リアルタイム翻訳は、すでにスマートフォンや専用端末で利用できます。では、その翻訳結果が会話相手を見たまま視界に表示されるようになったとき、私たちのコミュニケーションはどう変わるのでしょうか。スマートグラスとAI翻訳基盤の組み合わせから、その変化を見ていきます。
2026年8月24日、TimekettleはAI翻訳基盤「Babel OS 3.0」が、RayNeoのスマートグラス「RayNeo iO」のリアルタイム翻訳機能に採用されたと発表した。55言語・109アクセントに対応し、翻訳結果をグラスのディスプレイ上へ直接表示する。
RayNeo iOは2026年8月21日に発表された製品で、会話中にスマートフォンを見る必要を減らす設計だ。Timekettleは今回の統合を、自社翻訳機器中心の事業から、第三者ハードウェアへAI翻訳技術を提供するプラットフォーム事業へ拡大する事例として位置付けている。
【編集部解説】
今回のポイントは、翻訳機能そのものが新しいことではありません。スマートフォンの翻訳アプリや専用の翻訳端末、翻訳イヤホンはすでに存在します。変わるのは、翻訳結果を確認するための動作です。
RayNeo iOでは、相手の発話をリアルタイムで文字化し、翻訳結果を装着者の視界内に表示できます。RayNeoの公式サポートでは、Live Captionsが音声をリアルタイムでテキスト化し、視界内へ直接表示すると説明されています。さらに翻訳機能では、相手側の翻訳結果をグラスに、自分側の翻訳結果をスマートフォンに表示する構成です。
従来のスマートフォン翻訳では、「相手を見る」「端末を見る」という視線移動が発生します。スマートグラスでは、この端末確認を会話の視界へ組み込めるため、翻訳という作業を会話から独立した操作ではなく、会話そのものの一部へ近づけられます。
RayNeo自身も、日本向け公式サイトでAIスマートグラスについて、翻訳やナビゲーションなどの情報を視界内で確認し、スマートフォンを取り出さずにアクセスできることを特徴として挙げています。
この違いは小さく見えますが、ウェアラブル翻訳では重要です。翻訳精度が同じでも、会話を止めて端末を操作する必要があるか、相手を見たまま情報を確認できるかでは、実際の使い勝手が大きく変わります。
一方で、現時点のRayNeo iOを、スマートフォンから完全に独立した翻訳端末と捉えるのは正確ではありません。
RayNeoの公式サポートによると、初期設定とペアリングにはRayNeoアプリが必要で、Bluetoothを利用してスマートフォンと接続します。またLive Captionsを利用する際には、スマートフォン側で利用可能なネットワーク接続が必要とされています。
つまり今回の変化は、スマートフォンそのものを不要にすることではなく、会話中にスマートフォンを見る必要を減らすことにあります。
ここは、スマートグラス型翻訳を評価する上で重要な境界線です。視界内表示によって操作感は大きく変わりますが、通信や処理の一部では依然としてスマートフォン側への依存が残っています。
TimekettleとRayNeoの発表資料では、RayNeo iOのリアルタイム翻訳を55言語・109アクセント対応としています。一方、RayNeoの現行サポートページでは、Live Captionsの双方向翻訳を40言語対応と案内しています。両者が示す機能範囲の違いは、現時点の公式情報では明示されていません。
このため、「RayNeo iOで55言語すべてを双方向翻訳できる」とまでは断定しない方が適切です。
もう一つ重要なのが、Timekettle側の立ち位置です。
同社はこれまで、翻訳イヤホンなど自社ハードウェアを中心に展開してきました。たとえばW4 AI Interpreter Earbudsでは、Babel OS 2.0を搭載し、52言語・106アクセントへの対応を公式に案内しています。
今回のRayNeo iOでは、Timekettle自身がスマートグラスを製造するのではなく、別のメーカーが作るデバイスの内部へBabel OSを組み込む形になっています。
これは事業モデルとして見ると違いがあります。
Timekettleはこれまで自社ブランドの翻訳イヤホンや通訳端末を展開してきました。一方、現在は第三者製ハードウェアへBabel OSを提供する事業も進めています。
Timekettleは自社のBabel OSについて、大規模言語モデルの能力を翻訳に取り込み、単純な逐語訳ではなく発話の意味や文脈まで捉えることを設計思想として説明しています。
RayNeoとの連携が示しているのは、こうした翻訳エンジンが専用翻訳機の中だけに存在するのではなく、スマートグラスの一機能として組み込まれる方向です。
RayNeo iO自体も、翻訳だけを目的とした製品ではありません。公式サポートでは、Live Captionsのほか、音声メモ、AI要約、AIアシスタントなど複数の機能が案内されています。
この構成を見ると、スマートグラスの競争軸はハードウェア性能だけではなく、「視界内へどのAI機能を自然に組み込めるか」に広がっています。
翻訳は、その中でもスマートグラスとの相性が分かりやすい機能です。相手を見る必要がある対面会話では、ディスプレイが常に視線の先にあること自体が利点になります。
そしてTimekettleにとってRayNeo iOへの採用は、翻訳専用デバイスを増やす話というよりも、Babel OSをさまざまなウェアラブルへ組み込める基盤へ育てられるかを試す事例と見ることができます。
スマートグラスが普及するかどうかは、重量や価格、バッテリー、装着感といったハードウェア側の条件にも左右されます。しかし、その上で「グラスだからこそ使いやすいAI機能」が増えていくことも必要です。リアルタイム翻訳は、その条件を比較的明確に満たす用途の一つと言えます。
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【編集部後記】
今回の記事を読んで、翻訳技術の進化は精度や対応言語数だけで測るものではないと感じました。会話の途中でスマートフォンへ視線を落とさなくてよくなるだけでも、体験としてはかなり大きな変化です。特に対面コミュニケーションでは、相手の表情を見続けられること自体に価値があります。一方で、現状はスマートフォンや通信環境への依存も残っており、完全に独立した翻訳端末とは言えません。
それでも、翻訳が「操作する機能」から「視界に溶け込む機能」へ近づいているのは興味深いです。
Timekettleがこの仕組みを他社デバイスへ広げていくなら、今後は翻訳専用機よりも“翻訳が最初から入っているデバイス”が増えていくのかもしれません。
【参考リンク】
Timekettle 公式サイト(外部)
AI翻訳イヤホンや通訳デバイスを展開するTimekettleの公式サイト。Babel OSを採用した製品や翻訳技術に関する情報を掲載。
RayNeo 公式サイト(外部)
AIグラスやARグラスを開発するRayNeoの公式サイト。RayNeo iOを含むスマートグラス製品やサポート情報を提供。
RayNeo iO サポートページ(外部)
RayNeo iOの初期設定、Live Captions、翻訳、スマートフォン接続、AI機能などの利用方法と仕様を確認できる公式サポートページ。
Timekettle W4 AI Interpreter Earbuds(外部)
TimekettleのAI翻訳イヤホン「W4」の公式製品ページ。Babel OS 2.0や対応言語など、同社がこれまで展開してきた翻訳デバイスの仕様を確認できる。
【参考記事】
RayNeo iO AI Glasses Support|RayNeo(外部)
RayNeo iOのLive Captions、翻訳機能、スマートフォン連携、ネットワーク要件などを確認するために使用した公式情報。
W4 AI Interpreter Earbuds|Timekettle(外部)
Babel OS 2.0を搭載するTimekettle既存製品の仕様を確認し、Babel OSの第三者ハードウェア展開との違いを整理するために使用。
All You Need to Know About Timekettle|Timekettle(外部)
Timekettleの翻訳技術やBabel OSにおけるAI・LLM活用の考え方を確認するために使用した公式記事。
【用語解説】
Babel OS
Timekettleが開発するAI翻訳プラットフォーム。音声認識、意味理解、翻訳、言語生成などを組み合わせ、リアルタイムの多言語コミュニケーションを支える。今回のRayNeo iOではBabel OS 3.0が翻訳機能の基盤として採用されている。
リアルタイム翻訳
会話中の音声を認識し、別の言語へ短時間で翻訳する技術。スマートグラスでは、翻訳された文章を視界内へ表示することで、スマートフォンなど別の画面を見る動作を減らせる。
Live Captions
話している音声をリアルタイムで文字として表示する機能。RayNeo iOでは、文字起こしに加えて翻訳機能も提供され、相手の発話内容をグラスの表示領域で確認できる。
AIスマートグラス
カメラ、マイク、スピーカー、ディスプレイなどとAI機能を組み合わせた眼鏡型デバイス。音声アシスタント、翻訳、画像認識、ナビゲーション、文字起こしなどをハンズフリーで利用する用途が広がっている。



















