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NASA InSight探査機が火星地下に巨大水貯蔵庫を発見 – 生命探査と人類移住に新たな可能性

NASA InSight探査機が火星地下に巨大水貯蔵庫を発見 - 生命探査と人類移住に新たな可能性 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-14 06:56 by admin

米国航空宇宙局(NASA)のインサイト探査機が収集した地震データを分析した研究が、2025年5月に『National Science Review』誌に掲載された。この研究によると、火星の地表から5.4〜8キロメートル下に巨大な液体水の貯蔵庫が存在する可能性が明らかになった。

研究チームは、2021年に発生した2つの隕石衝突(S1000aとS1094b)と1つの火星地震(S1222a)によって生じた地震波を分析した。その結果、特定の地震波(せん断波)が火星地殻の特定領域を通過する際に著しく減速することを発見した。この「低速度層」と呼ばれる現象は、その領域の物質が非常に多孔質で液体水で満たされていることを示している。

この水の量は、火星全体を520〜780メートルの深さの海で覆うことができる規模であり、地球最大の氷床よりも多い水を含んでいる可能性がある。この発見は、数十億年前に存在していたとされる火星の表面水がどこに消えたのかという長年の謎を解く手がかりとなる。

なお、2024年1月には別の研究チームが、火星の「メデューサ・フォッサ地形」の地下約3.2キロメートルに最大3.5キロメートルの厚さを持つ氷の層を発見したことを『Geophysical Research Letters』誌で報告している。この氷が完全に溶けた場合、火星全体を1.5〜2.7メートルの深さの水で覆うことができる量に相当し、地球の紅海とほぼ同じ量の水資源となる。

また、2024年8月には米カリフォルニア大学の研究チームが、火星の地核中層(地下11.5〜20キロメートル)に太古の火星の海を満たすのに十分な量の水が閉じ込められていることを米科学アカデミー紀要で発表している。

これらの発見は、火星の地下に液体水が存在する可能性を示唆しており、微生物生命の存在可能性や将来の人類による火星探査において、飲料水、酸素、ロケット燃料の源として利用できる可能性を開くものである。

References:
文献リンクHuge Hidden Water Reservoir Discovered in Mars: New Data Could Unlock Secrets of the Red Planet!

【編集部解説】

火星の地下に巨大な水の貯蔵庫が発見されたというニュースは、火星探査の歴史において非常に重要な意味を持つ発見です。今回の研究は、中国科学院地質地球物理研究所の孫偉嘉博士らの国際研究チームによるもので、NASAのインサイト探査機から得られた高周波地震データを分析した結果に基づいています。

従来の研究では低周波データが使用されていましたが、今回の研究では最大4Hzの高周波地震波を捉えることができ、火星の地下構造をより高解像度で把握することが可能になりました。これにより、火星地表から5.4〜8キロメートル下に存在する「低速度層」の詳細な分析が実現したのです。

この発見は単なる水の存在確認にとどまらず、火星の水の歴史に関する長年の謎を解く鍵となる可能性があります。火星は数十億年前、表面に川や湖、そして海さえも存在していたと考えられていますが、その水がどこへ消えたのかという問いに対して、「地下深くに浸透した」という仮説を裏付ける重要な証拠となるでしょう。

興味深いのは、この水が液体の状態で存在している可能性が高いという点です。火星の温度プロファイルによると、5キロメートルより浅い場所では温度が水の凍結点以下であるため、水は氷として存在しますが、5キロメートル以深では温度が凍結点を上回り、水が液体として存在できる環境になっています。

また、この研究は2024年に発表された他の研究結果とも整合性があります。2024年1月には火星の「メデューサ・フォッサ地形」の地下約3.2キロメートルに最大3.5キロメートルの厚さを持つ氷の層が発見されており、同年8月にはカリフォルニア大学の研究チームが地下11.5〜20キロメートルに大量の水が閉じ込められていることを報告しています。

これらの発見を総合すると、火星には表面から浅い部分に氷として、そしてより深い部分には液体として、相当量の水が存在していることが示唆されます。今回の研究で推定された水の量は、火星全体を520〜780メートルの深さの海で覆うことができるほどであり、これは火星の「失われた海」の謎を説明するのに十分な量です。

この発見が持つ意義は多岐にわたります。まず科学的には、火星の気候進化の理解に大きく貢献するでしょう。また、生命探査の観点からも重要です。地球では深い帯水層で微生物が生息していることが知られており、同様に火星の地下水環境にも生命が存在する可能性が考えられます。

さらに、将来の有人火星探査においても大きな意味を持ちます。火星の地下水は、飲料水や酸素、さらにはロケット燃料の原料として利用できる可能性があります。これにより、長期的な火星滞在や火星基地の建設がより現実的なものとなるかもしれません。

ただし、この水を実際に利用するには技術的な課題も多く存在します。地下5.4〜8キロメートルという深さは、地球でも掘削が容易ではない深さです。また、この水には高濃度の塩が含まれている可能性が高く、利用するためには脱塩処理が必要になるでしょう。

今後は、より詳細な地下構造の調査や、実際に地下水のサンプルを採取する技術の開発が期待されます。火星の水資源の理解が進めば、火星の過去の気候変動や生命の可能性についての理解が深まるだけでなく、人類の火星移住計画にも大きく貢献することでしょう。

この発見は、火星という隣の惑星がかつて地球に似た環境を持ち、そして今もなお、その内部に生命の可能性を秘めているという事実を私たちに示してくれています。宇宙探査技術の進歩とともに、火星の秘密がさらに明らかになることを期待せずにはいられません。

【用語解説】

インサイト(InSight)探査機:
Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transportの略。火星の内部構造を調査するためにNASAが打ち上げた着陸機。2018年5月5日に打ち上げられ、同年11月26日に火星に着陸した。

地震計(Seismometer):
地震波を検出・記録する装置。インサイト探査機に搭載された地震計は、火星の地震(火星震)を検出し、火星内部の構造を調べるために使用された。

低速度層(Low-velocity layer):
地震波が通過する際に速度が遅くなる地層のこと。この現象は、その層に液体(この場合は水)が含まれていることを示す重要な証拠となる。

帯水層(Aquifer):
地下水を含む地層。多孔質の岩石や砂利などで構成され、その隙間に水が蓄えられている。

不透水層(Aquitard):
水を通さない、または非常に通しにくい地層。この層の上に水が溜まり、帯水層を形成する。

National Science Review:
中国科学院が監修し、オックスフォード大学出版局が発行する英語の査読付き科学ジャーナル。2014年に創刊され、2019年以降はオープンアクセスとなっている。

【参考リンク】

NASA InSight ミッション公式サイト(外部)
NASAによるインサイトミッションの公式サイト。ミッションの目的、成果、最新情報が掲載されている。

National Science Review ジャーナル(外部)
今回の研究が掲載された学術ジャーナルのウェブサイト。

【参考動画】

【編集部後記】

火星の地下に眠る巨大な水の貯蔵庫。この発見は、私たちの隣人である赤い惑星への理解を大きく変えるかもしれません。皆さんは、火星に水が存在するとしたら、そこに生命も存在する可能性についてどうお考えでしょうか?また、将来の火星探査や移住計画において、この水資源をどのように活用できるとお思いですか?宇宙の謎に触れることは、地球上の私たちの存在や未来について考えるきっかけにもなります。ぜひSNSで皆さんの考えをシェアしていただければ幸いです。

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TaTsu
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