Last Updated on 2025-05-02 10:55 by admin
2025年4月、ドイツ・ボン大学病院精神科・心理療法科の研究チームは、成人の注意欠如・多動症(ADHD)を高精度で識別するAIモデルを開発したと発表した。この研究成果は学術誌「Translational Psychiatry」に掲載されている。研究では、バーチャルリアリティ(VR)環境下で注意課題を実施し、視線追跡、頭部運動、自己申告症状、脳波(EEG)など複数のデータを収集。機械学習モデルによりADHDの有無を判別した。訓練データはADHD群25名・非ADHD群25名、検証データはADHD群18名・非ADHD群18名の計86名を対象とした。独立した検証サンプルでは判別精度81%(感度78%、特異度83%)を達成。診断に最も寄与したのは自己申告症状、視線データ、課題成績、頭部運動であり、EEGデータは精度向上に寄与しなかった。研究チームは今後さらに大規模な検証を行い、臨床現場で利用可能な標準化ツールの開発を目指している。
from AI model predicts adult ADHD using virtual reality and eye movement data
【編集部解説】
従来の成人ADHD診断は、主に臨床面接や自己申告に依存しており、記憶の偏りや虚偽報告による誤診リスクが課題でした。今回の研究は、VR環境で現実に近い注意課題を実施し、視線や頭部運動などの客観的データをAIで解析することで、診断の精度と客観性を大きく高めています。
特に、視線追跡や頭部運動のデータが診断に有用であった点は、従来の静かな検査室では捉えきれなかったADHD特有の行動を可視化する新たなアプローチといえます。
一方、EEG(脳波)データが診断精度向上に寄与しなかった点は、神経科学分野の従来研究と異なる興味深い結果です。今後はサンプル規模の拡大や多様な集団での検証、AI診断の透明性やデータプライバシーの確保、医療現場での実装体制の整備が求められます。VR×AIによる診断技術は、ADHDのみならず他の神経発達障害や精神疾患への応用も期待でき、精神医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速する可能性を秘めています。
【用語解説】
ADHD(注意欠如・多動症):発達障害の一種で、不注意・多動性・衝動性が特徴。大人にもみられる。
バーチャルリアリティ(VR):コンピュータで作られた仮想空間を体験できる技術。
アイトラッキング(視線追跡):目の動きを計測し、どこを見ているかを分析する技術。
機械学習(AIモデル):大量のデータからパターンを学び、分類や予測を行う人工知能技術。
EEG(脳波):頭皮上の電極で脳の電気的活動を測定する方法。
ボン大学(University of Bonn):ドイツ・ボン市にある総合大学。精神科・心理療法科が本研究を実施。
【参考リンク】
University of Bonn(外部)ドイツの名門総合大学。精神医学や心理学の先端研究を行う。
Translational Psychiatry(外部)精神医学分野の国際的な学術誌。本研究論文の掲載誌。