エネコート、ペロブスカイト太陽電池の宇宙発電に成功|OrigamiSat-2が拓く軽量電源の未来

太陽電池と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、屋根に載った黒くて硬いパネルではないでしょうか。でも今、その常識をひっくり返すような薄くて軽い電池が、地上を飛び越えて宇宙で電気を起こし始めています。しかもそれは、折り紙のように小さく畳んで打ち上げ、軌道上でふわりと開く——そんな日本らしい発想の衛星の上での出来事でした。なぜ、わざわざ最も過酷な宇宙で発電を試すのか。その答えの先には、私たちの暮らしの風景を静かに変えていくかもしれない未来が広がっています。


株式会社エネコートテクノロジーズは、東京科学大学およびJAXAと共同で、超小型人工衛星「OrigamiSat-2」に搭載した同社製のフィルム型ペロブスカイト太陽電池の軌道上実証を実施し、宇宙空間での発電を確認したと2026年7月2日に発表した。

OrigamiSat-2はJAXAの革新的衛星技術実証4号機の実証テーマの一つで、2026年4月23日にニュージーランドからRocket Lab社のElectronで打ち上げられた。5月23日に膜展開実験に成功し、展開アンテナによる通信実験にも成功してフルサクセスを達成した。6月6日には太陽電池のIV特性の計測に成功した。

エネコートは2022年よりJAXA宇宙探査イノベーションハブと共同研究を進めてきた。

From: 文献リンクエネコート、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の宇宙実証に成功(PR TIMES)

【編集部解説】

まず、このニュースの核心を捉え直しておきたいと思います。見出しは「宇宙での発電に成功」ですが、ペロブスカイト太陽電池が宇宙で光を受けて電気を起こすこと自体は、実は世界初ではありません。2020年には短時間の弾道ロケット飛行で発電が確認され、2020〜2021年には国際宇宙ステーション(ISS)の高度408kmで、ペロブスカイト膜が約10か月間の宇宙曝露に耐えたという記録もあります。今回の本当の意味は、「実際に軌道上を回る人工衛星の、しかも折り畳んで展開する薄膜構造の上で、日本企業のフィルム型セルが発電した」という点にあります。

技術的にどこが難しいのか、少し噛み砕いてみましょう。宇宙は太陽電池にとって過酷な環境です。強い放射線が材料を傷め、1周回ごとに極端な温度差が繰り返し襲いかかります。ペロブスカイトはもともと湿気や熱に弱い素材として知られており、その繊細な膜を、極限まで軽く薄く畳んだ「折り紙」構造のアンテナ膜の上に載せて展開する——この組み合わせを軌道上で成立させたこと自体が、地道な工学の積み重ねの成果だと言えます。

では、この技術で何が可能になるのでしょうか。鍵は「比出力」、つまり重さ1kgあたり取り出せる電力の大きさです。薄いフィルム基板に作るペロブスカイトは、従来の硬い結晶シリコン系よりもはるかに軽量にできるため、同じ電力なら打ち上げ質量を減らせ、探査機や衛星の推進剤の節約や、新しいミッションの可能性につながると期待されています。ロケットに載せる1gが費用に直結する宇宙では、この「軽さ」が決定的な武器になります。

視野を地上に戻すと、エネコートの狙いはもっと広いことが見えてきます。同社は京都大学発のスタートアップで、トヨタ自動車と共同開発した4端子タンデム型セル(ペロブスカイト+結晶シリコン)で、セルレベルながら30.4%という世界最高クラスの変換効率を達成しました。さらに大阪・関西万博では、豊田合成がセーレンと手がけた「発電する服(スマートウェア)」に同社のセルが採用され、衣服の背面に貼った4枚のセルで、首掛け型の小型扇風機などに電気を供給する実証が行われています。「どこでも電源」という理念のもと、宇宙は同社にとって最も過酷な性能証明の舞台なのだと私は受け止めています。

一方で、冷静に押さえておくべき点もあります。今回確認されたのはIV特性の計測、いわば「発電できた」という第一歩であって、長期耐久性が保証されたわけではありません。プレスリリース自身が今後の劣化評価に言及しているとおり、宇宙での寿命はこれから検証される段階です。加えて、多くの高効率ペロブスカイトが微量の鉛を含む点は、環境・規制の観点から地上での本格普及に向けた継続課題として残ります。

長期的な文脈も見逃せません。今回打ち上げられた8基は当初、国産ロケット「イプシロンS」で打ち上げる予定でしたが、燃焼試験の失敗が続いた結果、JAXAは打ち上げをRocket Labに委ねる形になりました。宇宙用電源の内製化を進める一方で、打ち上げ手段は海外に頼らざるを得なかった——この対比は、日本の宇宙産業が抱える供給網の課題を静かに映し出しています。次世代エネルギーの覇権争いが地上から軌道上へと広がるなか、素材で世界をリードする日本がこの優位をどう産業へ結実させるか。その試金石が、今まさに高度540km付近を回っているのだと考えると、私は少し胸が高鳴ります。

【用語解説】

ペロブスカイト太陽電池
「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造を発電層に用いた次世代の太陽電池である。塗って乾かす低温プロセスで作れるため、薄く軽く柔らかく仕上げられる。原理は2009年に日本の研究者が提唱した、日本発の技術として知られる。

フィルム型(薄膜)太陽電池
硬いガラス基板ではなく、薄いフィルムを土台にした太陽電池を指す。軽量で曲げられるため、壁面や衣服、今回のような展開膜など、従来は置けなかった場所にも設置できる。

IV特性(電流-電圧特性)
太陽電池にどれだけの電圧をかけたとき、どれだけの電流が流れるかを示す基本データである。この曲線から発電性能を読み取れるため、「電気を起こせているか」を確かめる最初の指標となる。

比出力(specific power)
重さ1kgあたり取り出せる電力の大きさを表す指標だ。打ち上げ質量がそのまま費用に響く宇宙では、軽い電源ほど有利になるため、この値がとりわけ重視される。

3U CubeSat(キューブサット)
10cm角の立方体を1単位(1U)とする規格の超小型衛星のうち、3個分をつないだサイズのものを指す。OrigamiSat-2はこの3Uにあたる。

リフレクトアレーアンテナ/折り紙構造の展開膜
電波を反射して特定方向へ集める平面アンテナの一種である。OrigamiSat-2では、折り紙のように小さく畳んで打ち上げ、軌道上で大きく展開する膜構造の上に構成されている。

タンデム型セル
異なる種類の太陽電池を重ね、幅広い波長の光を効率よく使う構造をいう。エネコートはペロブスカイトと結晶シリコンを組み合わせた4端子タンデム型で高い変換効率を実現している。

革新的衛星技術実証4号機
大学や企業などが開発した新技術を、実際に軌道上で試す機会を提供するJAXAのプログラムの一つである。OrigamiSat-2はこの実証テーマに選ばれた衛星だ。

【参考リンク】

株式会社エネコートテクノロジーズ(外部)
京都大学発のペロブスカイト太陽電池スタートアップ。「どこでも電源®」を掲げ、フィルム型セルを開発する企業の公式サイト。

OrigamiSat-2 プロジェクト(ORIGAMI PROJECT)(外部)
OrigamiSat-2を開発する研究チームの公式ページ。折り紙構造の展開アンテナや衛星ミッションの詳細をまとめている。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
今回の実証の母体である「革新的衛星技術実証」を運営する機関の公式サイト。日本の宇宙開発全般の取り組みを紹介している。

Rocket Lab(外部)
OrigamiSat-2を打ち上げた小型ロケット「Electron」を運用する米国企業の公式サイト。ミッション情報や打ち上げ実績を掲載している。

【参考記事】

Perovskite solar cells for low earth orbit space applications(Energy Materials)(外部)
低軌道向けペロブスカイトの耐久性を論じた総説。ISSでの約10か月曝露で長期宇宙利用の可能性が示されたと報告している。

Launch Preview(NASASpaceFlight.com)(外部)
2026年4月の打ち上げ週をまとめた記事。8基のJAXA衛星がイプシロンSからRocket Labに切り替わった経緯を伝えている。

ペロブスカイト・タンデム型で変換効率30%超達成 エネコートとトヨタ(環境ビジネスオンライン)(外部)
エネコートとトヨタが4端子タンデムセルで変換効率30.4%を達成したと報じる記事。解説の数値の裏付け。

Rocket Lab Launches Eight JAXA Satellites on Kakushin Rising Mission(ICQ Podcast)(外部)
同ミッションの詳細報道。8基が高度およそ540kmの低軌道に投入され、1時間以内に分離が完了したことを伝えている。

Perovskite and Organic Solar Cells on a Rocket Flight(Joule / Cell Press)(外部)
ペロブスカイト等を弾道ロケット飛行に載せた実験論文。宇宙環境での発電を確認した初期事例で、飛行中にIV特性を計測した。

「スマートウェア」の実証実験を大阪・関西万博で開始(豊田合成)(外部)
豊田合成がエネコート製セルを衣服に搭載したスマートウェアを万博で実証すると発表した一次情報。訂正の裏付けに使用。

発電する服、万博で実験へ 豊田合成、次世代太陽電池(共同通信)(外部)
服の背面にエネコート製セル4枚を搭載し、発電した電気を首掛け扇風機などに使う想定であることを報じた記事。

【関連記事】

JAXA「革新的衛星技術実証4号機」8機のキューブサット軌道投入成功 今回発電したOrigamiSat-2の打ち上げ・軌道投入を報じた続報の起点。折り紙アンテナの仕組みも詳しい。

ペロブスカイト太陽電池、ITOフリーへ東京ガス×パワーロールが日本で共同実証開始 フィルム型ペロブスカイトの量産・実装の現在地。地上側での実用化の課題を補う一本。

ペロブスカイト太陽電池の商業化に光明──立体障害アミンが光劣化を防ぐ 本記事で触れた「劣化・耐久性」という核心課題に化学で挑んだ研究。宇宙での寿命検証と響き合う。

タンデム太陽電池セル:効率50%向上で太陽光発電の未来を切り拓く エネコートも登場するタンデム型の基礎解説。30.4%という数字の背景理解に役立つ。

【編集部後記】

正直に言うと、この一報を最初に見たとき、「宇宙で発電」という響きにワクワクしつつも、どこか遠い研究の話のように感じていました。でも調べていくうちに、印象がずいぶん変わったんです。この薄い電池は、いきなり宇宙から始まったわけではなくて、服に貼って扇風機を回したり、室内のわずかな光で小さな機器を動かしたりと、地上での地道な積み重ねの延長線上にあります。宇宙は、その実力を測るいちばん厳しい試験会場だったわけですね。

一方で、浮かれてばかりもいられないな、とも思いました。今回わかったのは「ちゃんと電気を起こせた」という第一歩で、これからの本番は、放射線や激しい温度差のなかでどれだけ長く働き続けられるかの検証です。技術って、華々しい発表のあとの、こういう地味な検証期間にこそ本当の価値が問われるのだと思います。

それでも、素材のところで日本が世界をリードしているというのは、素直に誇らしい気持ちになります。打ち上げは海外のロケットに頼らざるを得なかった現実も含めて、これからの日本がこの強みをどう育てていくのか。私も一人の読者として、続きをじっくり見守っていきたいと思っています。みなさんは、この「畳んで運べる電源」が、まずどんな場所で活躍したら面白いと感じましたか。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。