Appleが史上初となるゲームスタジオの買収を実施し、Apple Arcadeの人気ゲーム『スニーキー・サスカッチ』を開発したカナダの2人組スタジオRAC7を傘下に収めた。
Appleは5月27日(現地時間、日本時間5月28日)、バンクーバーに拠点を置く2人組のゲーム開発スタジオRAC7を買収したことを確認した。これはAppleにとって史上初のゲームスタジオ買収となる。RAC7は2014年に設立されたカナダのインディーゲーム開発会社で、共同創設者のジェシー・リングローズとジェイソン・エニスの2名で構成されている。
RAC7の代表作である『スニーキー・サスカッチ』は2019年9月にApple Arcadeのローンチタイトル71作品の1つとしてリリースされ、サービス開始時の大ブレイク作品となった。同作品は2020年にApple Arcade Game of the Yearを受賞している。スタジオの過去作品には2015年の『ダーク・エコー』(Most Innovative iPhone Game 2015受賞)、2018年の『スプリッター・クリッターズ』(iPhone Game of the Year 2017、Apple Design Award 2017受賞)がある。
Appleの広報担当者は「私たちは『スニーキー・サスカッチ』を愛しており、2人組のRAC7チームがAppleに加わり、私たちと一緒にその開発を続けることを嬉しく思っています。私たちは世界最高のゲーム開発者たちによる数百のゲームで、Apple Arcadeプレイヤーに素晴らしい体験を提供し続けます」とコメントした。
Appleはこの買収について、新たなゲーム戦略の始まりではなく、RAC7チームがApple Arcade上でゲームをより成長させる機会を見出した特殊な状況であると説明している。同社は今後も大小のサードパーティスタジオと協力してサービス向けのゲームを制作していく方針を示している。Apple Arcadeは月額6.99ドルのサブスクリプションサービスとして提供されており、広告や追加課金なしで200以上のゲームが楽しめる。
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Apple acquires RAC7, its first-ever video game studio | Digital Trends
【編集部解説】
今回のAppleによるRAC7買収は、テクノロジー業界において複数の重要な示唆を含んでいます。まず注目すべきは、これがApple史上初のゲームスタジオ買収であるという事実です。これまでAppleは一貫してサードパーティ開発者との協業モデルを維持してきましたが、今回の決断は同社のゲーム事業に対する姿勢の微妙な変化を示しています。
特に興味深いのは、Appleが「特殊な状況」と説明している点です。これは単純な事業拡大戦略ではなく、『スニーキー・サスカッチ』という特定のIPとその開発チームの価値を認めた結果と解釈できます。実際、同作品は2020年にApple Arcade Game of the Yearを受賞し、RAC7の過去作品も数々の賞を受賞するなど、品質の高さが証明されています。
RAC7の実績を詳しく見ると、2015年の『ダーク・エコー』がMost Innovative iPhone Game賞を、2018年の『スプリッター・クリッターズ』がiPhone Game of the Year 2017とApple Design Award 2017を受賞するなど、一貫して革新的なゲーム開発を続けてきました。わずか2人のチームでこれほどの成果を上げている点は、Appleが注目した理由の一つでしょう。
モバイルゲーム市場は2023年に約900億ドルの収益を記録し、全ゲーム市場の約半分を占める巨大市場です。NetflixやMicrosoftといった他のテクノロジー企業も積極的にゲームスタジオを買収している中、Appleの慎重なアプローチは同社の特徴的な戦略と言えるでしょう。NetflixはSpry FoxやNight School Studioを、MicrosoftはActivision BlizzardやBethesdaを買収するなど、業界全体でコンテンツの内製化が進んでいます。
Apple Arcadeは現在200以上のゲームを提供し、広告や追加課金なしのサブスクリプションモデルで月額6.99ドルという価格設定を維持しています。この買収により、Appleは品質管理とコンテンツ確保の両面でより強固な基盤を築くことができると考えられます。
長期的な視点では、この動きはAppleエコシステムの囲い込み戦略の一環として理解できます。高品質なゲームコンテンツを独占的に提供することで、ユーザーの他プラットフォームへの流出を防ぎ、デバイス買い替え時の継続率向上を狙っていると考えられます。ただし、2人という小規模チームの買収が、GoogleやTencentといった競合他社に対する競争優位性にどの程度寄与するかは今後の展開次第です。
【用語解説】
Apple Arcade:Appleが2019年9月に開始したゲームサブスクリプションサービス。月額6.99ドルで200以上のゲームが広告や追加課金なしで楽しめる。iPhone、iPad、Mac、Apple TVで利用可能で、ファミリーシェアリングにも対応している。
RAC7:2014年にカナダ・バンクーバーで設立された2人組のインディーゲーム開発スタジオ。共同創設者はジェシー・リングローズとジェイソン・エニス。『ダーク・エコー』『スプリッター・クリッターズ』『スニーキー・サスカッチ』などの受賞歴のあるゲームを開発。
スニーキー・サスカッチ:RAC7が開発したアドベンチャーゲーム。2019年にApple Arcadeのローンチタイトルとしてリリースされ、2020年にApple Arcade Game of the Yearを受賞。プレイヤーはサスカッチとなってキャンプ場で様々な活動を行う。
インディーゲーム:独立系の小規模開発チームが制作するゲーム。大手パブリッシャーに依存せず、創造性と独自性を重視した作品が多い。
【参考リンク】
Apple Arcade公式サイト(外部)Appleが提供するゲームサブスクリプションサービスの公式ページ。利用可能なゲーム一覧や料金プラン、対応デバイスなどの詳細情報を確認できる。
RAC7公式サイト(外部)カナダのインディーゲーム開発スタジオRAC7の公式ウェブサイト。開発チームの紹介や過去作品の詳細、最新情報を掲載している。
【参考動画】
【参考記事】
Apple Acquires Gaming Studio RAC7, Developer of ‘Sneaky Sasquatch’ | MacRumors
Apple Buys Its First Ever Video Game Studio | CNET
【編集部後記】
今回のAppleによるRAC7買収は、非常に興味深い動きです。『スニーキー・サスカッチ』をプレイしたことがある方なら分かると思いますが、あの独特な世界観とゆるい雰囲気は、まさに「Apple Arcadeらしさ」を体現した作品でした。2人という超小規模チームでここまでクオリティの高いゲームを作り続けてきたRAC7の技術力は本当に驚異的です。個人的に気になるのは、内製化によって開発ペースがどう変わるかという点と、インディーゲームならではの自由度が失われないかという懸念です。一方で、Appleの技術力と組み合わさることで、Vision Proでの新しいゲーム体験など、これまでにない革新的な作品が生まれる可能性にも期待が膨らみます。