Airbus Helicoptersは2026年6月8日、ドイツ・ベルリンのILA Berlin航空ショーに合わせ、H145の無人化バージョン「U145」を発表し、会場で実物大モックアップを展示すると明らかにした。セーフティパイロット同乗での初飛行は2026年末、就役は2030年代初頭を予定する。
U145はVSR700に続きAirbusが無人化する2機目の有人ヘリコプターで、専用センサースイートとAIによる完全自律飛行に対応し、物理的なコックピットを持たない。最大離陸重量は3,800kg、主用途は大量貨物輸送で、ドローン母機機能ではMBDAと提携する。米国ではAirbus U.S. Space & DefenseがShield AI、L3 Harris、Parry Labsと共同で、Lakota UH-72Bの自律版MQ-72Cを米海兵隊向けに提供する。H145ファミリーは1,800機以上が運用され、累計飛行時間は850万時間を超える。
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Airbus introduces uncrewed version of the H145, the U145
【編集部解説】
エアバスが発表した「U145」は、一見すると「ヘリコプターの無人版がまた一つ増えた」というニュースに見えます。しかしinnovaTopiaがこの発表を今お伝えするのは、これが有人航空機の「無人化」という潮流が、いよいよ実用機のレベルで本格化したことを示す節目だからです。
ポイントは、ゼロから新型ドローンを設計したのではなく、すでに1,800機以上が世界で飛び、累計850万飛行時間という膨大な実績を持つH145を土台にした点にあります。機体・エンジン・操縦系統といった「枯れて信頼できる部分」はそのまま使い、コックピットを取り払ってAIとセンサー群に置き換える。これにより開発リスクを抑え、認証面でも既存機の実績を活用しやすくなる可能性があります。
技術的に注目すべきは「完全自律(full autonomy)」という言葉の中身です。物流ドローンの基本は、あらかじめ設定した経由点(ウェイポイント)に沿って自動で飛ぶことですが、The War Zoneは、敵の脅威下や危険地帯での補給では、飛行経路をその場で動的に変更し、予期せぬ障害にリアルタイムで対応する高度な能力こそが価値を持つと指摘しています。U145が目指すのは、後者の領域です。ただし「完全自律」はあくまで開発目標であり、実運用での自律飛行が認証済みという段階ではない点には留意が必要です。
用途の広さも見逃せません。主用途は大量貨物輸送ですが、災害対応、消火、遠隔地への補給といった民生・公共分野から、武装偵察、監視、そして小型ドローンを空中発射する「ドローン母機」(この分野ではミサイル大手のMBDAと提携)まで、モジュラー設計で柔軟に役割を変えられます。人を乗せずに済むため、これまで有人機では躊躇された高リスク任務に投入できる——ここに無人化の本質的な意味があります。
一方で、この発表には強い地政学的な文脈が流れています。Aviation Weekは、エアバスが米国外で無人版を開発する判断の背景に、地政学の激変と、欧州が米国依存を減らして「主権的な(sovereign)防衛能力」を確立しようとする動きがあると報じています。実際エアバスは米国で、Shield AI・L3 Harris・Parry Labsと組んでLakota UH-72Bベースの「MQ-72C」を米海兵隊向けに開発済みですが、U145はそれとは完全に別系統の欧州独自開発だとされています。同じ会社が大西洋の両側で、別系統の無人ヘリ開発を同時に進めている構図です。
興味深いのは、両機の積載能力が結果的に近づきそうな点です。The War Zoneによれば、U145のペイロードは最大約2,600ポンド、米国のMQ-72Cはスリング搭載を含めて約4,000ポンドとされますが、両機のMTOW(最大離陸重量)はいずれも3,800kgで共通しています。出自の異なる2機が、同じH145ファミリーという根を持つがゆえに、似た能力域に落ち着いていく——技術系統の連続性がよく表れています。
市場の競争も激しさを増しています。米国ではSikorskyがブラックホークの無人版「U-Hawk」を実証段階まで進め、BoeingもChinookの無人化を将来構想として掲げています。海兵隊向けの物流ドローン分野ではRobinson R66などの小型機も別プログラムで競合しています。U145は完成された顧客基盤と整備性という強みを持つものの、後発として混戦市場に飛び込む形になります。
潜在的なリスクと課題も冷静に見ておく必要があります。完全自律の飛行体が人口密集地や混雑空域を飛ぶには、現行の航空法規や空域管理の枠組みが追いついていません。実際、欧州航空安全機関(EASA)は、高リスクな無人機運用について、認証や空域統合のための規制枠組みの整備を進めている段階です。誤作動やサイバー攻撃への耐性、そして「人を介さずに兵器を運用する」自律機の倫理的・法的な扱いも、今後の社会的議論を避けて通れないテーマです。U145の就役予定は2030年代初頭——裏を返せば、私たちはこれから数年かけて、この種の技術を受け入れる制度と合意を整える時間を与えられている、とも言えます。
innovaTopiaの視点で締めくくるなら、U145が象徴するのは「人が操縦する乗り物」から「人が目的だけを与え、機械が自律して遂行する乗り物」への移行です。空を飛ぶことの主役が、操縦技術からミッション設計へと静かに移っていく。その入口に、私たちは今立っています。
【用語解説】
UAS(無人航空機システム / Uncrewed Aerial Systems)
機体だけでなく、地上の管制装置や通信リンクを含めた「無人で飛ばす仕組み全体」を指す呼び方である。単体の機体を指す「ドローン」より広い概念として使われる。
完全自律(Full Autonomy)
人間が常時操縦・遠隔操作するのではなく、機体自身が状況を判断して飛行・任務を遂行する状態を指す。事前に設定した経由点をたどる基本的な自動飛行から、脅威や障害に応じて経路をその場で変える高度な判断まで段階がある。U145では開発目標として掲げられている。
ミッション非依存型(Mission-Agnostic)
特定の任務専用に設計するのではなく、装備の入れ替えで貨物輸送・偵察・消火などさまざまな用途に転用できる設計思想を指す。U145のモジュラー設計はこの考え方に基づく。
ドローン母機(Drone Mothership)/ エア・ローンチド・エフェクト(Air Launched Effects)
親となる航空機が、小型の偵察・攻撃用ドローンなどを空中で発射・展開する運用形態を指す。U145はこの母機としての役割も想定されている。
有人・無人連携(Crewed-Uncrewed Teaming)
パイロットが乗る従来型ヘリと無人機が編隊を組み、役割を分担して任務にあたる運用概念を指す。危険な任務を無人機が肩代わりする使い方が想定される。
FADEC(フルオーソリティ・デジタル・エンジン・コントロール)
エンジンの燃料供給や出力をコンピューターが全自動で最適制御する装置である。操縦者の負担を減らし、燃費や安全性を高める役割を持つ。
MTOW(最大離陸重量 / Maximum Take-Off Weight)
燃料・貨物・乗員などを含め、機体が安全に離陸できる総重量の上限を指す。U145・MQ-72Cともに3,800kgとされる。
モックアップ(Mock-up)
実際に飛行する機体ではなく、外観や内部レイアウトを実物大で再現した展示・検証用の模型を指す。ILA BerlinでU145として展示されるのはこのモックアップである。
ILA Berlin
ドイツ・ベルリンで開催される国際航空宇宙見本市である。欧州を代表する航空ショーの一つで、各社が新製品や技術を披露する場となっている。2026年の会期は6月10〜14日。
VSR700
AirbusがCabri G2をベースに開発した無人ヘリコプター。Airbusにとって最初の有人機ベースの無人化機であり、U145はこれに続く2機目にあたる。
MQ-72C(Lakota Connector)
Airbusが米国で、UH-72B Lakotaをベースに開発する無人ヘリ。U145とは別系統の独自開発で、米海兵隊向けに提供されている。
Lakota UH-72B
H145(旧EC145)の軍用派生型で、米陸軍などが運用する軽量双発ヘリコプター。MQ-72Cの母体となっている。
【参考リンク】
Airbus|H145(公式製品ページ)(外部)
U145のベースとなった多用途双発ヘリH145の公式ページ。仕様や運用実績、想定ミッションがまとまっている。
Airbus|Uncrewed Aerial Systems(UAS)(外部)
Airbusの無人航空機ラインアップ全体を紹介する公式ページ。名称統一後の製品群を確認できる。
Airbus U.S. Space & Defense|MQ-72C Lakota Connector(外部)
米国で別系統開発されるMQ-72Cの公式ページ。米海兵隊の無人輸送ニーズに向けた位置づけが説明されている。
Airbus Helicopters|VSR700(公式製品ページ)(外部)
U145の前身にあたる、Airbus初の有人機ベース無人ヘリVSR700の公式ページ。
MBDA(公式サイト)(外部)
U145のドローン母機機能で提携する欧州のミサイル大手。空中発射型装備などを手がける。
Shield AI(公式サイト)(外部)
MQ-72Cで自律飛行ソフト「Hivemind」を提供する米国の防衛AI企業。
L3Harris Technologies(公式サイト)(外部)
MQ-72Cでプラットフォーム統合を担う米国の防衛・通信大手。
【参考動画】
AirbusとShield AIによる自律無人ヘリMQ-72Cの提携
U145に先行するAirbusの無人ヘリ「VSR700」の自律飛行(参考)
【参考記事】
Airbus Unveils U145 Uncrewed Cargo Helicopter(The War Zone)(外部)
MTOW約8,400ポンド、ペイロード最大2,600ポンドを提示し、米国MQ-72Cと比較。欧州の防衛自立を背景に深掘りした記事。
Airbus To Reveal Uncrewed U145 At ILA Berlin Airshow(Aviation Week)(外部)
U145がMQ-72Cと別開発であると明示。初飛行・就役の時系列と地政学的背景を整理した記事。
Airbus unveils U145 uncrewed helicopter based on H145(AeroTime)(外部)
MTOW 3,800kgを明記し構成を整理。SikorskyのU-Hawk等にも触れ無人化の潮流に位置づけた記事。
MQ-72C Lakota Connector, US(Naval Technology)(外部)
MQ-72CのMTOWが3,800kgであると明記。米海兵隊ALC計画への対応など素性を確認できる記事。
Airbus launch uncrewed variant of H145 at ILA Berlin(RotorHub International)(外部)
災害対応から母機機能まで想定用途を網羅。VSR700に続く2機目という位置づけを整理した記事。
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【編集部後記】
取材を進めるなかで印象的だったのは、U145が「まったく新しい何か」ではなく、20年以上飛び続けてきたH145ファミリーの延長線上に置かれている点でした。革新は、必ずしも更地から生まれるわけではありません。信頼を積み重ねた土台の上に、自律という新しい層をそっと重ねる——その慎重さにこそ、空という失敗の許されない領域でのリアリティが宿っているように感じます。
同時に、私たちはこの技術が問いかけるものの大きさにも目を向けたいと思います。人が乗らない機体が当たり前に空を行き交う社会を、私たちはまだ十分に想像できていません。だからこそ、就役までの数年間は、技術の成熟を待つ時間であると同時に、私たち自身が向き合い方を考える時間でもあるはずです。innovaTopiaは、その答え合わせを読者のみなさんと一緒に続けていきたいと思います。












