OpenAI、Appleの営業秘密訴訟に棄却申立て|主張は「調査不十分」

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AI開発競争の裏側では、人材の移動をめぐる訴訟がいくつも動いています。AppleとOpenAIの営業秘密訴訟もその一つで、これまではAppleが主導権を握ってきました。ここへきてOpenAIが攻守を入れ替え、裁判所に「棄却申立て」を提出しています。争点は、Appleの訴状が十分な調査を経て書かれたものかどうか。ビッグテック同士の法廷闘争は、いま新しい局面を迎えています。


OpenAIは8月6日、Appleが起こした営業秘密訴訟について、連邦判事に棄却を申し立てた。Appleの訴状は十分な調査を経ずに提出されたものであり、通常の業務行為を文脈から切り離して問題視していると主張する。申立てでは、Appleが具体的な営業秘密の存在や不正行為を法的基準に沿って示せていないとした。

焦点となったのは、訴状で名指しされたチャン・リウ氏とタン・タン氏をめぐる主張だ。リウ氏についてOpenAIは、Apple社員から情報取得を依頼されただけであり、ファイルの開示や自社ハードウェア開発への使用はないと反論する。タン氏が保持していたAppleの退職手続き文書についても、セキュリティ回避ではなく新規採用者への手続き遵守の徹底が目的だったと述べた。一方Appleは仮処分の獲得を求めており、審尋は10月1日に開かれる予定だ。

From: 文献リンクOpenAI asks for Apple’s trade secrets lawsuit to be dismissed, says it was filed without ‘adequate investigation’

【詳しい解説記事はコチラ】

【編集部解説】

棄却申立てが意味すること

OpenAIが提出した申立ては31ページに及び、「示せていない(fail)」という語だけで50回近く登場し、Appleの主張を執拗に「立証不足」と位置づけています。棄却申立ては、事実関係そのものを争う前の入り口の手続きです。「Appleの主張を仮にすべて事実だとしても、法的にトレードシークレット侵害と呼べる水準に達していない」と主張し、審理そのものを早期に打ち切ろうとする一手にあたります。

「調査不足」論の中身——Apple自身の運用を逆手に取る

興味深いのは、OpenAIが「調査不足」を単なる言葉の応酬で終わらせず、具体的な運用上の穴として描いている点です。申立てによれば、Appleは従業員が業務で個人のiCloudアカウントを使うことを許容しながら、退職後のアクセス権限を適切に失効させていなかったといいます。実例として、あるAppleのマネージャーが、チャン・リウ氏の退職後も本人の個人アカウントにログインしたままの状態で技術的な質問を持ちかけていた、という記録も提出されています。「情報へのアクセスが残っていたのはApple自身の運用の帰結であり、それを窃取の証拠に転化することはできない」というのがOpenAI側のロジックです。

一方Appleの訴状(7月10日提出、41ページ)は、技術スタッフから最高ハードウェア責任者まで「あらゆる階層」で不正が起きたと主張し、2026年2月の時点で懸念をOpenAIに直接伝えたものの十分な対応がなかった、としています。双方は同じ事実(アクセス権限が退職後も残っていたこと)を、「誰の落ち度か」という一点でまったく逆に解釈しています。

OpenAIが持ち込む「実績」——xAI訴訟という前例

今回の申立てが依拠する法的ロジックには、OpenAI自身がつい2カ月前に勝ち取ったばかりの前例があります。xAIがOpenAIを相手取って起こした営業秘密訴訟は、2026年6月15日、リタ・リン判事によって却下されました。しかも訴状の書き直しさえ認めない、厳しい形での却下です。リン判事はその際、営業秘密を保有しているというだけでは不正流用の立証にはならず、採用面接で前職の経験を尋ねる行為自体も開示の勧誘とは言えない、という判断を示しました。ある弁護士はこの判決について、従業員の転職が絡む営業秘密訴訟の立証のハードルを高めるものだと評しています。

Appleの訴状とxAIの訴状は、争っている情報の種類も持ち出し方の具体性も異なるため、同じ結論になるとは限りません。xAIの訴えが「採用面接で前職の経験を尋ねられただけ」という間接的な構図で退けられたのに対し、Appleの訴状はリウ氏が認証上の不具合を発見し、それを利用して数週間にわたり社内システムへアクセスしたという、より具体的な行為を主張しています。この技術的な具体性の差が、判事の判断を分ける可能性があります。ただしOpenAIが、直近で結果を出したばかりの法的主張の型を再利用していることは確かです。

ビッグテック同士の訴訟が重なり合う構図

この訴訟を単独の事案として見ると、全体像を見誤ります。Apple・OpenAI・xAIの3社は、この1年で複数の訴訟を通じて絡み合っています。xAIは2025年8月、AppleのApp StoreランキングがChatGPTを不当に優遇しているとして、AppleとOpenAIの両社を相手取り反トラスト訴訟を起こしました。この訴訟は却下を免れ、現在も係属中です。同じ時期、xAIはOpenAIを営業秘密でも提訴し、先述の通り2度にわたって退けられました。そして今度はApple対OpenAIです。

3社のうち2社が組んで残る1社を訴える、という構図が入れ替わりながら続いています。AIハードウェア・AIエージェント・App Store経済圏という限られたパイを限られたプレイヤーが奪い合う局面では、人材の移動そのものが競争上の情報の移動と紙一重になりやすい、という共通の緊張がここにはあります(この見立ては編集部の解釈です)。

裁判所は8月17日までにOpenAIへ仮処分請求への正式な応答を求めており、10月1日には仮処分の審尋が控えています。今回の棄却申立てが認められるかどうかは、この二つの節目を経て徐々に見えてくることになります。

【関連記事】

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OpenAI社長ブロックマン氏は、この訴訟についてインタビューでも反論しています。

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Apple人材のOpenAIへの流出は、この訴訟以外の場面でも続いています。

【編集部後記】

人材の転職と営業秘密の境界は、業界の外からは見えにくいものです。今回の法廷での応酬は、同じ事実(退職後もアクセス権限が残っていたこと)を、当事者双方がまったく逆の物語として語っている点に特徴があります。どちらの言い分にも一理あるように読めてしまう、その曖昧さこそが、この種の訴訟が長引く理由なのかもしれません。判事がどちらの物語を採用するのか、10月の審尋がひとつの目安になりそうです。


【用語解説】

営業秘密(Trade Secret)
非公開であることによって経済的価値を持つ情報。製法、顧客リスト、設計データなど。米国では連邦法DTSA(Defend Trade Secrets Act)と各州法の両方で保護される。

棄却申立て(Motion to Dismiss)
事実関係の審理に入る前に、訴状の主張が法的要件を満たしていないとして訴訟自体の却下を求める手続き。認められれば本格的な証拠開示(ディスカバリー)に進まずに終結する。

仮処分(Preliminary Injunction)
訴訟の決着を待たずに、当事者の一方に特定の行為の停止などを命じる暫定的な裁判所命令。

io Products
Appleの元デザイン責任者ジョニー・アイブ氏が設立したハードウェア企業。2025年にOpenAIと合併し、OpenAIのハードウェア事業の中核となっている。

【参考リンク】

OpenAI 公式サイト(外部)
OpenAIの製品・研究・企業発表を掲載する公式ページ。

Apple 公式サイト(外部)
Appleの製品・企業情報を掲載する公式ページ。

OpenAI「Apple is getting this wrong」(外部)
OpenAIが訴訟に関して公開した反論文書。iMessageのやり取りなど証拠資料を含む。

USPTO Trade Secret Policy(外部)
米国特許商標庁による営業秘密制度の解説ページ。DTSAの背景を含む一次情報。

【参考記事】

OpenAI files motion to dismiss Apple trade secrets lawsuit — Axios(外部)
申立ての規模(31ページ)と、”fail”という語の多用など、文書の性格を報じる。

OpenAI says Apple’s own security practices undermine its trade secrets case — TechCrunch(外部)
Appleのセキュリティ・オフボーディング運用を逆手に取るOpenAIの防御戦略を詳報。

OpenAI Turns Apple’s iCloud Policy Into Trade Secrets Defense in Motion to Dismiss — Tech Times(外部)
マネージャーのアカウントログイン残存の具体例、8月17日の応答期限など日程面を詳報。

Apple Accuses OpenAI of Poaching Talent and Taking Trade Secrets Along the Way — Smartprix(外部)
Appleの原訴状(7月10日提出・41ページ)の内容と、2026年2月の懸念伝達の経緯を報じる。

Judge tosses xAI claims that OpenAI stole trade secrets — Courthouse News Service(外部)
xAI対OpenAI訴訟が却下された際(2026年6月15日)の判事の法的理由を詳報。

Musk lawsuit accusing OpenAI, Apple of colluding to hurt xAI heads to trial — CNBC(外部)
xAIがApple・OpenAI両社を相手取り起こした反トラスト訴訟(2025年8月)の経緯を報じる。

Apple & OpenAI must face baseless xAI lawsuit about alleged anticompetitive collusion — AppleInsider(外部)
xAIの反トラスト訴訟が却下を免れ、現在も係属中であることを報じる。

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まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためることとゲームをすること(ソシャゲや音楽ゲームが大好きです)。最近はAIの情勢や地政学の問題を勉強中。時折記者として会見や発表に赴いたり、インタビューを行ったりもしています。

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