映画館でVRゴーグルを装着し、アーティストの映像を見るだけでなく、その物語の一員になる。そんな体験は、劇場へ足を運ぶ理由をどう変えるのでしょうか。Immersive Zeroの仕組みから、映画館型XRの可能性と普及に必要な条件を考えます。
株式会社STYLYと株式会社ローソン・ユナイテッドシネマは、映画館型XRエンターテインメント「Immersive Zero」を2026年9月25日から開始する。第1弾はBALLISTIK BOYZ主演の「BALLISTIK BOYZ SHOOTING STARS」で、神奈川・大阪・東京の3劇場で順次上映する。
来場者はMV撮影のメイキングカメラマンとして参加し、至近距離のパフォーマンスや、選択したメンバーを撮影する個別演出を体験できる。料金は4,900円(税込)で、チケットは各劇場の窓口と公式ウェブサイトで販売される。
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次世代シアター「Immersive Zero」、9月25日から上映を開始 第一弾「BALLISTIK BOYZ SHOOTING STARS」を神奈川・大阪・東京で順次上映
アイキャッチ画像は公式プレスリリースより引用
【編集部解説】
スクリーンではなく「劇場の運営基盤」を活用するXR
Immersive Zeroの特徴は、単に映画館でVR映像を上映することではありません。全席でVRデバイスを利用し、来場者が劇場の座席に座ったまま体験する仕組みです。映画館の遮音性や音響環境に加え、会場提供、劇場運営、チケット販売の仕組みをXR興行に活用しています。
2026年5月に発表された段階では、体験満足度だけでなく、全席でVRデバイスを運用する際の劇場内の導線や、応募・受付フローの受容性も検証項目に挙げられていました。つまり、このプロジェクトでは、コンテンツの面白さだけでなく、VR興行を映画館で継続的に運用できるかも検証していたと読み取れます。
家庭でVRを体験するには、通常、利用者側で対応機器や設定環境を用意する必要があります。一方、Immersive Zeroでは機器を持参する必要がなく、劇場の椅子に座れば体験を始められます。映画館を利用する意味は大画面を見ることではなく、XRを体験するまでの準備や運用を施設側が引き受ける点にあると考えられます。
参加感を生むのは、自由移動ではなく「役割」と「選択」
今回の「BALLISTIK BOYZ SHOOTING STARS」で、来場者に与えられるのは観客という立場ではありません。MV撮影に参加するメイキングカメラマンとして物語に入り、選択したメンバーの担当カメラマンになる場面も用意されています。完成したパフォーマンスを見るのではなく、撮影現場にいる人物として体験する構成です。
ただし、自由に歩き回るタイプのロケーションベースVRとは異なります。体験者は座席に座り、上映中に立ち上がったり、飛んだり跳ねたりする行為は禁止されています。今回のインタラクティブ性は、身体を自由に動かすことではなく、物語上の役割を与え、メンバーを選択させることで生み出されています。
これは、映画館の安全管理や一斉運営の仕組みを大きく変えずに、従来の映像鑑賞よりも当事者性を高める設計といえます。映画館が「同じ作品を同じ視点で見る場所」から、「同じ作品の中で異なる立場を体験する場所」へ変わる可能性が見えます。
現時点では、映画上映の代替ではなく期間限定イベント
今回の一般上映は、神奈川、大阪、東京の3劇場に限られています。ローソン・ユナイテッドシネマは全国41劇場のネットワークを持ち、将来的な多拠点展開を掲げていますが、現段階で全国展開が決まったわけではありません。まずは限られた劇場で、実際の興行として運用する段階です。
料金はVRデバイス利用料を含む4,900円で、7歳未満は利用できません。VR酔いの可能性があるほか、大きな眼鏡フレームではゴーグルを装着できない場合があり、上映中の飲食も制限されています。通常の映画鑑賞とは異なる体験価値がある一方、年齢や体調、装着条件によって利用できない人がいることは、普及時の課題になります。
先行する別のVRショーケースでは約500人が来場し、主催者のアンケートで99%が次回参加への意欲を示したと発表されています。ただし、別コンテンツの参加者を対象とした主催者調査であり、Immersive Zeroの継続的な需要を直接示すデータではありません。
映画館型XRが定着するには、機器の装着支援や劇場内の運用を円滑に行えることに加え、料金を支払って繰り返し訪れたくなるコンテンツを継続的に用意する必要があります。今回の上映は、映画館そのものを置き換える試みというより、映画館に新しい興行の選択肢を追加できるかを確かめる段階と見るのが適切です。
【編集部後記】
映画館でVRを体験するという試みは、素直に面白いと感じました。
自宅のVRとは違い、音響や照明を含めた映画館の環境ごと楽しめる点にも魅力があります。
作品を見るだけでなく、その中に参加する感覚を味わえるのも新鮮です。
映画館ならではの新しい使い方として、今後どのようなコンテンツが登場するのか気になります。
一度きりの企画で終わらず、継続的な上映形式として定着してほしいところです。
まずは実際の劇場で、その違いを体験してみたくなります。
【用語解説】
XR(Extended Reality)
VR、AR、MRなど、現実空間とデジタル空間を組み合わせた体験や技術の総称。
VR(Virtual Reality)
ヘッドセットなどを装着し、映像と音響によって構築された仮想空間を体験する技術。
ロケーションベースエンターテインメント(LBE)
自宅ではなく、映画館や商業施設、専用体験施設など、特定の場所を訪れて楽しむ体験型エンターテインメント。施設側が機器やコンテンツ、運営環境を用意する。
IP(知的財産)
作品、キャラクター、アーティスト、ブランドなど、コンテンツビジネスで利用される知的財産。
VR酔い
VR映像から得る視覚情報と、身体が感じる動きのずれなどによって、吐き気やめまい、頭痛などが生じる状態。
【参考リンク】
Immersive Zero公式サイト(外部)
映画館の全席でVRデバイスを利用し、アーティストを至近距離で体験する次世代シアタープロジェクトの公式サイト。
BALLISTIK BOYZ SHOOTING STARS公式公演情報(外部)
上映会場、料金、チケット販売、対象年齢、眼鏡の装着条件、VR酔い、上映中の行動制限などを掲載した公式特設ページ。
STYLY公式サイト(外部)
都市や施設でのロケーションベースXR体験の企画、制作、運営や、XRコンテンツ制作・配信基盤を提供する企業の公式サイト。
ローソン・ユナイテッドシネマ公式サイト(外部)
上映スケジュール、チケット販売、劇場情報などを掲載する映画館運営会社の公式サイト。
BALLISTIK BOYZ公式アーティストページ(外部)
メンバーのプロフィール、作品情報、出演情報などを掲載するLDH JAPAN公式ページ。
KDDI公式サイト(外部)
Immersive Zeroを共同展開するKDDIの企業情報、通信・デジタル関連事業、ニュースリリースを掲載。
【参考記事】
映画館で“ゼロ距離”体験。次世代シアター「Immersive Zero」プロジェクトを始動|ローソン・ユナイテッドシネマ/STYLY(外部)
プロジェクトの目的、全席でのVRデバイス利用、映画館の運営基盤を活用した検証内容、今後の多拠点展開構想を説明した共同発表。
映画館で“ゼロ距離”体験。次世代シアター「Immersive Zero」プロジェクトを始動|STYLY(外部)
2026年5月のプロジェクト始動時に発表されたプレスリリース。試写会を通じて体験価値と劇場運営モデルを検証する方針を説明。


















