アンタルヤAI誓約とは|COP31が向き合うAIの電力、任意の約束に書かれたこと

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生成AIに質問するたび、どこかのデータセンターで電気が使われています。国際エネルギー機関によると、AI向けのデータセンターの電力使用は2025年に5割増えました。11月9日に始まる国連の気候変動会議COP31を前に、議長国トルコは、AIの電力に向き合うための「アンタルヤAI誓約」を公表しました。ただし、この誓約はすべて任意で、数値の目標もありません。この約束に、何が書かれ、何が書かれていないのでしょうか。

最新情報(随時更新)

11月3日 本記事を公開しました。誓約は11月16日に正式に披露される予定です。署名した国や企業が分かった時点で、新しい記事にまとめます。


目次▼アンタルヤAI誓約とはCOP31の議長国が呼びかける、任意の約束 / 誰が、どう加わるのか▼なぜ気候の会議がAIを扱うのか増え続けるデータセンターの電力 / 「薄氷の上」という警告▼本文に書かれていること4つの柱 / 国が選べる項目▼本文に書かれていないこと数値目標と、守らせる仕組み / 「段階的に」と、事業者の開示 / 誰が署名するのか▼日本の現在地データセンターが押し上げる電力需要 / 省エネ法の新しいルール / 電力と通信を一体で考える「ワット・ビット連携」▼COP31で、どこを見ればよいか 4つの注目点
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国連気候変動枠組条約のCOP31(11月9〜20日、トルコ・アンタルヤ)の議長国トルコは、AIの電力と環境への影響に関する「アンタルヤAI誓約」の本文を公表した。誓約は9月に発表され、国連の国際電気通信連合(ITU)とともにまとめられた。AIのインフラを持続可能な電力で動かすこと、責任ある設計と調達、環境への影響の評価と報告、途上国への資金と技術の支援の4つを柱とし、国や企業、自治体などが任意で署名し、正式な披露は11月16日の予定である。国は、AI事業者へのデータの開示の要請や、データセンターへの低排出電力の段階的な義務づけなどを選べる。一方で、本文に数値目標はなく、新たな義務も生じない。世界資源研究所(WRI)や環境団体からは、守らせる仕組みや地域社会への配慮がないとの指摘が出ている。日本では、データセンターなどによる電力需要の増加が見込まれ、省エネ法の新しいルールが2026年度から始まっている。

【編集部解説】

アンタルヤAI誓約とは

COP31の議長国が呼びかける、任意の約束

アンタルヤAI誓約は、COP31の議長国トルコが9月21日、ニューヨークでの気候週間に合わせて発表した構想です。COP31の公式サイトによると、国連の国際電気通信連合(ITU)とともにまとめ、AIがどう「設計され、調達され、電力を得て、展開され、測定され、管理されるか」についての政治的な約束と位置づけられています。

議長に就く予定のムラト・クルム環境・都市化・気候変動相は、「AIのエネルギー消費の増加を率直に議論しなければならない。政府が条件を定め始める時だ」と述べ、企業にはエネルギーの使用量を明らかにし、クリーンな電力で事業を動かすよう求めました。誓約の本文は10月下旬に公表され、COP31の公式サイトで読むことができます。

デジタル分野の環境負荷は、これまでもCOPで取り上げられてきました。2024年のCOP29では「グリーン・デジタル行動」に関する宣言が出され、今回の誓約もこれを土台の一つに挙げています。そのうえで今回は、AIとデータセンターの電力に焦点を絞りました。

COP31の交渉そのものは、すべての国の合意で決まります。この誓約は交渉の外で、賛同する国や組織が加わる「アクション・アジェンダ」の取り組みです。COP31の概要や争点は「COP31とは|アンタルヤ会議の日程と争点、「1.5℃超え」の先に何を決めるか」にまとめています。

誰が、どう加わるのか

誓約には、2つの附属書があります。附属書Aは国(条約の締約国)向けで、附属書Bは企業、投資家、金融機関、研究機関、国際機関、都市や自治体、市民団体向けです。署名する側は、附属書に並んだ項目から、自分が取り組むものを少なくとも1つ選びます。

ITUによると、正式な披露は11月16日、COP31のグリーン・デジタル行動に関するハイレベル円卓会議(AIがテーマ)で行われます。披露の発表に名前を載せるには、その前に署名する必要があり、署名の受け付けはCOP32までの間も続きます。

進み具合の確認は、ITUが主催する「グリーン・デジタル行動」が担い、国連気候変動枠組条約の技術メカニズムと連携します。2027年のCOP32から2030年まで、COPのたびに、署名した国や組織の取り組みを集団として振り返るとしています。

なぜ気候の会議がAIを扱うのか

増え続けるデータセンターの電力

国際エネルギー機関によると、世界のデータセンターの電力使用量は2025年に485テラワット時(10億キロワット時の485倍)でした。2030年にはおよそ2倍の950テラワット時に達し、世界の電力需要の約3%を占める見通しです。AI向けのデータセンターに限ると、2025年の伸びは50%でした。誓約の本文も、この数字を前文に引いています。

AIを提供する大手企業の排出量も増えています。報道によると、グーグルの2025年の温室効果ガスの排出量は、サプライチェーンを含む全体で前年より18%増え(サプライチェーンの分は25%増)、AIの機器の製造などが大きな要因とされました。マイクロソフトは、2026年7月の報告書で排出量が25%増えたと公表しました。データセンターの拡大が主な要因で、再生可能エネルギー証書の使い方を見直した影響も含まれると説明しています。アマゾンも16%増でした。

「薄氷の上」という警告

国連気候変動枠組条約のサイモン・スティール事務局長は9月21日、AI企業の経営者は事業を続けるうえで「薄氷の上」にいると述べました。AIが化石燃料による汚染と、家庭や企業のエネルギーの費用を押し上げていると指摘し、信頼できる気候目標を立て、エネルギーの使用量を開示し、データセンターを再生可能エネルギーで動かすよう求めています。

AIは、気候変動の対策を助ける道具でもあります。電力網の需給の調整や、排出の監視、防災や早期警報などです。誓約は、AIの負荷を抑えることと、AIを対策に生かすことの両方を、ひとつの約束にまとめようとしています。

本文に書かれていること

4つの柱

誓約は、共有する目標として、AIを「持続可能な電力で動き、効率的に設計され、透明に測定され、誰もが利用できる」ものにすることを掲げています。そのうえで、次の4つを柱にしています。

柱主な内容
1. 持続可能な電力とインフラAIとデータセンターの電力に占める、ゼロ・低排出の電源の割合を高める。効率的な冷却、エネルギーと水の効率。電力網へのつなぎ方と、送電網の増強の費用の分担
2. 責任ある設計と調達AIの環境面の持続可能性についての国際的な規格を使う。廃止、再使用、リサイクル、電子ごみの扱い
3. 環境への影響の評価と報告影響を測るための国際協力と人材の育成。国内法に沿って、結果とデータを共有する
4. 気候のためのAIへの支援途上国、後発開発途上国、小島しょ国に、計算資源、データ、訓練、低利の資金などを提供する

前文は、AIが電力だけでなく、水、土地、重要な鉱物も必要とし、電子ごみを含めて一生を通じた管理が必要だと述べています。

国が選べる項目

附属書Aでは、国が取り組む項目を選びます。たとえば、次のような項目があります。

  • AIを提供する事業者に、エネルギーと環境についてのデータの開示を求める。
  • 情報通信の分野のエネルギーと温室効果ガスの目録をつくり、公表する。
  • AIのインフラに、ゼロ・低排出の電力の利用を段階的に義務づける。
  • データセンターと機器について、エネルギーと水の効率や冷却を含む指針、または調達の規則を定める。
  • 途上国に、計算資源などを提供する。

企業などが署名する附属書Bは、「[X]%」「[X]年までに」のように、割合や期限、金額が空欄になっていて、署名する側が自分で書き込む形です。

本文に書かれていないこと

数値目標と、守らせる仕組み

誓約は、「新たな義務を生じさせない」と明記し、各国の事情と国内法に沿って実施するとしています。本文に数値の目標はなく、統計の数字として出てくるのは、AI向けデータセンターの電力使用が2025年に50%増えたという前文の一つだけです。

米国の世界資源研究所(WRI)は10月27日、誓約は「正しい方向を示している」と評価しつつ、国や企業を導くための説明責任の仕組みがないと指摘しました。データセンターの影響を受ける地域社会が意思決定に加わること、水と大気を守るための対策も欠けているとしています。

「段階的に」と、事業者の開示

欧州の環境団体ビヨンド・フォッシル・フュエルズは、さらに厳しく評価しています。同団体は、AIが気候に役立つという証拠を誓約は示していないと指摘しました。また、低排出の電力を「段階的に」求めるだけでは弱いとし、AIのために新しい化石燃料を使わない、という約束を盛り込むよう求めています。開示についても、AIのシステムを測ることに重心があり、データセンターを運営する事業者に、エネルギーや水の使用量、電源の構成を開示させる内容になっていないと述べています。同団体の担当者は、誓約が、従来どおりの事業を続けるための「グリーンなラベル」になりかねないと警告しました。

誰が署名するのか

もう一つの空白は、参加者です。報道によると、EUの気候担当のフクストラ欧州委員は、誓約には「興味深い特徴」があるとし、署名を検討しています。一方で、データセンターの最大の集積地である米国は、パリ協定から離脱し、国連気候変動枠組条約からも2027年2月に離脱する予定です。どの国や企業が加わるかは、11月16日の披露で明らかになる見込みです。AIの大手企業がこの誓約にどう応じるかは、11月3日の時点で確認できていません。

日本の現在地

データセンターが押し上げる電力需要

日本でも、電力需要は増える見通しです。電力広域的運営推進機関が2026年1月に公表した見通しでは、全国の電力需要は、2026年度の8034億キロワット時から、2035年度に8461億キロワット時まで増えます。データセンターと半導体工場の新設や増設による増加分は、2035年度に568億キロワット時で、そのうちデータセンターが494億キロワット時を占めます。

省エネ法の新しいルール

データセンターについては、2026年4月から、省エネ法の新しいルールが始まっています。資源エネルギー庁によると、事業者には、2030年度までにデータセンターのPUE(電力使用の効率を示す指標)の平均を1.4以下にすることが目安として示されました。2029年度以降に新しく建てるデータセンターには、稼働して2年がたったあと、より厳しい1.3以下が求められます。エネルギー使用量が一定規模以上の事業者は、データセンターの電力使用量やPUEを国に報告します。2025年度以降に新しく建てたデータセンターについては、PUEなどを自社のウェブサイトなどで公表することになり、初めての公表の期限は2027年3月末です。

誓約が国に求める「AI事業者のデータの開示」や「データセンターの効率の指針」と、日本のこの仕組みは、方向が重なっています。

電力と通信を一体で考える「ワット・ビット連携」

政府は2025年から、総務省と経済産業省を中心に、電力と通信の基盤を一体で整備する「ワット・ビット連携」を進めています。2026年9月11日には「GX戦略地域」が認定されました。3つの類型のうち「データセンター集積型」は、脱炭素の電源が豊富な地域にデータセンターを置くことをめざします。北海道の石狩市では、再生可能エネルギーを活用したデータセンターが運営されています。

私たちが確認した範囲では、日本政府がアンタルヤAI誓約に署名するかどうかは、11月3日の時点で公表されていません。

COP31で、どこを見ればよいか

  • 11月16日の披露で、どの国や企業が署名するか。日本、中国、EU、AIの大手企業が加わるか。
  • 署名する国が、データの開示やゼロ・低排出の電力の義務づけを選ぶか。
  • 企業が、附属書Bの空欄に、どれだけ具体的な割合や期限を書き込むか。
  • COP31の全体の決定や、ほかの取り組みとの関係。AIの負荷と、AIによる対策の効果を、どう測るか。

innovaTopiaでは、11月16日の披露で署名した国や企業が分かった時点で、新しい記事にまとめます。

【編集部後記】

生成AIの便利さは、画面の上ではほとんど重さを感じさせません。けれども、その裏では、電力網や水、冷却の設備が動いています。今回の誓約は、AIの電力を気候の問題として扱う一歩ではあります。ただ、書かれているのは方向であって、数字ではありません。空欄の[X]に何が書き込まれるのか。私たちがAIに求める便利さと、その電力をどう釣り合わせるのか。その答えは、署名する国や企業だけでなく、AIを使う私たち一人ひとりにも向けられているのかもしれません。

  1. COP31|Antalya Artificial Intelligence Pledge(PDF)(外部)
    アンタルヤAI誓約の本文。4つの柱と、国・企業向けの附属書(英語)。
  2. COP31|35-by-35とアンタルヤAI誓約の発表(外部)
    9月21日の議長国の発表。ITUとの協力と、電化の誓約(英語)。
  3. ITU|Antalya AI Pledge(Green Digital Action)(外部)
    署名の方法と、11月16日の披露(英語)。
  4. 電力広域的運営推進機関|2026年度 全国及び供給区域ごとの需要想定(PDF)(外部)
    2035年度までの電力需要の見通しと、データセンター・半導体工場による増加分。
  5. 資源エネルギー庁|データセンターに関する省エネ法の措置(PDF)(外部)
    PUEの目安と、報告・公表のルールの概要。
  6. 資源エネルギー庁|データセンターの省エネ(解説)(外部)
    2026年度から始まった新しいルールの解説。

【用語解説】

アンタルヤAI誓約
COP31の議長国トルコが国際電気通信連合(ITU)とまとめた、AIの電力と環境への影響に関する任意の約束。国や企業、自治体などが署名し、取り組む項目を選ぶ。数値目標はない。

COP31
国連気候変動枠組条約の第31回締約国会議。2026年11月9日から20日まで、トルコのアンタルヤで開かれる。トルコが議長を、オーストラリアが交渉議長を務める。

アクション・アジェンダ
COPの交渉とは別に、国や企業などが自主的な取り組みを持ち寄る枠組み。

国際電気通信連合(ITU)
情報通信の分野を担う国連の専門機関。通信の国際的な規格づくりなどを行う。

データセンター
サーバーやネットワーク機器を集め、計算やデータの保存を行う施設。AIの学習や利用にも使われる。

PUE(電力使用効率)
データセンター全体の電力使用量を、IT機器の電力使用量で割った値。1に近いほど、冷却などにかかる電力が少なく効率がよい。

ワット・ビット連携
電力(ワット)と通信(ビット)の基盤を一体で整備し、データセンターを電力に余裕のある地域に配置することなどをめざす、日本政府の取り組み。

省エネ法
エネルギーの使用の合理化などに関する法律。一定規模以上の事業者に、エネルギー使用量の報告などを求める。2026年度から、データセンターについての新しいルールが加わった。

【参考記事】

  1. COP31 presidency announces AI pledge as UN climate chief says Big Tech 'on thin ice' — Climate Home News(外部)
    誓約の発表と、スティール事務局長の発言(英語)。
  2. WRI STATEMENT: Antalya AI Pledge Must Turn Climate Ambition into Accountability — WRI(外部)
    世界資源研究所の評価(英語)。
  3. Data centres and AI at COP31 — Beyond Fossil Fuels(外部)
    環境団体による誓約への批判(英語)。
  4. AI is part of solution for climate change, COP31 pledge says — Energy Connects(Bloomberg)(外部)
    誓約の内容と、EUの反応(英語)。
  5. US set to exit UN climate convention in February 2027 — Climate Home News(外部)
    米国の気候変動枠組条約からの離脱の時期(英語)。
  6. La COP31 appelle à des engagements volontaires sur les enjeux climatiques de l'IA — Connaissance des Énergies(AFP)(外部)
    誓約の公表を伝えるAFPの記事と、データセンターの電力の見通し(フランス語)。
  7. Google AI boom drives emissions, power use — Axios(外部)
    グーグルの排出量と電力使用の増加(英語)。
  8. Microsoft's data center expansion drove 25% emissions spike — Facilities Dive(外部)
    マイクロソフトの排出量の増加(英語)。
  9. Amazon's carbon emissions rose 16% in 2025 amid data center boom — Bloomberg Law(外部)
    アマゾンの排出量の増加(英語)。
  10. GX戦略地域の認定 — nippon.com(時事通信)(外部)
    データセンター集積型を含むGX戦略地域の認定。

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