中国製太陽光インバーターに隠された通信デバイス発見、米国電力網への脅威が浮上

2025年5月26日6:44

Last Updated on 2025-05-26 06:44 by admin

2025年5月21日、米国のエンジニアが中国製太陽光インバーターの内部から、製品マニュアルに記載されていない通信モジュールを発見した。

これは過去1年間に発見された類似事例の一つで、中国メーカーから輸入された太陽光インバーターやバッテリーシステムから同様のデバイスが複数見つかっている。これらのコンポーネントは遠隔通信が可能で、米国およびそれ以外の地域の電力網のセキュリティに深刻な懸念をもたらしている。

2024年後半には複数の国でインバーターが中国から遠隔で無効化される事例が発生した。米国エネルギー省はリスク評価を継続中で、米国の一部電力会社は中国製インバーターの段階的廃止を開始している。NATOは加盟国に対し戦略的依存関係の見直しを促している。

References:
Hidden Chinese comms devices were discovered in US energy equipment

【編集部解説】

この事案は、単なるサイバーセキュリティの問題を超えて、現代のエネルギーインフラが抱える根本的な脆弱性を浮き彫りにしています。元記事によると、2024年後半に実際に複数の国でインバーターが中国から遠隔で無効化される事件が発生しており、これは理論的なリスクではなく現実の脅威であることが証明されました。

技術的な観点から見ると、これらの隠されたデバイスは送受信可能な小さな通信モジュールで、製品仕様書には記載されていません。インバーターはアップデートやメンテナンスのためにインターネットに接続されることが多く、未文書化の部品が含まれている場合、深刻なサイバーセキュリティリスクとなります。

エネルギー安全保障への影響は深刻です。太陽光発電が電力網の重要な構成要素となる中、専門家が指摘するように、これらのデバイスは「電力網を物理的に破壊する」ために使用される可能性があります。限定的ではあったものの、実際の混乱事例は、適切なアクセス権があれば家庭や企業への電力供給がいかに簡単に操作されうるかを示しました。

規制面では、NATOが加盟国に戦略的依存関係の見直しを促し、米国の一部電力会社が中国製インバーターの段階的廃止を開始するなど、サプライチェーンの再構築が加速しています。これは短期的にはコスト増加や供給不足を招く可能性がありますが、長期的なエネルギー安全保障の観点では必要な措置といえるでしょう。

この事案が示すのは、クリーンエネルギー移行における「技術主権」の重要性です。再生可能エネルギーの普及を進める一方で、重要インフラの透明性確保や信頼できるサプライヤーからの調達が急務となっています。今後は、製品の文書化徹底やサプライチェーンセキュリティの強化が、エネルギー政策の中核に位置づけられることになるでしょう。

【用語解説】

太陽光インバーター：
太陽光パネルが生成する直流電力（DC）を家庭用の交流電力（AC）に変換する装置。

通信モジュール：
機器が外部と情報をやり取りするための部品。

NATO（北大西洋条約機構）：
1949年に設立された軍事同盟で、現在32カ国が加盟。近年はサイバーセキュリティや重要インフラの保護も任務に含まれる。

米国エネルギー省（DOE）：
1977年に設立された連邦政府機関で、国家エネルギー政策の策定、核兵器の管理、エネルギー関連研究を担当。重要インフラのセキュリティ評価も重要な役割の一つとしている。

【参考リンク】

Solar Power World（外部）
太陽光発電業界の専門メディア。インバーター技術や業界動向に関する詳細な情報を提供

U.S. Department of Energy（外部）
米国エネルギー省の公式サイト。エネルギーセキュリティや政策に関する最新情報を掲載

NATO公式サイト（外部）
北大西洋条約機構の公式サイト。サイバーセキュリティや重要インフラ保護に関する政策を確認

【編集部後記】

皆さんのご自宅や職場で使用されている太陽光発電システムは、どこの国のメーカー製でしょうか。今回の事案を受けて、改めて確認してみることをお勧めします。また、スマートメーターや家庭用蓄電池など、インターネットに接続される機器が増える中で、私たちはどのようにエネルギーセキュリティと利便性のバランスを取るべきでしょうか。クリーンエネルギーの普及と国家安全保障の両立について、皆さんはどのようにお考えになりますか。