つアミノ酸と負電荷を持つアミノ酸の側鎖間に形成される静電的な相互作用。この研究では、この相互作用を利用してプラスチックの分子を結合させている。

相分離
混合物が異なる性質を持つ複数の相(層)に分かれる現象。この研究では、モノマーを混合すると架橋構造体を含む凝縮相と塩イオンを含む水相に分離することが重要なポイントとなっている。

ヘキサメタリン酸ナトリウム
食品添加物としても使用される化合物で、この研究では超分子プラスチックの主要成分の一つとして使用されている。

グアニジニウムイオン
強い塩基性を示す化学構造で、この研究では塩橋形成のためのもう一つの主要成分として使用されている。

【参考リンク】

理化学研究所(理研)(外部)
日本最大の自然科学の総合研究所。今回の超分子プラスチック研究を行った創発物性科学研究センター(CEMS)を含む多様な研究センターを持つ。

理化学研究所創発物性科学研究センター(CEMS)(外部)
物理学・化学・エレクトロニクスの研究者が連携し、エネルギー問題の解決に資する創発物性の研究を行うセンター。

相田卓三研究室(東京大学)(外部)
今回の研究を主導した相田卓三教授の東京大学における研究室。超分子化学・材料化学・高分子化学の研究を行っている。

【編集部後記】

みなさんは日常生活でプラスチック製品をどのくらい使っているでしょうか?ペットボトルやレジ袋、食品包装など、私たちの生活に欠かせないプラスチック。その便利さの一方で、環境への影響が懸念されています。今回紹介した新しいプラスチック技術は、この課題に一石を投じる可能性を秘めています。身近な製品がこの技術で作られたら、どんな変化が起きるでしょうか?環境に優しい未来の材料について、一緒に想像を膨らませてみませんか?

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TaTsu
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