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NASA・ISRO共同のNISAR衛星打ち上げへ|15億ドルの地球観測技術が災害予測を革新

NASA・ISRO共同のNISAR衛星打ち上げへ|15億ドルの地球観測技術が災害予測を革新 - innovaTopia - (イノベトピア)

NASA(アメリカ航空宇宙局)とISRO(インド宇宙研究機関)が共同開発したNISAR(NASA-ISRO合成開口レーダー)衛星が2025年6月18日にインドのサティシュ・ダワン宇宙センターからGSLV Mark IIロケットで打ち上げられる。

※編集部追記:
記事執筆現在の時点の最新情報では、打ち上げは2025年7月5日に延期されています。具体的な時刻は、協定世界時(UTC)で午前11時30分とされており、これは日本時間(JST)では同日の午後8時30分にあたります

総事業費は15億ドル(約2,250億円)で、地球観測衛星として世界最高額である。衛星重量は約2,800キログラム、軌道高度747キロメートルの太陽同期軌道で運用される。

LバンドとSバンドの2つのレーダー周波数を同時使用する初の衛星で、12メートルの展開式メッシュアンテナを搭載する。地球表面の変化を数ミリメートル単位で検出し、12日周期で地球全体を観測する。
NASAがLバンドレーダーと通信システムを、ISROが衛星本体とSバンドレーダー、打ち上げロケットを提供する。基本ミッション期間は3年間で、取得データは無料公開される。

From:文献リンクNASA and India to Launch a $1.5 Billion Revolutionary Satellite That Will Change Earth Observation Forever!

【編集部解説】

NISAR衛星の打ち上げは、地球観測技術における重要な転換点を示しています。この衛星が革新的である理由は、従来の光学衛星とは根本的に異なるアプローチを採用している点にあります。

技術的な画期性について

合成開口レーダー(SAR)技術の最大の特徴は、天候や時間帯に左右されない観測能力です。従来の衛星は太陽光に依存するため、夜間や雲に覆われた地域では観測が困難でした。しかしNISARは自らレーダー波を発信し、その反射を解析することで、24時間365日の連続観測を実現します。

特に注目すべきは、LバンドとSバンドの2つの周波数を同時使用する世界初の試みです。Lバンド(24cm波長)は厚い植生を透過して地表面を観測でき、Sバンド(9.3cm波長)は土壌水分の測定に優れています。この組み合わせにより、従来では不可能だった多層的な地球観測が可能になります。

観測精度の革新性

NISARの最も革新的な特徴は、地表面の変化を年間4ミリメートルという極めて高い精度で検出できることです。これは従来の衛星技術では実現不可能な精度レベルで、地震や火山活動の前兆現象を早期に発見できる可能性があります。

242キロメートルの観測幅を持ち、空間分解能は3-48メートル(Lバンド)、3-24メートル(Sバンド)を実現します。12日周期での地球全体の観測により、継続的な変化監視が可能になります。

災害予測・対応への影響

この衛星が最も威力を発揮するのは災害対応の分野でしょう。従来の災害評価では、現地調査に数ヶ月を要していました。しかしNISARなら、地震発生から数日以内に被害状況の詳細マップを作成できます。

さらに重要なのは、災害の「予兆」を捉える能力です。地表の微細な変化を検出することで、地震や火山噴火、地滑りの前兆現象を早期に発見できる可能性があります。これは従来の災害予知研究に新たな視点をもたらすでしょう。

農業・環境分野への波及効果

農業分野では、土壌水分量の精密測定により、灌漑の最適化が実現します。特に水資源が限られた地域では、この技術により食料安全保障の向上が期待されます。

また、森林や湿地の炭素貯蔵量を正確に測定できるため、気候変動対策の効果検証にも活用されます。これまで推定に頼っていた地球規模の炭素循環を、実測データで把握できるようになるのです。

データ処理とアクセシビリティ

NISARは1日あたり26テラビットという膨大なデータを生成します。このデータは観測から1-2日以内に無料公開され、災害時には数時間以内の緊急公開も予定されています。この迅速なデータ公開により、世界中の研究者や防災機関がリアルタイムに近い形で地球の変化を把握できるようになります。

国際協力の新モデル

NASA-ISRO間の協力体制は、宇宙開発における新たな国際連携のモデルケースとなっています。総事業費15億ドルの大型プロジェクトであり、NASAがLバンドレーダーなどの主要コンポーネントを、ISROが衛星本体や打ち上げを負担する分担体制は、従来の米欧中心の宇宙開発から、新興宇宙国との対等なパートナーシップへの転換を象徴しています。

この成功により、今後は日本やヨーロッパを含む多国間での大型宇宙プロジェクトが加速する可能性があります。技術的な相互補完だけでなく、コスト分散の観点からも、こうした協力体制は不可欠になっていくはずです。

【用語解説】

合成開口レーダー(SAR)
衛星や航空機に搭載されたレーダーが移動しながら電波を発射し、その反射波を解析して高解像度画像を作成する技術。天候や昼夜を問わず観測可能で、雲や植生を透過する能力を持つ。

Lバンド・Sバンド
電波の周波数帯域の分類。Lバンドは波長約24cm(1.25GHz)、Sバンドは波長約9.3cm(3.2GHz)で、それぞれ異なる透過性と解像度特性を持つ。NISARは両方を同時使用する初の衛星である。

インターフェロメトリ(InSAR)
異なる時期に撮影されたSAR画像を比較し、地表面の微細な変化を検出する解析手法。NISARでは年間4ミリメートル単位の地殻変動も測定可能である。

太陽同期軌道
衛星が地球を周回する際、常に同じ地方時に同じ地点の上空を通過する軌道。NISARは高度747km、軌道傾斜角98.4度で運用される。

【参考リンク】

NASA-ISRO SAR Mission (NISAR) 公式サイト(外部)
NASA JPLが運営するNISARミッションの公式サイト。技術仕様、科学目標、最新の開発状況などの詳細情報を提供している。

NASA Science – NISAR Blog(外部)
NASAによるNISAR関連の最新ニュースとブログ記事を掲載。打ち上げ準備状況や技術的詳細について定期的に更新されている。

ISRO公式サイト(外部)
インド宇宙研究機関の公式サイト。インドの宇宙開発プログラム、衛星打ち上げ、科学ミッションの情報を提供している。

【参考動画】

【参考記事】

NASA, ISRO Aiming to Launch NISAR Earth Mission in June 2025(外部)
NASA公式ブログによるNISAR打ち上げ予定の発表記事。GSLV Mark IIロケットによる打ち上げと技術仕様について公式見解を示している。

NISAR (NASA-ISRO Synthetic Aperture Radar) – eoPortal(外部)
NISARの技術仕様、軌道パラメータ、観測能力について詳細な技術情報を提供する専門サイト。衛星重量2,800kg、軌道高度747kmなどの正確なデータを掲載。

NISAR (satellite) – Wikipedia(外部)
NISARプロジェクトの概要、技術仕様、費用分担について包括的に解説。総事業費15億ドルの内訳や無料データ公開方針についても記載。

NASA-ISRO Earth-Observing Satellite Arrives at Indian Launch Site(外部)
NISAR衛星がベンガルールからサティシュ・ダワン宇宙センターに輸送されたことを報じるNASA公式記事。

【編集部後記】

今回のNISAR衛星は、NASAとの対等な協力関係が示すように、インドが宇宙開発の主要プレイヤーとして本格的に名乗りを上げた象徴と言えるでしょう。

かつて技術力で世界をリードしてきた日本は、この新たな宇宙開発競争の時代にどのような役割を果たしていくべきでしょうか。アジアの新たな大国が台頭する中で、日本の独自性や強みをどう活かし、未来を切り拓いていくべきか。皆さんのご意見をぜひお聞かせください。

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TaTsu
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