第35回ブループラネット賞受賞者会見|バーンバウム博士とバービエイ教授が語ったPFAS、グリーン経済とAIの環境負荷

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公益財団法人 旭硝子財団は10月27日、2026年(第35回)ブループラネット賞の受賞者による記者会見を都内で開きました。今年の受賞者は2人です。1人は、環境化学物質のリスク評価を通じて政策形成に貢献したリンダ・S・バーンバウム博士(元米国国立環境健康科学研究所〈NIEHS〉所長)。もう1人は、自然資本の指標化によってグリーン経済の実装を牽引したエドワード・バービエイ教授(コロラド州立大学経済学部卓越教授)です。

会見は帝国ホテルにて行われました。顕彰を行っているのは公益財団法人 旭硝子財団です。

会見では、PFAS(有機フッ素化合物)対策、グリーン・リカバリーの停滞、AIデータセンターの環境負荷などについて質問が相次ぎました。

今回、innovaTopiaは受賞に際してのバービエイ教授とバーンバウム博士の記者会見に参加しました。

ブループラネット賞の概要

ブループラネット賞は、地球サミットが開催された1992年に旭硝子財団が創設した地球環境国際賞です。地球環境問題の解決に向けて、理念の構築、科学的理解の深化、人文・社会科学を含む科学技術に根差した対策や実践活動に大きく貢献した個人または組織を顕彰しています。第1回受賞者の真鍋淑郎博士は、その後2021年にノーベル物理学賞を受賞しています。

今年の受賞者

リンダ・S・バーンバウム博士(米国、1946年12月21日生まれ)
元NIEHS所長、元国家毒性プログラム(NTP)ディレクターです。受賞理由は「環境化学物質のリスク評価と科学に基づく政策形成への貢献」です。

博士は、環境中に残留しやすい化学物質の毒性研究を主導し、国際的なリスク評価を大きく前進させました。特に、胎児期などの感受性が高い時期に内分泌かく乱物質へ曝露すると、長期的な健康影響が生じ得ることを示しました。これにより、脆弱な集団を守るための科学的根拠が強まりました。NIEHS所長とNTPディレクターとしては科学と政策の橋渡し役を担い、研究の知見を公衆衛生の向上につなげました。

エドワード・バービエイ教授(米国、1957年7月22日生まれ)
コロラド州立大学経済学部卓越教授です。受賞理由は「自然資本を指標化し、国際的なグリーン経済の実装を牽引した功績」です。

教授は、自然資本や生態系サービスの価値評価に関する取り組みを主導し、政策や投資の具体的な指針を示してきました。国連環境計画(UNEP)の報告書『グローバル・グリーン・ニューディール』(2009年)では、経済復興、貧困削減、脱炭素化、生態系保護を一体で進める回復戦略を提示しました。この中で、自然保護を経済的繁栄のための戦略的投資と位置づけています。また、貧困と環境の相互関係の分析を通じて、地球環境問題への対応と社会的公正を両立させる道筋も示してきました。

それぞれの受賞に際してのお言葉

バーンバウム博士は、国際的なリスク評価、公衆衛生研究、国家毒性プログラムに携わってきた歩みを振り返り、受賞への謝意を述べました。そのうえで自身の役割を、優れた科学研究と政策形成の橋渡しをし、科学的知見を環境と人々のコミュニティを守ることに役立てることだったと語りました。

バービエイ教授は、自然資本の会計評価、生態系サービス、グリーン経済の実装という自身のテーマの重要性が認められたことに感謝を表しました。

質問と応答

こちらは第一回ブループラネット賞のトロフィーのレプリカです。

※受賞者の回答は要旨です。

Q:今後のPFAS対策について、日本政府、研究者、市民に最も期待することは何ですか。
バーンバウム:PFASには4,000種を超える化合物があり、きわめて幅広い用途で使われています。米国などで規制されているのは、PFOAやPFOSといった主要な物質にとどまっています。しかし、多くの関連物質(前駆体)も、環境中や体内で分解されてPFASになり得ます。その結果、PFASは私たちが吸う空気、飲む水、口にする食品にまで広く存在しうるのです。特定の主要物質だけでなく、前駆体を含む化合物群全体と、低濃度での長期的な曝露のリスクに目を向けて対策を講じる必要があります。

Q:将来、組織の意思決定を担う日本の若手ビジネスパーソンに向けて、環境と健康のリスクにどう向き合ってほしいですか。
バーンバウム:ダイオキシンやPFASといった化学物質の健康影響は、曝露から10年、20年、30年、40年という長い年月を経て現れることがあります。ダイオキシンについては規制が一定程度進みましたが、PFASは人や動物への影響の解明が始まったばかりの段階です。重要なのは、動物実験で見られたリスクの多くが、後に人の集団でも現れ始めるという点です。目先の影響だけでなく、数十年単位の時間軸で考えてほしいと思います。そして、科学的知見に基づいて早い段階から予防的に行動してほしいと思います。

Q:体内に残る化学物質の危険は、においや見た目では分からず、肌でも感じられません。目に見えない危険への認識を、どうすれば多くの人に共有してもらえるでしょうか。
バーンバウム:目に見えない化学物質の影響は、曝露を受けた本人だけでなく、その子どもの世代になって初めて現れることがあります。だからこそ、長期の追跡調査で科学的証拠を積み重ね、それを根拠にリスクコミュニケーションを行うことが欠かせません。目に見えない脅威にも予防的に備える意識を、社会全体で育てていくことが重要です。

Q:『グローバル・グリーン・ニューディール』から17年が経ちましたが、構想どおりには進んでいません。コロナ禍後の各国の景気対策も、多くはグリーンとは言いがたいものでした。理論が正しかったとすれば、実装を阻んだボトルネックは何だったのでしょうか。
バービエイ:2009年の回復戦略は、短期の景気刺激策を、長期的で持続可能な経済構造への転換につなげることを狙っていました。しかし、リーマン・ショック後の回復過程で各国の国際協力が弱まり、化石燃料依存への回帰が起きました。コロナ禍後にも、より良い復興としてグリーン回復を目指す機会があり、一定の進展は見られました。ただ、その多くは政府の政策ではなく、民間の市場や投資のレベルで起きたものです。パンデミック後の地政学的緊張や国際協力の後退によって国家政策が統合されず、政策面での後押しが不足したことが、大きなボトルネックになりました。

Q:AIデータセンターによる水不足をはじめ、さまざまなものが自然資本を脅かしています。いま喫緊の脅威と、将来大きな脅威となりうる問題は何でしょうか。
バービエイ:AIの学習やデータ処理を担うデータセンターは、膨大なエネルギーと水資源を必要としており、すでに自然資本に大きな負荷をかけています。こうした技術の環境影響をモニタリングし、評価する必要があります。そのうえで、森林や生態系による炭素吸収、カーボンクレジットといった自然システムの評価と、どう釣り合いを取るかを検証すべきです。急速に拡大する新技術の負荷を管理・評価する手法の確立が、いま求められています。

Q:TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)をはじめ、企業や金融など民間の取り組みは、ここ数年で確実に進んでいます。これをどう評価されますか。一方で、国家の政策は進展が遅い、あるいは後退しているとも見えますが、どう評価し、どう解消すべきでしょうか。
バービエイ:民間・市場の側では、心強い進展が3つあります。1つ目は、クリーンエネルギーのコストが下がり、発電やEVなどで経済合理性に基づく導入が進んでいることです。2つ目は、持続可能な一次産品への市場の需要が高まり、生物多様性の損失のような自然関連リスクを金融リスクとして捉える動きが広がっていることです。3つ目は、カーボンクレジットや生物多様性クレジットなど、自然に関わるクレジット市場が成長していることです。一方で国家政策は、一部の国を除いて遅れています。民間主導の勢いは力強いものの、それだけでは地球規模の危機に間に合わないおそれがあります。国家間の協力と、強力な政策の枠組みを立て直すことが必要です。

最後のメッセージ

バーンバウム:科学に基づく政策決定を軽視してはなりません。私たちの未来、子どもたち、地域のコミュニティを守る取り組みを途絶えさせず、科学的知見を拠りどころに行動を続けることが大切です。

バービエイ:日本は、気候変動や自然資本の課題について、長年リーダーシップを発揮してきました。省エネ技術やクリーンエネルギー移行でのイノベーション力、そして自然を尊重する文化は、大きな強みです。日本が今後も世界のグリーン移行を牽引していくことを期待しています。

受賞者による記念講演会は、10月29日に東京証券会館(東京)、31日に京都市国際交流会館(京都)で開かれます。

【編集部後記】

私たちは、いったいどれだけのものに生かされているのでしょうか。

飲み水、食べ物、呼吸する空気、気候を和らげる森や海。これらの恵みは普段、値札のないまま使われています。自然資本とは、こうした自然の恵みを、経済や暮らしを支える「資本」として捉え直す考え方です。バービエイ教授は、1989年の共著『Blueprint for a Green Economy』をはじめとする仕事を通じて、この考え方を経済政策の言葉に落とし込みました。そして、生態系サービスの価値を測る取り組みを主導してきました。自然の価値を測ることは、私たちの暮らしがどれほど自然に依存しているのかを、目に見える形にすることでもあります。

今回の2人の研究には、もう一つ共通点があります。視線が、弱い立場にある人々に向けられていることです。バーンバウム博士は、胎児期のように化学物質の影響を受けやすい時期に着目し、妊婦と子どもを守るための科学的根拠を積み上げてきました。バービエイ教授は、貧困と環境の劣化が互いを強め合う関係を分析し、環境対策と社会的公正の両立を説いてきました。

環境問題は、とかく「人類全体」の問題として語られがちです。しかし、その被害はすべての人に均等に降りかかるわけではありません。同じ汚染でも、胎児と大人とでは影響の出方が違います。同じ生態系の劣化でも、自然から直接の糧を得て暮らす人々と、そうでない人々とでは、受ける打撃が違います。環境問題は、被害の濃淡、いわばグラデーションを持った問題なのです。2人はその濃淡を、毒性学と経済学それぞれの言葉で示しました。さらにそれを国際的なリスク評価や政策の場へ届け、社会に働きかけてきました。研究を社会につなぐ回路までを自らの仕事としてきた点に、編集部は強く惹かれました。

第1回受賞者である真鍋淑郎博士の気候モデル研究は、地球という惑星全体を一つのシステムとして捉えるものでした。それから35回を経て、今年の受賞は、その惑星に暮らす住人一人ひとり、とりわけ声の届きにくい人々に目を向ける研究に贈られました。惑星規模の気候から、母体の中の胎児まで。青い惑星を守るための研究が扱う尺度の幅を見るだけでも、私たちを取り巻く環境問題がいかに複雑かがわかります。

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野村貴之
大学院を修了してからも細々と研究をさせていただいております。理学が専攻ですが、哲学や西洋美術が好きです。日本量子コンピューティング協会にて量子エンジニア認定試験の解説記事の執筆とかしています。寄稿や出版のお問い合わせはinnovaTopiaのお問い合わせフォームからお願いします(大歓迎です)。

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