10月19日、アルメニアの首都エレバンで、国連の生物多様性条約の締約国会議「COP17」が始まります。2022年に世界が合意した「2030年までに自然の損失を止め、回復に向かわせる」ための23の目標は、ちょうど折り返し地点にあります。今回の会議では、その進み具合が初めて世界全体で点検されます。結果は、すでにはっきりしています。目標の多くは、このままでは間に合いません。では、遅れを取り戻すために何を決めるのか。そして、その費用を誰が負担するのか。会議が始まる前に、争点と見どころを整理します。
最新情報(随時更新)
10月18日 本記事を公開しました。会期中は、開幕直後、閣僚級会合、閉幕の時点で更新します。
10月16日 開幕を前に首脳会合が開かれ、取り組みの加速と、あらゆる資金源からの資金の拡大を求める「エレバン宣言」が採択されました。
10月15日 生物多様性条約の事務局などが、昆明・モントリオール生物多様性枠組の進捗をまとめた報告書を公表しました。国としての目標を定めた国は約9割に上る一方、各国が「順調」と評価した目標は半数に届いていません。
目次▼COP17とは生物多様性条約の締約国会議 / 3つの「COP17」 / 日程▼4年前に決めた「23の目標」昆明・モントリオール生物多様性枠組 / 愛知目標の教訓▼初めての「中間点検」グローバル・レビュー / 報告書が示した現在地 / 30by30はどこまで▼争点① お金は足りているのか届かなかった中間目標 / 誰が払うのか / 資金の仕組みをどうするか▼争点② 遺伝情報の利益をどう分けるかDSIとカリ基金 / 2年で6,000ドル▼争点③ 先住民族と地域社会、企業の役割▼日本の現在地▼会期中、どこを見ればよいか
編集部後記 / 参考リンク / 用語解説 / 参考記事 / 関連記事
国連の生物多様性条約の第17回締約国会議(COP17)が、2026年10月19日から30日までアルメニアのエレバンで開かれる。2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組の23のターゲットについて、世界全体の進捗を初めて点検する「グローバル・レビュー」が最大の議題となる。事前に公表された報告書は、各国の取り組みが広がる一方で、2030年の達成には大幅な加速が必要だと指摘した。途上国向けの資金は2025年の中間目標に届かなかったとみられ、資金を拠出する国の範囲や、遺伝情報の利用企業から資金を集める「カリ基金」の扱いが争点となる。閣僚級会合は27〜28日に開かれる。
【編集部解説】
COP17とは
生物多様性条約の締約国会議
生物多様性条約は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミットで、気候変動枠組条約とともに署名が始まった条約です。目的は3つあります。生物の多様性を守ること、その構成要素を持続可能な形で利用すること、そして遺伝資源から得られる利益を公正に分け合うことです。
締約国は196で、195の国と欧州連合(EU)が加わっています。国連加盟国で条約を締結していないのは米国だけで、ほかにバチカン(ローマ教皇庁)も加わっていません。締約国会議(COP)は、条約を結んだ国々が集まって物事を決める最高意思決定の場で、おおむね2年に1度開かれます。物事は、すべての締約国の合意(コンセンサス)で決めます。
今回の会議では、遺伝子組み換え生物の安全な取り扱いを定めたカルタヘナ議定書と、遺伝資源の利益配分を定めた名古屋議定書の締約国会合も同時に開かれます。
3つの「COP17」
「COP17」という名前の会議は、ほかにもあります。気候変動枠組条約のCOP17は2011年に南アフリカのダーバンで開かれました。砂漠化対処条約のCOP17は、2026年8月にモンゴルのウランバートルで開かれたばかりです。今回エレバンで開かれるのは、生物多様性条約のCOP17です。ニュースを検索するときは、「生物多様性COP17」と条約の名前を付けると探しやすくなります。
日程
主な日程は次のとおりです。日付は現地時間で、日本時間はアルメニアより5時間進んでいます。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 10月15日 | 枠組みの進捗をまとめた報告書の公表 |
| 10月16日 | 首脳会合、「エレバン宣言」の採択 |
| 10月19日 | COP17の開幕 |
| 10月27日 | 財務相と環境相のハイレベル対話(予定) |
| 10月27〜28日 | ハイレベル会合(閣僚級) |
| 10月30日 | 閉幕(予定) |
会場は、エレバンのメリディアン・エキスポ・センターです。アルメニアは2024年11月、コロンビアのカリで開かれたCOP16で、隣国のアゼルバイジャンとの投票を制して開催国に選ばれました。アゼルバイジャンはその直後に、気候変動のCOP29を首都バクーで開いています。アルメニアのパシニャン首相は、国としてこれほどの規模の催しを開くのは初めてだと述べています。
4年前に決めた「23の目標」
昆明・モントリオール生物多様性枠組
COP17の土台になっているのは、2022年12月にカナダのモントリオールで開かれたCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」です。議長国が中国だったため、中国の都市の名前が付いています。
枠組みは、2050年までに「自然と共生する世界」を実現するという長期の目標と、2030年までに達成する23のターゲットからなります。主なものには、次のような目標があります。
- 陸と海のそれぞれ30%以上を保全する(ターゲット3、いわゆる「30by30」)
- 劣化した生態系の30%以上で、回復を進める(ターゲット2)
- 企業が、生物多様性への依存や影響を評価し、開示する(ターゲット15)
- 自然に害を与える補助金などを、年5000億ドル以上減らす(ターゲット18)
- あらゆる資金源から、年2000億ドル以上を生物多様性のために動員する(ターゲット19)
愛知目標の教訓
この枠組みの前には、2010年に名古屋で開かれたCOP10で採択された「愛知目標」がありました。20の目標を2020年までに達成することを目指しましたが、条約事務局の評価では、世界全体で完全に達成された目標は一つもありませんでした。
その反省から、新しい枠組みには、各国の進み具合を定期的に報告し、世界全体で点検する仕組みが組み込まれました。今回のCOP17は、その仕組みが初めて動く会議です。
初めての「中間点検」
グローバル・レビュー
COP17の最大の議題は「グローバル・レビュー」です。各国が提出した報告書をもとに、23のターゲットに向けた世界全体の進み具合を評価し、遅れを取り戻すための方針を決めます。気候変動のパリ協定で5年ごとに行われる「グローバル・ストックテイク」に相当する仕組みで、生物多様性条約では初めての試みです。
次のレビューは、2030年のCOP19で行われる予定です。つまり、今回の点検で方針を改めなければ、次に世界全体で見直す機会は、目標の期限の年になります。
報告書が示した現在地
10月15日に公表された報告書によると、条約の196の締約国のうち、国としての目標を定めたのは9割近くに上ります。国家戦略を策定したのは6割近く、国別報告書を提出したのは7割を超えました。先住民族や自治体、企業、市民団体などの登録した取り組みも、約5,000件に達しています。
一方で、各国が自ら評価した国としての目標のうち、「順調」とされたのは半数に届きません。事前に公表された報告書の案は、23のターゲットのうち22で、世界は達成の軌道に乗っていないと評価していました。
遅れが目立つのは、環境省だけでは進められない分野です。企業の行動、持続可能な消費、自然に害を与える補助金の見直し、そして資金です。国連のグテーレス事務総長は「自然はよい意図だけでは育たない」と述べ、資金をはじめとする重要な要素が「いまだに欠けている」と指摘しました。
30by30はどこまで
目標の中で最もよく知られている「30by30」も、道のりは遠い状況です。環境団体の連合「キャンペーン・フォー・ネイチャー」などが9月に公表した評価では、保護・保全されている面積は陸で約20%、海で約10%でした。各国が約束した数値をすべて足しても、2030年には陸で約27%、海で約12%にとどまります。海のうち、実際に十分な規制で守られているのは3.5%だけだとしています。
争点① お金は足りているのか
届かなかった中間目標
ターゲット19には、2030年の年2000億ドルとは別に、先進国などから途上国への国際的な公的資金を、2025年までに年200億ドル以上、2030年までに年300億ドル以上にするという目標があります。
条約事務局の報告書は、2025年の目標は「おそらく達成されなかった」としています。経済協力開発機構(OECD)の推計では、2023〜2025年の世界全体の生物多様性向けの資金は年749億〜924億ドルで、年2000億ドルとの差は大きいままです。そのうち国際的な公的資金は年平均で約161億ドルで、2025年の目標に約40億ドル届いていません。
誰が払うのか
COP17では、資金の「出し手」をどう定めるかも争点になっています。条約には、途上国に資金を提供する先進国のリストがあり、これを見直すかどうかで各国の意見が分かれています。決定の案には、各国が自ら名乗り出る案、世界銀行の所得分類で高所得国とされる国(小島しょ開発途上国を除く)を加える案、事務局が更新する案、2028年のCOP18まで結論を先送りする案の4つが並んでいます。
SOMPOインスティチュート・プラスの解説によると、8月にケニアのナイロビで開かれた補助機関の会合では、カナダが日本を含む6カ国を代表して出し手の範囲を広げるよう求め、EUも見直しを支持しました。これに対して中国は、見直しにはCOPの承認が必要だと主張しました。カタールは、高所得国を加える案の削除を求める国が80カ国を超えると述べ、サウジアラビアも同調しています。
条約ができた1990年代の「先進国」と「途上国」の線引きを、30年以上たった今の経済の姿に合わせて引き直すべきか。気候変動の交渉でも繰り返されてきた問いが、生物多様性の場でも問われています。
資金の仕組みをどうするか
もう一つの論点は、資金を扱う仕組みそのものです。生物多様性条約では、最初のCOPから、地球環境ファシリティー(GEF)が「暫定的に」資金の仕組みを担ってきました。途上国は条約の下に独自の基金を求め、先進国の多くは既存のGEFを使い続けることを望んでいます。
この対立は、2024年のCOP16が会期を延長した末に、出席者が定足数を割り込んで中断される原因の一つになりました。2025年2月にローマで開かれた再開会合では、2030年までに恒久的な仕組みを整えることで合意し、その道筋を示しました。COP17では、その仕組みが満たすべき基準を決めることになっています。
資金の実績も、まだ小さいままです。2023年にGEFの下につくられた「グローバル生物多様性枠組基金」には、2026年6月末までに11カ国とカナダのケベック州から、計3億8720万ドルの拠出が約束されました。
争点② 遺伝情報の利益をどう分けるか
DSIとカリ基金
医薬品や化粧品、農作物の品種改良などでは、生物から読み取った遺伝情報のデータが使われています。これを「デジタル配列情報(DSI)」と呼びます。遺伝情報の多くは、生物多様性の豊かな途上国の生物から得られたものです。それなのに、データとして公開されると、誰がどこで使ったのかをたどることが難しくなります。
そこで、2024年のCOP16は「カリ基金」を設けました。DSIを使って利益を得る大企業に、利益の1%か売上高の0.1%を目安として拠出を求め、集めた資金を途上国や先住民族、地域社会に配る仕組みです。ただし、拠出は義務ではありません。
2年で6,000ドル
SOMPOインスティチュート・プラスの解説によると、カリ基金が9月15日時点で受け取ったのは、2件、計6,000ドルでした。英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の研究者による試算では、対象となる企業がすべて拠出すれば年36億ドル、現実的な参加率でも年9億2900万ドルが見込めるとされています。
COP17の決定の案は、拠出の目安を改めて確認したうえで、拠出をどう促すかや、製品ごとに負担を計算する方式をどう扱うかで意見が分かれています。
争点③ 先住民族と地域社会、企業の役割
COP16では、先住民族と地域社会に関わる問題を扱う常設の補助機関が新たに設けられました。COP17では、この機関がどのように運営されるのか、先住民族や地域社会の代表がどこまで意思決定に加われるのかを決めます。キャンペーン・フォー・ネイチャーなどの評価によると、先住民族や地域社会の土地は世界の陸地の35%を超え、30by30の達成にも欠かせない存在です。
企業に関わる論点もあります。ターゲット15は、企業や金融機関に、生物多様性への依存や影響、そこから生じるリスクを評価し、開示することを求めています。COP17の決定の案では、企業の責任を認める文言には大きな異論がない一方で、各国の制度で開示を義務づけるところまで踏み込むかどうかが決まっていません。
日本の現在地
日本は2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定し、2026年2月には、COP17のグローバル・レビューの基礎になる第7回国別報告書を条約事務局に提出しました。
同時にまとめた国家戦略の中間評価では、40の国としての目標のうち、「目標達成に向けて順調」は8、「進展したが、その程度は不十分」は22、「大きな進展なし」は9でした。行動の目標は進んでいる一方で、生態系などの「状態」の目標15のうち、順調とされたのは3にとどまります。評価は、日本の生物多様性は全体として損失が続いているとしています。
30by30については、環境省が2026年8月に公表した数字で、陸の21.0%、海の13.3%が保護地域などでカバーされています。この割合は前の年度から変わっていません。国が認定する「自然共生サイト」は、2026年6月末までに610カ所になりました。
企業の側では、自然に関するリスクの開示の枠組み「TNFD」に沿って評価や開示に取り組む企業や金融機関が、日本では約130に上り、TNFDの議長は国別で最も多いと述べています。資金の議論では、日本は先進国として拠出する側であり、出し手の範囲を広げるよう求める側に立っています。
会期中、どこを見ればよいか
会議は12日間続きます。ニュースを追うときには、次の点に注目すると、何が決まったのかが見えやすくなります。
- グローバル・レビューの決定:遅れを取り戻すための方針に、経済や金融の仕組みの「変革」や、重点的に取り組むターゲットが書き込まれるか。
- 資金の出し手:先進国のリストが見直されるのか、COP18に先送りされるのか。
- 資金の仕組み:2030年に向けた恒久的な仕組みの基準で合意できるか。
- カリ基金:任意の拠出のままか、拠出を促す仕組みが加わるか。
- 会期の延長:COP16は会期を延長した末に中断されました。今回は予定どおり30日に閉幕できるか。
innovaTopiaでは、開幕直後、閣僚級会合、閉幕の時点で、この記事に追記していきます。
【編集部後記】
今回の点検で分かったのは、目標を定めた国は増えても、自然の状態はまだ良くなっていないということです。行動が状態に表れるまでには時間がかかります。一方で、2030年の期限までに残された時間は、あと4年余りです。会議では、その間を埋めるための「お金」と「誰が負担するか」が、最も時間をかけて議論されることになりそうです。閣僚級会合が始まる10月27日は、東京で、自然資本の経済学で知られるバービエイ教授らのブループラネット賞の受賞者記者会見が開かれる日でもあります。自然の価値をどう測り、誰がその費用を担うのか。エレバンと東京で、同じ問いを追っていきます。
【参考リンク】
【用語解説】
生物多様性条約(CBD)
生物の多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生じる利益の公正な配分を目的とする条約。1992年の地球サミットで署名が始まり、1993年に発効した。締約国は196。
COP(締約国会議)
条約を結んだ国々が集まる最高意思決定の会議。生物多様性条約のCOPは、おおむね2年に1度開かれる。
昆明・モントリオール生物多様性枠組
2022年のCOP15で採択された、2030年までの23のターゲットと2050年までの長期目標からなる国際的な枠組み。
30by30(サーティ・バイ・サーティ)
2030年までに、陸と海のそれぞれ30%以上を保全するという目標。枠組みのターゲット3にあたる。
グローバル・レビュー
各国の報告をもとに、枠組みに向けた世界全体の進捗を点検する仕組み。1回目は2026年のCOP17、2回目は2030年のCOP19で行われる。
デジタル配列情報(DSI)
生物から読み取った遺伝情報をデータにしたもの。医薬品や化粧品、品種改良などの研究開発に使われる。
カリ基金
DSIを利用して利益を得る企業から拠出を募り、途上国や先住民族、地域社会に配分する基金。2024年のCOP16で設けられた。拠出は任意。
地球環境ファシリティー(GEF)
途上国の地球環境問題への取り組みに資金を提供する国際的な基金。生物多様性条約や気候変動枠組条約などの資金の仕組みを担っている。
OECM(保護地域以外で生物多様性の保全に役立つ地域)
国立公園などの保護地域ではないが、生物多様性の保全に役立っている場所。日本では、企業の森や里山などを国が「自然共生サイト」として認定し、国際的なデータベースにOECMとして登録している。
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)
企業や金融機関が、自然に関するリスクや機会を評価し、開示するための枠組みをつくる国際的な組織。















