IPCC総会、日程を決められないまま中断|同じ「公平さ」が分けた科学の締め切り

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気候変動の科学を評価する国連の機関、IPCCの総会が、日本時間の10月17日、次の評価報告書をいつ出すかを決められないまま中断されました。2024年1月から数えて6回目の総会でも、日程は決まっていません。対立しているのは、報告書の中身ではなく「締め切り」です。なぜ科学の報告書の日程が、国どうしの対立になるのでしょうか。そこには、どちらの側も「途上国にとっての公平さ」を根拠にしているという、ねじれた構図があります。


目次▼IPCC第65回総会で起きたこと決まらなかった日程と予算 / 議論の中心にあった「包摂性」 / 関係者の反応▼IPCCとは何か研究を評価する機関 / 評価報告書と国際交渉 / 第7次評価サイクル▼3年近く決まらなかった日程5回続いた「合意なし」 / 2028年という締め切り / 総会に示された3つの案▼同じ「公平さ」から、正反対の結論時間を求める国々 / 急ぐべきだとする国々 / 科学の時間と、政治の時間▼米国が抜けたあとのIPCC▼報告書づくりとAI▼これから
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気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第65回総会が、2026年10月12日から16日までエチオピアのアディスアベバで開かれた。焦点は、第7次評価報告書を構成する3つの作業部会報告書の公表時期だった。2028年に予定されるパリ協定のグローバル・ストックテイクに間に合わせたい国々と、一部の報告書を2029年に延ばすよう求める国々の対立が、2024年1月から5回の総会にわたって続いていた。総会は日本時間17日、日程と予算を決められないまま中断され、IPCCは「できるだけ早い機会に」再開するとしている。

【編集部解説】

IPCC第65回総会で起きたこと

決まらなかった日程と予算

IPCCの第65回総会は、10月12日からエチオピアのアディスアベバで開かれ、日本時間の17日(現地 16日)に中断されました。第7次評価報告書を構成する3つの作業部会報告書をいつ出すかと、来年の予算は、どちらも決まりませんでした。

中断のきっかけは、会議が予定の時間を超えたことです。後発開発途上国(LDC)や小島しょ開発途上国(SIDS)の代表団の多くが、決定の前に会場を離れざるを得なくなりました。IPCCのジム・スキア議長は、現地時間の午後7時38分に総会の中断と後日の再開を告げ、午後8時29分に総会を中断しました。IPCCは、議長の判断について、主要な決定を全会一致で行う総会の「包摂性」、つまり立場の弱い国も含めてすべての加盟国が議論に加われることを守るためのものだと説明しています。残った議題は「できるだけ早い機会に」再開するとしていますが、日程と場所は示していません。

議論の中心にあった「包摂性」

国際交渉の速報で知られるEarth Negotiations Bulletin(ENB)は、今回の総会を通じて議論の中心にあったのは「包摂性」だったと伝えています。包摂性を高める取り組みが評価された一方で、この言葉は日程をめぐる対立する立場の根拠にもなりました。LDCやSIDSの代表からは、包摂性を求める声の一部が、気候変動の影響を最も受けやすい国々がいま必要としている対策を遅らせるために使われているという懸念が出されました。

閉会にあたってスキア議長は、日程についての見通しがより明確になったこと、会議報告書のまとめ方を決めたこと、人工知能(AI)について助言する非公式のグループを置くことを確認したことを、今週の成果に挙げました。そして「IPCCの機関室は動いているし、健全だ」と述べています。

関係者の反応

マーシャル諸島のティナ・ステゲ気候担当特使は、「一握りの国々がIPCCの報告書を遅らせ続けているのは、ひどいことだ。それは、私たちが国に戻って命と暮らしを守るために必要な科学だ」と述べました。そして、「私たちは仕事をしに来たが、包摂性についても、科学が国の計画に役立つことについても、次のグローバル・ストックテイクに根拠が必要なことについても、提案はすべて退けられた」「無駄にする時間などないときに、恥ずべき時間稼ぎだ」と批判しています。

フランス代表として総会に参加したブノワ・ファラコ氏は、ビジネス向けSNS(交流サイト)のリンクトインに「5大陸の先進国と途上国による幅広い連合が、科学者の示した日程を支持し、手続きを遅らせようとする少数の国々の圧力に持ちこたえた」と投稿しました。一方で、「このこう着状態は新しいものではなく、気候変動への対応に必要な貴重な時間を失わせるおそれがある」とも述べています。

環境NGO(非政府組織)の国際ネットワーク、気候行動ネットワーク(CAN)は、「この結果に深く失望している」とする一方で、日程案の検討や、手続きをより包摂的にする措置には進展があったと評価しています。

IPCCとは何か

研究をせずに、研究を評価する機関

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が設立した国際機関です。IPCC自身は研究を行わず、既存の研究を評価します。世界中の数千人の専門家が無償で執筆者として加わり、毎年発表される数千本の論文を評価して、報告書にまとめています。加盟国は195カ国です。

報告書の要約にあたる「政策決定者向け要約」は、総会で各国政府が一文ずつ確認して承認します。科学者が書き、政府が承認する。この仕組みが、IPCCの報告書が国際交渉の共通の土台として使われてきた理由の一つです。

報告書は、三つの作業部会が分担してつくります。

  • 第1作業部会:気候変動の自然科学的な根拠
  • 第2作業部会:影響、適応、脆弱性
  • 第3作業部会:気候変動の緩和(排出の削減)

この三つをまとめたものが「統合報告書」です。

評価報告書と国際交渉

評価報告書は、国際交渉の節目とともに使われてきました。第5次評価報告書(2013〜2014年)は、2015年のパリ協定が掲げた「2℃を十分に下回る」「1.5℃に抑える努力」という目標の科学的な根拠になりました。第6次評価報告書(2021〜2023年)は、2023年に終わった1回目のグローバル・ストックテイクで、各国の取り組みが足りていないことを示す材料になりました。

第7次評価サイクル

評価報告書は5〜7年ごとにまとめられます。今のサイクル(第7次)は、2023年7月に新しい議長団が選ばれて始まりました。すでに決まっている成果物は次のとおりです。

成果物予定
気候変動と都市に関する特別報告書2027年3月
短寿命気候強制因子に関する方法論報告書2027年後半
二酸化炭素除去(CDR)などに関する方法論報告書2027年後半
統合報告書2029年末まで
3つの作業部会報告書未定(第65回総会でも決まらず)

統合報告書を2029年に出すことは、2024年1月の総会で決まりました。決まらなかったのが、その前に出る3つの作業部会報告書の時期です。

3年近く決まらなかった日程

5回続いた「合意なし」

作業部会報告書の公表時期は、次の5回の総会で決められませんでした。

回開催地時期
第60回トルコ・イスタンブール2024年1月
第61回ブルガリア・ソフィア2024年7〜8月
第62回中国・杭州2025年2月
第63回ペルー・リマ2025年10月
第64回タイ・バンコク2026年3月

ENBは、この日程をめぐる議論を「IPCCの歴史で前例がない」と書いています。第5次と第6次のサイクルでは、作業計画は大きな困難なく合意されていました。

2028年という締め切り

日程が争点になったのは、2028年にパリ協定の2回目のグローバル・ストックテイクがあるからです。世界全体の取り組みの進み具合を点検する仕組みで、2026年11月のCOP31で情報を集める段階が始まり、2027年6月から2028年6月まで技術的な評価が行われ、2028年11月のCOP33で政治的な段階が終わります。

この点検に最新の科学を間に合わせるには、作業部会報告書を2028年中に出す必要があります。間に合わなければ、2021〜2022年に出た第6次評価報告書の作業部会報告書に頼って点検することになると懸念されています。

総会に示された3つの案

今回の総会を前に、IPCCの事務局は3つの案を示しました。

  • 案1・案2:3つの作業部会報告書を、すべて2028年に出す
  • 案3:サウジアラビアとインドの意見をもとに、2つの報告書を2029年に回す

2028年の案には、運営や査読の期間が重なるという課題があります。2029年の案には、執筆者を確保し続けることや、公表のときに参照する研究が古くなるという課題があります。どの案も、政府、議長団、事務局のすべての条件は満たしていないとされています。

同じ「公平さ」から、正反対の結論

時間を求める国々の言い分

インド、ケニア、ロシア、サウジアラビア、中国などは、より長い日程を求めてきました。AFP通信によると、こうした国々は、報告書を2029年に延ばせば、途上国が報告書の知見を受け止める時間が増えると主張しています。主な理由は次のとおりです。

  • 途上国の執筆者や政府は、報告書の査読や承認の準備に時間がかかる
  • 査読の期間が重なると、人手の少ない国ほど負担が大きい
  • 締め切りが早いと、途上国の研究者が論文を発表して評価の対象にしてもらう期間が短くなる

こうした主張は、今回に始まったものではありません。このサイクルで最初の第60回総会(2024年1月)の時点で、延期を求める国々は、急げば途上国が報告書を査読する時間が足りなくなると訴えていました。第61回総会(2024年7〜8月)でも、2028年の完成に反対する理由として、報告書の「質と包摂性」への懸念が挙げられています。

インドのIPCC代表は、IPCCの価値を2028年の交渉への貢献だけで測るのは「近視眼的」だと述べています。サウジアラビアは「外部の期限」に合わせて日程を縮めるのは適切でないとし、ロシアは、国連の交渉日程に合わせることは科学の評価の独立性を損なうおそれがあると主張しています。

一方で、主要な産油国が延期を求めることで、排出削減の圧力をかわそうとしているという批判もあります。ロシアの経済省は、産油国との対立という見方を「意図的な誤解」だと反論しています。

急ぐべきだとする国々の言い分

欧州や島しょ国などは、2028年の点検に間に合わせるよう求めてきました。総会直前の10月9日には、30を超える国の閣僚らが書簡を出し、「国連の政策の周期をIPCCの科学的な根拠から切り離せば、気候危機への世界の取り組みを損ない、国際協力を弱める」と訴えています。35の署名者のうち約半数は欧州などの先進国ですが、所得水準が最も低い44カ国でつくるLDCグループの議長や、島しょ国、多くの新興国の閣僚も名を連ねました。

今回の総会では、SIDSやLDCを含む多くの国が、「日程を延ばしても参加しやすくはならず、気候変動の影響を最も受けやすい国々を不利にする」と反論しました。

「途上国が参加しやすいように」という同じ公平さの考え方が、一方では延期の根拠になり、もう一方では延期への反対の根拠になっています。

科学の時間と、政治の時間

IPCCのジム・スキア議長は、IPCCの規則が、ほかの国際的な会議との調整を「可能な限り」求めていることを指摘しています。報告書をつくる時間を十分にとることと、政策の節目に間に合わせること。どちらも、IPCCが大切にしてきたものです。今回の対立は、その二つがぶつかった形です。

スキア議長は総会の開会あいさつで、もう一つの視点を示しました。第7次評価報告書には世界の約1,000人の執筆者が、本業と両立させながら無償で取り組んでいます。議長は「執筆者には、IPCCへの協力がいつまで、どれだけ続くのかについて、はっきりした見通しが与えられるべきだ。そうすれば私生活や仕事の計画を立てられる」と述べ、各国に合意を促しました。日程が決まらないことの負担は、交渉の場だけでなく、報告書を書く科学者一人ひとりにも及んでいます。

米国が抜けたあとのIPCC

米国は2025年2月の杭州での総会に政府の科学者を送らず、2026年1月7日には、IPCCを含む66の国際機関・条約からの離脱を指示する大統領覚書に署名しました。

米国はIPCCの最大の資金拠出国でした。オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所によると、バイデン政権のもとで年平均約170万ドルだった米国の拠出は、トランプ政権のもとでゼロになり、その穴はIPCCの信託基金の約3割にあたります。大きな増額がなければ、2028年までに資金が尽きる可能性があるとされています。加盟195カ国のうち8割以上は、一度も資金を拠出したことがありません。

スキア議長は開会あいさつで、今年寄せられた任意の拠出は、承認された2026年の予算の約3分の1にとどまっていると明かしました。そのうえで、信託基金はIPCCの任務と包摂性を支えるものだとして、各国に拠出の増額と、複数年にわたる拠出の約束を求めています。

残りの期間の予算は、日程が決まらなければ決められません。今回の総会では、日程と予算の両方を合意する必要がありました。

報告書づくりとAI

IPCCの議長団は最近、AIについての非公式のグループを設けることを決めました。今回の総会でも、IPCCの作業におけるAIの役割が議題になり、閉会時には、この助言のためのグループを置くことが確認されました。

IPCCの第1作業部会の技術支援ユニットが出したAI担当者の募集では、職務として、文献の検索とレビュー、査読コメントの処理、文章の推敲と翻訳、整合性の確認、図表づくりの支援、執筆者向けのAI利用ガイドの作成、倫理や法的な問題への助言などが挙げられていました。

スキア議長は開会あいさつで、「人の説明責任を保ちながら、AIはどうIPCCの評価を支えられるのか」「IPCCの作業の原則を守るために、どんな予防策や制約が必要か」という問いがまだ残っていると述べています。

第6次評価報告書では、第1作業部会の報告書だけで7万8007件の査読コメントが寄せられました。こうした作業は、まさに時間が足りないと言われている部分です。AIが作業を速めれば、日程をめぐる対立の前提そのものが変わるかもしれません。一方で、AIが要約した文献をもとに評価してよいのか、途上国の研究者が使える道具に差が出ないかといった、新しい公平さの問題も生まれます。

これから

総会の再開の時期は、まだ決まっていません。2回目のグローバル・ストックテイクは、11月9日からトルコのアンタルヤで開かれるCOP31で、情報を集める段階に入ります。技術的な評価は2027年6月に始まります。日程が決まらない時間が長くなるほど、2028年の点検に最新の作業部会報告書を間に合わせる余地は狭まっていきます。

【編集部後記】

延期を求める国々は、途上国の研究者が参加できる時間が必要だと訴えてきました。そして最終日、会議が長引いた結果、会場を離れざるを得なかったのは、気候変動の影響を最も受けやすい国々の代表団でした。議長はその国々を欠いたまま決めないために、総会を中断しました。「公平さ」という同じ言葉が、延期の理由にも、急ぐ理由にも、そして中断の理由にもなった一週間だったように思います。科学の報告書の締め切りをめぐる議論は、誰の声をどう聞くかという問いでもあります。再開後の総会と、COP31での議論を引き続き追っていきます。

  1. IPCC|65th Plenary Session of IPCC suspended(外部)
    第65回総会の中断を伝えるIPCCの公式発表。中断の理由と、未決の議題(日程と予算)(英語)。
  2. IPCC|スキア議長の開会あいさつ(外部)
    執筆者への見通し、信託基金の資金不足、AIをめぐる問いに触れた開会時のあいさつ(英語)。
  3. IPCC|Seventh Assessment Report(外部)
    第7次評価サイクルの成果物と予定をまとめたページ(英語)。
  4. IPCC|Fact Sheet: Review Process(PDF)(外部)
    報告書の査読と承認の流れ。第6次評価報告書に寄せられた査読コメントの件数も掲載(英語)。
  5. ENB|IPCC-65 最終日の報告(外部)
    最終日の経過、包摂性をめぐる議論、議長が挙げた成果を伝えるEarth Negotiations Bulletinの報告(英語)。

【用語解説】

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
気候変動に関する科学的知見を評価し、報告書にまとめる国際機関。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が1988年に設立。自ら研究は行わず、既存の研究を評価する。

評価報告書
IPCCが5〜7年ごとにまとめる、気候変動の科学の総まとめ。3つの作業部会報告書と統合報告書からなる。第6次は2021〜2023年に公表された。

作業部会
IPCCで報告書を分担してつくるグループ。第1は自然科学的根拠、第2は影響・適応・脆弱性、第3は緩和を扱う。

政策決定者向け要約
評価報告書の要点をまとめた文書。総会で各国政府が一文ずつ確認して承認する。

グローバル・ストックテイク
パリ協定の目標に向けた世界全体の進み具合を、5年ごとに点検する仕組み。1回目は2023年に終わり、2回目は2028年に終わる。

COP(締約国会議)
条約を結んだ国々が集まる最高意思決定の会議。気候変動枠組条約のCOP31は2026年11月、COP33は2028年11月に開かれる。

【参考記事】

  1. UN climate panel fails to agree date for global warming update: envoy — AFP(France 24)(外部)
    フランス代表、マーシャル諸島の特使、気候行動ネットワークの反応と、延期に反対する閣僚書簡。
  2. Top global climate science body suspends meeting without deal on major review timeline — Reuters(Al-Monitor)(外部)
    総会が合意なしに中断された経緯と、対立する国々の主張。
  3. Inside the deadlock at the world’s top climate science body — Reuters(Al-Monitor)(外部)
    総会前に各国の立場と、報告書が間に合わない場合の懸念をまとめた記事。
  4. Q&A: Why the standoff between nations over the next IPCC reports matters — Carbon Brief(外部)
    日程をめぐる対立の経緯、2回目のグローバル・ストックテイクの日程、過去の評価報告書の役割。
  5. Ongoing failure to agree AR7 timeline is ‘unprecedented’ in IPCC history — Carbon Brief(外部)
    日程が決まらない状況が「前例がない」とされる理由と、これまでの総会の結果。
  6. Cited 13 October 2026: IPCC’s crunch talks — Carbon Brief(外部)
    総会に示された3つの案と、それぞれの課題。
  7. An IPCC funding crisis threatens the Asia-Pacific — Lowy Institute(外部)
    米国の拠出停止とIPCCの信託基金の資金不足。
  8. Governments fail to agree timeline for climate science reports in fraught IPCC talks — Climate Home News(外部)
    2024年1月の第60回総会で、日程をめぐる対立が始まった経緯。
  9. IPCC meeting fails to finalise assessment report timeline — ESG Mena(外部)
    2024年8月の第61回総会で日程が決まらなかったことと、反対した国々の理由。
  10. IPCC suspends climate talks as key decisions remain unresolved — PINA(外部)
    太平洋諸島の通信社による、総会中断の報道。

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