スペースデータ「JOINT OPERATION SIMULATOR」、陸・海・空164種を統合COPで可視化

164種のアセットが動く軍用の状況図が、国土地理院の無料タイルの上に載っています。しかも実装はビルド不要の単一HTMLです。防衛シミュレーションといえば専用設備という感覚からすると、この軽さは何を意味するのでしょうか。


株式会社スペースデータは2026年7月29日、「JOINT OPERATION SIMULATOR」をリリースした。宇宙AIプラットフォーム「SpaceBrain」の安全保障・作戦運用領域を担う「AMATERASU」の新機能である。

日本とその周辺海空域を対象に、国土地理院の地図タイルと標高データによる3D地形上へ拠点・部隊・脅威・リスクを重畳し、陸・海・空を統合したCOP(共通作戦状況図)として可視化する。陸80、海52、空32の計164種のアセットをNATO標準記号規格に基づくシンボルで描画する。

デモでは「着上陸対処」「統合防衛展開(沿岸阻止線)」の2つのシナリオを各4フェーズで再生する。基図は実データだが、部隊・脅威・アセットの諸元は架空データであり、単一HTMLとして実装している。

From: 文献リンクスペースデータ、陸・海・空の統合作戦を可視化する「JOINT OPERATION SIMULATOR」をリリース

【編集部解説】

このリリースを「戦闘を再現するソフトウェア」として読むと、要点を取り違えることになりそうです。少なくとも今回公開されたデモで中心に示されているのは、交戦結果の精密な判定そのものよりも、複数の指揮官が同じ画面を囲むための「共通の状況図」という土台です。

同社が背景として挙げているのは、COPの設計それ自体が未解決の問いになっているという認識です。陸・海・空にとどまらず宇宙・サイバー・電磁波・認知へと領域が広がるなかで、どの情報をどう重ね合わせれば各層の指揮官の判断に資するのか——これを従来の考察手段で見極めるのは難しい、と述べています。

そう読むと、この製品は答えを提供するものというより、答えを探すための実験台に近い位置にあります。表示されるデータがすべて架空である点も、その性格と整合します。(以上、編集部の解釈です)

注目したいのは、ここに至るまでの速度です。同社は6月22日に「SpaceBrain」を公開し、7月3日に作戦運用領域を担う「AMATERASU」を始動させて第一弾「AIR OPERATION SIMULATOR」を、7月9日に「GROUND IMPACT SIMULATOR」を、7月13日に「IAMD SIMULATOR」を出しています。今回はそこから16日後にあたります。単一ドメイン・単一事象を扱う3本で培った技術を、陸・海・空の横断へ統合してきた流れです。なお、リリース本文での先行3件の列挙順は、公開の時系列とは一致していません。

技術的な選択として見過ごせないのが、基図です。7月3日の航空作戦版は Cesium World Terrain と Google Photorealistic 3D Tiles を用いていましたが、今回は国土地理院の空中写真・色別標高・陰影起伏・実験的ベクトルタイルが使われています。選定理由は公式発表では説明されていません。ただし、安全保障用途における外部サービスへの依存という観点からは、国土地理院の公的データを採用したことを評価する余地があります。

アセットの描画にNATOの標準記号規格を採用した点も、注目したい部分です。記号体系は、異なる組織が同じ画面を同じ意味で読むための共通言語にあたります。統合作戦司令部が米軍との作戦面の調整も担うことを踏まえると、共通の記号体系は相互理解に資する可能性があります。ただし、スペースデータはNATO記号の採用理由を具体的には説明していません。

実装が地図描画エンジンによるビルドレスの単一HTMLである、という記述にも触れておきたいところです。防衛用途では専用設備や閉じたネットワークが求められる場合もあるなか、ブラウザ上で表示できる単一HTMLという実装は、関係者が同じ状況図を確認するための簡潔な利用形態を提示しています。

ただし、これはデモです。同社自身が、実運用・実配置の再現には現実のデータが必要になると明記しています。状況認識環境としての基盤が示された段階であり、ウォーゲームやミッションリハーサルの実施基盤へ育てるのはこれからの作業だと理解するのが妥当でしょう。

制度面では、2025年3月に市ヶ谷へ設置された統合作戦司令部という受け皿がすでに存在します。組織が統合運用へ動き出した一方で、その判断を支える情報の見せ方については、まだ確立された型があるとは言えません。民間がこの領域に検討材料を投げ込む余地は、当面残り続けるはずです。

もうひとつ、展望で災害対応への応用が挙げられていることの意味は小さくありません。統合COPの情報構造——誰がどこにいて、何が迫っており、どの線を守るのか——は、防衛に限らず危機管理の現場に共通する骨格です。ここは innovaTopia が技術を人類史の文脈で捉えるうえで、最も射程の長い論点だと考えます。

同時に、留意すべき点もあります。ロードマップの先には認知領域が置かれています。世論や認識への働きかけを扱う領域を「状況図」として可視化することが何を意味するのかは、陸・海・空とは別種の議論を必要とするはずです。可視化は理解を助けますが、同じ力で説得もします。

だからこそ、最終的な判断は必ず人間が担うという一文が、この短いリリースのなかで最も重い部分なのかもしれません。速さを供給する道具が増えるほど、引き金を握るのが誰かという問いは、かたちを変えずに残り続けます。

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【編集部後記】

地理院地図Vector(maps.gsi.go.jp)を開くと、今回の基図が並んでいます。色別標高、陰影起伏、そして国土地理院が「基本測量成果ではない」と位置づける実験的ベクトルタイル。いずれも、国土地理院のコンテンツ利用規約に従って利用できる公開データです。ここに拠点や脅威の情報を重ねることで、統合COPの画面表現を試作できるという、技術的な距離の近さが見えてきます。こうした公開データを用いた民間の試みが、将来の統合COPの設計議論にどこまで影響を与えるのでしょうか。


【用語解説】

COP(Common Operational Picture/共通作戦状況図)
複数の領域から集まる情報を単一の画面上に重ね合わせ、関係者が同じ状況認識を共有するための図である。部隊・拠点・脅威・移動経路などを一望できる状態をつくることが目的となる。

NATO標準記号規格
北大西洋条約機構が定める軍事記号の体系である。部隊の所属・種別・状態を定型の図形で表すことで、異なる組織間でも同じ画面を同じ意味で読めるようにする。なお、スペースデータは規格名を明示していない。

IAMD(Integrated Air and Missile Defense/統合防空ミサイル防衛)
航空機とミサイルによる脅威への対処を、探知から迎撃まで一体の体系として扱う考え方である。

ベクトルタイル
地図を機械判読可能な座標・属性データとしてタイル状に分割配信する方式である。従来の画像タイルと異なり、属性値に応じて色や線の太さを変更できるため、利用目的に合わせた地図表現が可能となる。国土地理院は2019年7月から提供実験を継続しており、コンテンツ利用規約に従って利用できるが、基本測量成果ではない位置づけとなっている。

ビルドレスの単一HTML
コンパイルやビルド工程を必要とせず、1つのHTMLファイルのみで動作する実装形態を指す。ブラウザで開くだけで表示できる軽量さが特徴である。

【参考リンク】

株式会社スペースデータ(外部)
宇宙とデジタル技術の融合で新産業基盤の創造を掲げるスタートアップ。2017年1月設立、代表は佐藤航陽。デジタルツイン技術を軸に事業展開する。

株式会社スペースデータ NEWS(外部)
同社の最新の取り組みや発表を掲載する公式ニュース一覧。AMATERASU関連の一連のリリースも時系列で追うことができる。

AIR OPERATION SIMULATOR リリース(外部)
AMATERASU第一弾の航空作戦模擬機能。基図に海外の商用地理空間基盤を用いていた点が確認できる、7月3日公開のリリース。

国土地理院(外部)
国土交通省の特別の機関。本シミュレーターの基図に用いられた地理院タイル各種の提供元であり、公開データの利用規約も掲載する。

国土地理院 陰影起伏図(外部)
基盤地図情報の数値標高モデル(DEM10B、DEM5A、DEM5B)から作成された陰影起伏図の仕様解説。ズームレベル別の使用データを記載。

株式会社スペースデータ 公式X(外部)
リリース速報や開発状況が随時発信される同社の公式アカウント。AMATERASU関連の告知もここから流れてくる。

お問い合わせフォーム(外部)
「JOINT OPERATION SIMULATOR」の詳細照会窓口として、リリース本文内で案内されている公式フォーム。

【参考記事】

防衛省・自衛隊|令和7年版防衛白書|3 統合作戦司令部(外部)
2025年3月の市ヶ谷設置、統合作戦司令官を長とする体制、米軍との作戦調整の緊密化という位置づけを一次情報で確認した。

《レポート》「統合作戦司令部」(JJOC)が発足 陸・海・空自衛隊の一元運用を担う(外部)
英略称JJOC、約240名体制、サイバー防衛隊を含む部隊連携という位置づけを補足したレポート。

スペースデータ、着弾・衝突被害を可視化する「GROUND IMPACT SIMULATOR」をリリース(外部)
AMATERASU第二弾の一次情報。単一事象を対象としたシミュレーターの系譜と、陸海空統合への発展を時系列で裏づけた。

スペースデータ、統合防空ミサイル防衛能力を可視化する「IAMD SIMULATOR」をリリース(外部)
AMATERASU3本目の一次情報。防災シミュレーターから防空領域への展開が語られ、災害対応への応用という展望の手がかりとなる。

スペースデータ、航空作戦運用を支援する「AIR OPERATION SIMULATOR」をリリース(外部)
7月3日公開の第一弾。陸海空宇宙サイバーへの拡張が当初から表明され、基図に海外の商用基盤を用いていたことを確認した。

地理院地図|ベクトルタイルとその提供実験について(外部)
提供実験の開始時期、コンテンツ利用規約に従う利用条件、基本測量成果ではない位置づけを確認した。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。