「規則には従っている」と言えるのかどうか。EUの相互運用性義務に応える形で、Appleは新しいペアリング機能を用意しつつありますが、それは自社設計のAPIの枠内に限られています。両者の言い分の間に立つと、規制の実効性という論点がくっきりと見えてきます。
Meta社は、Ray-Ban MetaグラスとMeta Quest向けに、AirPodsのようなクラウド経由の自動ペアリング機能をAppleに要求している。EUのデジタル市場法(DMA)に基づく相互運用性リクエストの一環で、2025年10月31日に正式提出した。内容は、iPhoneにペアリングした端末を、同一ユーザーの他のiPadにも自動的にペアリングさせるというもの。
Appleは2026年2月、AccessorySetupKit(ASK)という新APIでの対応を提示したが、ASKはEU域内限定の運用であるとMetaが不満を示し、Appleは他社もこのAPIを域外で使用していると反論した。ASKの本格対応完了は2027年春を予定している。
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Facebook demands AirPods-like pairing for its glasses and headsets
【編集部解説】
EUのデジタル市場法(DMA)第6条7項は、Appleのようなゲートキーパーに対し、自社製品が使える機能を第三者にも同条件で開放するよう義務付けています。欧州委員会が2025年3月に採択した仕様決定は、「近接自動ペアリング」をはじめとする9つの接続機能について詳細を定めており、近接自動ペアリングの説明ではAppleブランドかどうかを問わず同じ手順で動作することが明記されています。この「対等な扱い」という原則は、他の8機能にも共通して求められているものです。
Metaが求めているのは、この枠組みを使い、Ray-Ban MetaグラスやMeta Questを一台のiPhoneとペアリングすれば、同じユーザーの他のiPhone・iPadにも自動的に反映される仕組みです。AirPodsやApple Watchは既にこの体験を持っていますが、サードパーティ製品にはこれまで提供されてきませんでした。
Appleは2026年2月、AccessorySetupKit(ASK)という新しいAPIをベースにこの機能を実装する計画を示しました。一見するとMetaの要求に応える動きに見えますが、Metaはこの提案の中核機能自体は認めつつも、ASKへの一本化には異議を唱えています。Meta側の理由は、ASKはEU域内向けの実装であり、これに合わせると、世界中で使っているCore Bluetoothベースのペアリングの仕組みと体験の一貫性が崩れる、というものです。
つまり、Appleは「相互運用性には応じる」が「自社が設計したAPIの枠内でのみ」という条件を付けている構図です。規則の文言には従っているものの、Metaが実際に必要としているのは世界共通で使える仕組みであり、両者の間にはずれが生じています。
DMAの仕様決定は、第三者向けの相互運用ソリューションについて、Apple自身が使っているものと「同等に効果的」であること、「より煩雑な設定や追加の手間を求めてはならない」ことを明記しています。EU域内限定・特定APIへの一本化という現在のAppleの提案は、この「同等性」の原則と完全には整合していないように見えます。一方で、この規則自体は「非遵守決定」ではなく「仕様決定」であり、欧州委員会はAppleがDMAに違反していると認定したわけではなく、罰金も伴いません。つまり現時点では、Appleの対応が規則違反かどうかを判定する法的な仕組みは動いていません。
なお、音声自動切り替え機能に関する仕様決定では、「未接続の第三者機器を利用可能な音声出力先として表示する」機能について、2027年6月までの対応が求められています。Appleが示した「2027年春」というASKの完成時期は、この規制上の期限とおおむね整合しており、単純な先延ばし戦術とは言い切れない側面もあります。
Metaは、Appleの正式な紛争解決手続き(Interoperability Request Review Boardによる審査)をまだ発動していません。この手続きが開始されれば、Appleの提案が「同等に効果的」かどうかについて、より公式な判断が下される可能性があります。逆に言えば、Metaがこの手続きに踏み込まない限り、現状の応酬は当事者間の非公式なやり取りにとどまります。
Metaは以前にも、DMAの相互運用性請求の枠組みを使い、正当な用途が見えにくいiPhoneユーザーデータへのアクセスを求めていた経緯があります。今回のペアリング要求はそれよりも利用者の利便性に直結する内容ですが、「相互運用性」という制度が、消費者のための機能開放と、企業間の競争戦略の両方に使われている点は共通しています。
【関連記事】
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Appleがこの相互運用性義務そのものに異議を申し立てていた経緯は、以前お伝えした通りです。
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AppleとMetaは、これ以前にもDMA違反で制裁金を科された経緯があります。
【編集部後記】
「同等に効果的」とは、誰が、どの基準で判断するのでしょうか。
規則を作る側でも、開放する側でもありません。
判定の材料は、公開された往復書簡という形でしか、私たちの手元に届いていません。
そこにあるのは、技術仕様の是非というより、「どちらの言い分を信じるか」という問いです。
Appleの説明にも、Metaの反論にも、それぞれの理屈があります。
私たちにできるのは、その理屈を鵜呑みにせず、継続的に確かめ続けることだけかもしれません。
【用語解説】
デジタル市場法(DMA):2022年11月に発効し、2024年3月にゲートキーパー企業への全面適用が始まったEUの競争法規。
ゲートキーパー:DMAが指定する大規模プラットフォーム企業。Apple、Alphabet、Meta、Amazon、Microsoft、ByteDanceの6社が対象。
相互運用性請求(Interoperability Request):DMA第6条7項に基づき、開発者がAppleに対しiOS機能への第三者アクセスを求める正式な申請手続き。
AccessorySetupKit(ASK):Appleが提供するアクセサリペアリング用API。今回Metaの要求への対応策として、この枠組みでの実装が提示されている。
Core Bluetooth:Metaが現在Ray-Ban MetaグラスやMeta Questのペアリングに使用しているBluetooth接続用APIフレームワーク。
Interoperability Request Review Board(IRRB):Appleの相互運用性請求プロセスにおける内部審査機関。却下された相互運用性請求について、開発者は15営業日以内に不服を申し立てることができ、IRRBはその申立てから30営業日以内に決定を下す。
仕様決定(Specification Decision):欧州委員会がDMA遵守のための具体的措置をゲートキーパーに示す手続き。違反認定・罰金を伴う「非遵守決定」とは異なる。
【参考リンク】
Apple公式サイト(外部)
iPhone・iPad・Macなど製品情報と企業情報を掲載するAppleの公式サイト。
Ray-Ban Meta公式ページ(外部)
Meta社のAI搭載スマートグラス「Ray-Ban Meta」の製品仕様・価格を掲載する公式ページ。
Meta Quest公式ページ(外部)
Meta社のVRヘッドセット「Meta Quest」シリーズの製品情報を掲載する公式ページ。
【参考記事】
Interoperability – Digital Markets Act (DMA)|European Commission(外部)
欧州委員会によるDMA相互運用性義務の公式Q&A。9機能の内容・実装期限・「同等に効果的」原則、IRRB手続きの根拠として使用。
Meta challenges Apple’s plan for EU-mandated third-party device interoperability|9to5Mac(外部)
Metaが提案の中核機能を認めつつASK一本化に異議を唱えている経緯を報じた記事。
Apple Plans AirPods-Like Pairing for Meta’s Glasses and Quest|MacRumors(外部)
Metaが正式な紛争解決手続き(IRRB)をまだ発動していない事実、EU域内限定・2027年春ロールアウトの詳細を報じた記事。












