Last Updated on 2025-03-28 15:05 by admin
ByteDanceのPico 4 Ultra向けOS 5.13.0アップデートが2025年3月に提供開始された。このアップデートはPico 4 Ultraの発売から約6ヶ月後となり、スペーシャルコンピューティング機能を大幅に強化している。
Pico 4 UltraはSnapdragon XR2 Gen 2チップセットを搭載するMeta Quest 3の唯一の直接的な競合製品であるが、前モデルと同様に北米市場では販売されていない。
主な新機能として、ウィンドウの自由な配置機能が追加された。これまでPico OSではユーザーを中心とした360°の球面上でしかウィンドウを移動できなかったが、OS 5.13.0からはAppleのvisionOSやMetaのHorizon OSと同様に、距離調整を含めて好きな場所に配置できるようになった。
また、ギャラリー内の2D画像を3D画像に変換する機能や、iPhone 16で撮影したスペーシャルフォトを表示する機能も追加された。後者はこれまでApple Vision Proでのみ可能だった機能である。
さらに、3D画面録画機能も追加され、パススルーカメラからの映像だけでなく、VRや複合現実のオブジェクトやインターフェースも含めて記録できるようになった。これは他のヘッドセットには見られない独自機能である。
Performance Tunerという新アプリを通じて、通常は各アプリが設定するグラフィックスやパフォーマンスのオプションをオーバーライドする機能も追加された。これには画面リフレッシュレート、レンダリング解像度、CPUとGPUのレベル、固定フォビエイテッドレンダリングの極端さなどが含まれる。この機能は開発者向けでデベロッパーモードの有効化が必要である。
その他、低照度条件下でのパススルー品質の向上、ハンドトラッキングの改善(レイテンシーと誤タッチの低減、低照度条件下での安定性向上など)、Pico Trackersアクセサリーを使用したボディトラッキングの品質向上(長時間の座位や横臥時の姿勢安定性向上、データ更新頻度の増加など)も実施された。
from Pico 4 Ultra Gets Free Window Positioning, 3D Recording, 3D Photo Conversion & More
【編集部解説】
Pico 4 Ultra OS 5.13.0アップデートは、XR(拡張現実)デバイス市場における競争の激化を反映しています。ByteDanceは、AppleのVision ProやMetaのQuest 3に対抗するため、ユーザー体験を向上させる重要な機能を次々と追加しています。
特に注目すべきは「自由なウィンドウ配置」機能です。これまでPico OSでは、ウィンドウはユーザーを中心とした一定距離の球面上にしか配置できませんでしたが、今回のアップデートでこの制限が撤廃されました。これにより、複数のアプリケーションを使用する際の柔軟性が大幅に向上し、生産性向上につながるでしょう。
2Dから3D画像への変換機能やiPhone 16で撮影したスペーシャルフォトの表示対応は、Appleのエコシステムとのクロスプラットフォーム互換性を高める戦略的な動きと言えます。特に、Vision Proでしか見られなかったiPhoneのスペーシャルフォトを表示できるようになったことは、ユーザーの選択肢を広げる重要な一歩です。
3D画面録画機能は、他のヘッドセットにはない独自機能として、コンテンツクリエイターやデベロッパーにとって魅力的なツールとなるでしょう。VRやMR(複合現実)体験を3Dで記録・共有できることで、新たなコンテンツ制作の可能性が広がります。
Performance Tunerアプリによるグラフィックスとパフォーマンスオプションのオーバーライド機能は、デベロッパー向けの機能ですが、ユーザーがハードウェア性能を最大限に活用できる可能性を秘めています。
パススルー、ハンドトラッキング、ボディトラッキングの改善は、日常的な使用体験の質を向上させる地道な改良であり、XRデバイスの実用性を高める重要な要素です。特に低照度環境での性能向上は、様々な環境での使用を可能にし、XRデバイスの活用シーンを広げることにつながります。
一方で、このような急速な技術革新には潜在的なリスクも存在します。プライバシーやセキュリティの問題、デジタル依存症の増加、現実世界とバーチャル世界の境界線の曖昧化などが懸念されます。
また、XR技術の普及に伴い、法規制や倫理的ガイドラインの整備が急務となるでしょう。特に、3D画面録画機能や2Dから3D画像への変換機能は、著作権や個人情報保護の観点から新たな課題を提起する可能性があります。
長期的には、XR技術はコミュニケーション、教育、医療、エンターテインメントなど、様々な分野に革命をもたらす可能性を秘めています。Pico 4 Ultra OS 5.13.0のような先進的なアップデートは、その未来への一歩と言えるでしょう。
【用語解説】
ByteDance(バイトダンス):TikTokを運営する中国のテクノロジー企業。2012年に創業され、現在は多国籍企業として世界中で事業を展開している。PICOブランドを所有し、XR(拡張現実)デバイス市場にも参入している。
Snapdragon XR2 Gen 2:Qualcomm社が開発したXRデバイス向けのチップセット。Meta Quest 3などに搭載されており、高性能なVR/MR体験を可能にする。スマートフォンのプロセッサと比較すると、XR専用に最適化されており、3D空間処理や空間認識に特化している。
フォビエイテッドレンダリング(Foveated Rendering):ユーザーの視線が向いている部分は高解像度で、周辺視野は低解像度でレンダリングすることで、処理負荷を軽減する技術。人間の目の仕組み(中心視野は鮮明だが周辺視野はぼやける)を模倣している。「固定フォビエイテッドレンダリング」は視線追跡を使わず、画面中央を常に高解像度で表示する手法。
パススルー:VR/MRヘッドセットのカメラを使って外部の現実世界を見ることができる機能。ユーザーはヘッドセットを装着したまま現実世界とバーチャル世界を行き来できる。いわば「デジタルの窓」を通して現実を見る技術。
スペーシャルコンピューティング:物理空間とデジタル空間を融合させ、3D空間内でコンテンツやアプリケーションとインタラクションできるようにする技術。現実空間に仮想オブジェクトを配置するような体験を可能にする。従来の2Dスクリーンベースのコンピューティングから、空間を活用した3Dコンピューティングへの進化と捉えることができる。
【参考リンク】
PICO公式サイト(外部)PICO 4 Ultraなど同社のXRデバイス製品情報、アプリ情報、サポート情報などを提供している。
ByteDance公式サイト(外部)ByteDanceの企業情報、ミッション、製品ポートフォリオなどを紹介している。
Tobii(アイトラッキング技術)(外部)アイトラッキングとフォビエイテッドレンダリング技術に関する詳細情報を提供している。
アスク(PICO日本正規代理店)(外部)PICO製品の日本における正規代理店。ビジネス向けPICO製品の販売やサポートを行っている。