e-Taxのマイページで申告書を確かめるには、マイナンバーカードなどの電子証明書が要ります。そうした守りを備えたe-Taxで、他人の贈与税申告書が閲覧できる状態になっていたと報じられました。本人であることを確かめる仕組みがあっても、見せる書類を選ぶ段階が揺らげば何が起きるのか。国税庁の公表資料からたどります。
国税庁は2026年9月24日に国税システムを更改し、同じ日、e-Taxのマイページにある「贈与税関係情報」に、更正・決定の通知情報、相続時精算課税適用状況、書面申告提出状況の3つの機能を加えた。この欄は2025年1月6日に、e-Taxで提出した贈与税申告書を本人が確認できる機能として始まったもので、e-Tax上で委任関係を登録した税理士も参照できる。申告書等の情報の確認にはマイナンバーカード等の電子証明書が必要とされる。更改の日以降、e-Taxではログインや納付に関する不具合の告知が相次いだ。
共同通信は10月2日、国税庁がe-Taxで79人分の贈与税申告書などが本人以外にも閲覧可能になっていたと発表した、と報じました。申告書には贈与者や関与税理士の個人情報も記載されており、計203人分の個人情報が閲覧された可能性があるとしています。他人の申告書を閲覧した可能性があるのは19人で、保存した形跡はなく、流出は確認されていないといいます。日本テレビは、閲覧できる状態にあったのは9月24日から25日にかけてで、住所や氏名のほか、贈与を受けた財産の種類や金額も含まれていたと伝えています。国税庁は原因を24日に行ったシステム改修の不具合と説明し、謝罪しました。10月3日朝の時点で、国税庁の新着情報やe-Taxのお知らせ一覧などを確認した範囲では、この件の発表資料は見つかっていません。
この事案は、ひとつの点として突然現れたものではありません。誰にどの情報を見せるかを確かめる「認可」の問題、見出しの大きな数字と小さな数字の読み方、そして行政システムの事故は、innovaTopiaでも個別の記事として伝えてきました。ここでは国税庁が公表している資料でそれらをつなぎ直し、マイページの贈与税欄で何が起き得たのかを読み解きます。
マイページの贈与税欄と、更改の週の動き
| 時期 | 出来事 | 関連記事/出典 |
|---|---|---|
| 2025年1月6日 | マイページに「贈与税関係」の欄を追加。e-Taxで提出した贈与税申告書を確認できるように | e-Tax |
| 2025年5月26日 | 委任関係を登録した税理士が、納税者のマイページ情報を参照できるように | e-Tax |
| 2026年5月27日 | 9月24日に3機能を追加すると予告 | e-Tax |
| 2026年9月24日 | 国税システムを更改。贈与税関係情報に3機能を追加。ログインと納付の完了表示の不具合、窓口での手続きの遅延を告知 | 国税庁、e-Tax |
| 2026年9月24〜25日 | 贈与税申告書などが本人以外から閲覧できる状態に | 日本テレビ |
| 2026年9月25日 | 障害対応の緊急メンテナンスを案内(予定時間0時〜4時)。e-Taxの一部機能が利用できない状況(のちに解消) | e-Tax |
| 2026年9月26日 | e-Taxソフトの不具合を解消する更新(28日に告知) | e-Tax |
| 2026年10月2日 | 国税庁が発表したと各社が報道 | 共同通信、日本テレビ、NHK |
| 2026年10月19日以降 | 追加した3機能の情報がマイページに反映される予定 | e-Tax |
| 2026年10月下旬 | 9月以前に書面で提出した申告書の提出状況を、順次確認できる予定 | e-Tax FAQ |
マイページの贈与税欄は、1年8か月かけて広がってきた
e-Taxのマイページに「贈与税関係」の欄が加わったのは、2025年1月6日です。当初の機能は、過去にe-Taxで提出した贈与税申告書を、本人が画面で確かめられるというものでした。表示にはマイナンバーカード等の電子証明書が必要です。
その後、2025年5月26日からは、e-Tax上で納税者と委任関係を登録した税理士も、納税者のマイページで「各税目に関する情報」などを参照できるようになりました。申告を任せた税理士が、依頼人の過去の申告を同じ画面で確かめられる仕組みです。
そして2026年9月24日、この欄に3つの機能が加わりました。税務署から届いた更正通知書・決定通知書の情報、相続時精算課税制度の適用状況、書面で提出した申告書の提出状況です。書面申告の提出記録は過去7年分を確認の対象とし、対象とする年分は、相続税で贈与財産を加算する期間の扱いに合わせて順次広げる予定とされています。
この拡充は、相続の際に過去の贈与を確認する場面でも役立つと考えられます。相続時精算課税を選ぶと、その対象となる贈与財産を、贈与者が亡くなったときの相続税の計算に加算します。ただし、2024年1月1日以後の贈与については、年分ごとに、年110万円の相続時精算課税に係る基礎控除額を差し引いた残りを加算します。何年も前の申告内容を、相続の場面で正確に取り出せること。紙の控えを探す負担を減らす機能は、相続と贈与の手続きのデジタル化を進める一歩です。
国税庁が公開している画面イメージを見ると、この欄の性格がよくわかります。「相続時精算課税適用状況」のタブには特定贈与者の氏名と適用開始年分が並び、「表示」を押すと、年分を選んで、提出先の税務署、財産の価額の合計額、基礎控除額、贈与税額などを確認できます。ひとつのアカウントの画面に、贈与した側という別の人の氏名と、財産の動きの記録が集まる設計です。便利さと、その情報の重さは、同じ画面の表と裏にあります。
なお、9月24日に加わった3つの機能の情報がマイページに反映されるのは、10月19日以降とされています。報道された閲覧の期間は、その前にあたります。
1通の申告書に、何人分の情報が載るか
報道に出てくる数字は3つあります。79人、19人、203人です。それぞれが数えているものは違います。
79人は、本人以外から閲覧できる状態になった贈与税申告書などの持ち主の数です。19人は、それを実際に閲覧した可能性がある、本人以外の人の数です。203人は、その申告書に記載されていた個人情報の、人数の合計です。
203が79より大きい理由は、贈与税申告書という書類の性質にあります。申告するのは財産を受け取った人ですが、書類には財産を渡した贈与者が記載され、税理士が関与していればその情報も載ります。1通の申告書は、1人分の書類ではありません。
大きな数字と小さな数字が並んだとき、どちらが実態に近いのか。ベネフィット・ワンの漏えいでも、見出しの1万3460人分と、他社の従業員情報が入ったファイルを取得した1社1名という、2つの数字の読み方をinnovaTopiaで整理しました。今回も、「閲覧できる状態だった」と「閲覧された可能性がある」は、別々に読む必要があります。
記載されていた項目も、数字とあわせて見ておきたいところです。報道によれば、住所や氏名に加えて、贈与を受けた財産の種類や金額が含まれていました。生命保険契約照会制度の情報漏えいを伝えた際、innovaTopiaでは、項目だけを並べれば軽く見える情報が、相続という文脈では重みを変えることに触れました。誰から誰へ、どれだけの財産が移ったのか。贈与税の申告書は、その記録そのものです。
本人確認と、見せてよい書類の確認は、別の仕組み
報道によれば、国税庁は今回の原因を、システム改修に伴う不具合と説明しています。
デジタル庁のガバメントソリューションサービス(GSS)への不正アクセスでは、修正プログラムの適用前に既知の脆弱性を突かれた経緯を、innovaTopiaで読み解きました。GSSが外部からの攻撃を受けた事案だったのに対し、今回、国税庁が挙げている原因は、自らのシステムの改修に伴う不具合です。
ここで分けて考えたいのが、「認証」と「認可」です。認証は、利用者が誰かを確かめる仕組み。認可は、その人にどの情報の閲覧を許すかを制御する仕組みです。マイページの申告書の確認には電子証明書が必要とされています。今回の事案は、本人確認だけでなく、誰にどの書類を見せるかという認可の観点から考える必要があります。ただし、具体的にどの処理に不具合があったかは明らかになっていません。
認可の確認が欠けると、正規の利用者が他人のデータに触れてしまいます。8月には、予約サイトのAPIに認可チェックがないとAIエージェントが報告し、他人の予約を取り消した豪州の事例をinnovaTopiaで伝えました。そこで問われたのも、ログインの突破ではなく、操作してよい相手かどうかの確認でした。
e-Taxは、申告書と利用者をどう結びつけているのか。国税庁のよくある質問では、e-Taxで提出した申告書について、利用者識別番号に登録された住所・氏名・生年月日と、申告書に記載された基本情報が一致しない場合、一覧に表示されないことがあると説明されています。申告書を一覧に出すかどうかに、こうした照合が関わっていることがわかります。今回の改修で、どこに不具合が生じたのかは、公表されていません。
更改の週に、e-Taxで起きていたこと
9月24日は、国税システムを更改した日でもあります。国税庁は同日、申告書の様式の変更や、e-TaxのIPアドレスの変更などを伴う更改を終えたと告知しました。
その日から、e-Taxのお知らせ一覧には不具合の告知が続きます。24日には、マイナポータルを経由したログインができない事象と、インターネットバンキングによる納付の完了表示の不具合が起き、いずれも25日朝8時30分の時点で解消したとされています。同じ24日には、税務署窓口での手続きの遅延も告知されました。25日午前0時から4時まで、障害対応のための緊急メンテナンスを実施すると案内され、同日には、e-Taxの一部の機能が利用できない状況も生じて、その後解消しています。24日に更新したe-Taxソフトにも不具合があり、26日に修正版が公開されました。
報道された24日の改修が、国税システムの更改そのものを指すのか、贈与税関係情報の機能追加を指すのか、あるいは別の改修なのかは、明らかにされていません。同じ日に重なった変更を、ひとつの原因に結びつけることはできません。
現時点で、国税庁のウェブサイトから確かめられないこと
行政の情報システムで起きた事案として、いくつかの点は記録しておく必要があります。
ひとつは、発表の形です。報道各社は国税庁の発表として伝えていますが、10月3日朝の時点で、国税庁の新着情報やe-Taxのお知らせ一覧などを確認した範囲では、この件の資料は見つかっていません。自分が本件の対象かどうかを確かめるための専用の窓口も、確認したページでは見つけられませんでした。
もうひとつは、原因の中身です。どの機能のどの処理で、本来見せるべきでない申告書が表示されたのか。再発防止策として何を変えるのか。国税庁は再発防止策の徹底に万全を期すとコメントしていますが、その具体像はまだ見えていません。
申告書を「自分で見られる」ことの価値
過去の申告書を、税務署の窓口に出向かずに、自分の画面で確かめられる。e-Taxのマイページが2025年から積み上げてきたのは、納税者が自分の税の記録に直接触れられる環境でした。9月の拡充は、その範囲を相続まで見据えて広げるものです。
その環境は、自分の書類が、本人や委任した税理士など、参照する権限のある人にだけ見えるという前提の上に成り立っています。10月19日以降、新しく加わった3つの機能の情報が反映される予定です。また、9月以前に書面で提出した申告書の提出状況は、10月下旬から順次確認できると案内されています。画面に集まる記録が増えていくこれからの数か月は、便利さと信頼を同時に育てられるかを示す期間になるはずです。
【編集部後記】
報道によれば、国税庁は閲覧した可能性のある19人全員に、情報の保秘と消去を依頼したといいます。この19人もまた、自分のマイページを開いた利用者だったのかもしれません。依頼を受けた側から見れば、身に覚えのない他人の財産の記録を、ある日突然預けられたことになります。
一度目に入った情報は、システムの修正では取り消せません。最後の守りを、見てしまった人の良識に託すほかない場面がある。79人と203人の側だけでなく、19人の側に何が届いたのかも、知りたいと思います。
【用語解説】
認証
システムを使おうとしている人が誰なのかを確かめる仕組み。e-Taxでは、マイナンバーカード等の電子証明書や、利用者識別番号と暗証番号などで行う。
認可
認証を終えた利用者に、どの情報の閲覧や操作を許すかを制御する仕組み。認証が正しく働いていても、認可の判定を誤れば、本人以外の情報が表示されることがある。
相続時精算課税
原則として60歳以上の父母や祖父母などから、18歳以上の子や孫などが財産の贈与を受けたときに選べる贈与税の制度。贈与者が亡くなったとき、この制度で贈与を受けた財産を相続財産に加えて相続税を計算し、すでに納めた贈与税を差し引く。一度選ぶと、その贈与者からの贈与を暦年課税に戻すことはできない。
特定贈与者
相続時精算課税を選んだときの、その選択の対象となった贈与者。父母や祖父母など、贈与者ごとに選ぶ。
相続時精算課税に係る基礎控除額
2024年1月1日以後の贈与に適用される、年110万円の控除。同じ年に2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合は、それぞれの贈与額に応じて按分する。この控除額に相当する部分は、相続税の計算で加算しない。
更正・決定
更正は、提出された申告の内容を税務署が正す処分。決定は、申告がない場合に税務署が税額などを定める処分。どちらも通知書で納税者に知らされる。
利用者識別番号
e-Taxを利用する人に割り当てられる16桁の番号。マイページの情報は、この番号に登録された住所や氏名などの基本情報と結びついている。
電子証明書
マイナンバーカードなどに搭載された、本人であることを電子的に証明するためのデータ。e-Taxのマイページで申告書等の情報を確認するときに必要になる。
委任関係の登録
e-Tax上で、納税者と、申告などを任せる税理士との関係を登録する手続き。登録した税理士は、2025年5月26日から、納税者のマイページ情報を参照できるようになった。
マイナポータル
政府が運営するオンラインサービス。e-Taxへログインする経路のひとつとして使われる。
API
Application Programming Interface。ソフトウェア同士が機能やデータをやり取りするための窓口となる仕組み。
【参考リンク】
e-Tax「マイページの『贈与税関係情報』が更に便利になります。」(外部)
国税庁のe-Taxによる告知。2026年9月24日にマイページの贈与税関係情報へ追加された3つの機能と、その反映時期を説明している。
e-Tax「マイページからe-Taxで提出した『贈与税申告書』が確認できるようになりました。」(外部)
国税庁のe-Taxによる告知。2025年1月6日から、e-Taxで提出した贈与税申告書をマイページで確認できるようになったことを伝えている。
e-Tax「税理士の方が関与先納税者のマイページ情報を参照できるようになりました。」(外部)
国税庁のe-Taxによる告知。2025年5月26日から、委任関係を登録した税理士が納税者のマイページ情報を参照できるようになった。
e-Tax よくある質問(マイページ08)(外部)
e-Taxのよくある質問。e-Taxや書面で提出した贈与税申告書を、マイページのどのタブで、いつから確認できるかを説明している。
e-Tax よくある質問(マイページ09)(外部)
e-Taxのよくある質問。利用者識別番号と申告書の基本情報が一致しない場合に、申告書が一覧に表示されないことがあると説明している。
国税庁「国税システムの更改について」(外部)
国税庁による案内。2026年9月24日の国税システム更改と、それに伴う申告書の様式やe-TaxのIPアドレスの変更などを説明している。
e-Tax お知らせ一覧(外部)
e-Taxのお知らせ一覧。国税システム更改後に掲載された、ログインや納付、e-Taxソフトなどの不具合と解消の告知を確認できる。
国税庁 タックスアンサー No.4103「相続時精算課税の選択」(外部)
国税庁タックスアンサー。相続時精算課税の対象者、基礎控除と特別控除、相続税の計算で贈与財産を加算する方法を説明している。
共同通信「79人分贈与税申告書表示か e―Tax、改修不具合で」(Yahoo!ニュース)(外部)
共同通信の報道。79人分の贈与税申告書などが本人以外に閲覧可能となり、19人が閲覧した可能性があると国税庁が発表したと伝える。
日本テレビ「『e-Tax』で他人の個人情報が一時閲覧可能に 国税庁」(Yahoo!ニュース)(外部)
日本テレビの報道。閲覧できる状態だった期間を9月24日から25日とし、記載された個人情報の項目や国税庁のコメントを伝えている。
NHK「『e-Tax』で不具合 贈与税申告内容が閲覧される状態に」(外部)
NHKの報道。e-Taxの不具合で贈与税の申告内容が他人に閲覧される状態になっていたとして、国税庁が謝罪したことを伝えている。


















