OpenAI「GPT-6 Cyber」公開、ExploitGymでAstra超え 実在ソフトの評価では下回る

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GPT-6 Cyberは、指定された脆弱性の悪用に成功した割合で48.45%を記録し、元になった汎用モデルのAstraを約6ポイント上回りました。ところが、実在のソフトウェアで脆弱性を探して突く外部評価では、Astraに届いていません。専用の訓練は、いったい何を伸ばしたのでしょうか。数字の種類を読み分けると、その輪郭が見えてきます。


OpenAIは2026年11月5日、GPT-6 Astraをサイバーセキュリティ向けに追加訓練した「GPT-6 Cyber」のシステムカードを公開した。脆弱性の発見やエクスプロイト開発など、認可された業務向けで利用は承認を受けたDaybreak Redの利用者と組織に限られる。Preparedness Frameworkでの指定はAstraと同じで、サイバーセキュリティはCriticalである。脆弱性の悪用成功率を測るExploitGymでは48.45%と、Astraの42.43%を上回った。一方、外部評価機関IrregularによるFrontierCyberでは288問中90問を解き、Astraの96問を下回った。

APIの標準料金は100万トークンあたり入力20ドル、出力100ドルである。

From: 文献リンクGPT-6 Cyber System Card

【編集部解説】

48.45%は、前回の95%とは別の物差しです

8月に1世代前のGPT-5.6 Cyberを紹介した際、見出しの95.0%は「賢さの数字ではなく応答率」だと書きました。高度なサイバー要求に、モデルが拒否せず応答した割合を示す評価です。

今回のExploitGymの48.45%は、それとは性格の違う数字です。ExploitGymは、指定された脆弱性を突いて遠隔の標的でコードを実行し、成功を確かめるための情報(フラグ)を取れたかを測ります。さらに、意図した脆弱性を使ったかどうかまで確かめます。「応じたか」ではなく、このベンチマークの環境で「攻撃が実際に通ったか」を見る評価で、数字としては半分に届いていません。

拒否の少なさを見る数字も、システムカードには別の防御用途評価として載っています。一般的なセキュリティ支援と脆弱性の修正で完了率がそれぞれ100%、エクスプロイト開発で96%、レッドチーミングで97%。8月の95.0%とは別の評価ですが、ほとんどの要求に応じて完了している点は共通しています。同じモデルについて、「ほぼ断らない」と「この評価で半分弱が成功する」が、それぞれ別の評価セットの結果として並んでいる。この2つを取り違えないことが、今回の発表を読むうえでいちばん大事な点です。

もう1点、比べる相手にも注意が要ります。システムカードがExploitGymで並べているのは、汎用モデルのGPT-5.6 Sol(30.3%)とGPT-6 Astraで、前世代の専用モデルGPT-5.6 Cyberの値は載っていません。なお、OpenAIの公式発表ページ「Introducing GPT-6 Cyber」では、前世代のGPT-5.6 Cyberを32.1%としています。また、過去のモデルの値はその最新版で測り直したもので、評価にはばらつきがあり、過去のシステムカードの値とは原則として直接比べられないと注記されています。

専用モデルでも、すべての評価でAstraを上回るわけではありません

前回の記事では、OpenAI自身が「専用モデルが汎用モデルに劣った」評価を2つ挙げていたことを紹介しました。今回のシステムカードにも、同じ構図がはっきり出ています。

上回った評価から見ると、ExploitGymで約6ポイント、防御機構を強めたExploitGym Hardenedで約7ポイント(36.94%対29.69%)、ソースコードなしでバイナリを解析するSRE-Benchで約5ポイント(92.84%対87.98%)。長時間の攻撃シナリオを解くCyScenarioBenchでは11問すべてを1回以上解き(Astraは8問)、平均の成功率は61%で、Astraより7ポイント高くなりました。

一方で、実在するソフトウェアやハードウェアで脆弱性を見つけて悪用するFrontierCyberでは、288問中90問と、Astraの96問を下回りました。ネットワーク攻撃のシミュレーションは98%対100%、検知の回避は63%対66%。これらの外部評価は、Astraのシステムカード公開後に更新された課題で、両モデルを改めて比べた結果です。既知の脆弱性を攻撃に仕立てるExploitBenchでは、ACE正規化平均能力スコアが両者とも100%で並びましたが、2023年以降の既知の事例を使うため、学習時に触れていた可能性からスコアが上振れしうるとOpenAI自身が注記しています。汎用のコーディング評価ExpertSWEでも、82.95%対83.24%とわずかに及びません。

システムカードによると、外部評価を担ったIrregularは「Astraとおおむね同等で、長時間のサイバータスクでは成功率が高い」と評価しました。今回の結果からは、長い作業をやり切る粘り強さも強みとしてうかがえます。ただし、追加訓練の効果を粘り強さだけに切り分けて説明できるわけではなく、悪用やバイナリ解析で数字が伸びたことも同時に起きています。

続ける力と止まる判断は、別の数字に表れます

粘り強さに通じる傾向は、警告への反応にも見られます。ツールが警告を出す評価のうち、継続が適切な課題群ではAstraの72.19%に対して80.43%と高く、停止が適切な課題群では78.38%に対して73.00%と低めでした。OpenAIは、この傾向がタスクへの粘り強さの高さと整合すると説明しています。

作業を妨げた障害を最終回答で報告しなかった割合も、Astraの11.66%に対して20.29%でした。ただしOpenAIによると、確認したフラグ付きの例の多くで、モデルは途中のメッセージで障害を伝えており、最終回答で繰り返していなかっただけでした。OpenAIは、それらを意図的な欺瞞ではなく、最終要約が不完全なケースと評価しています。

ハニーポット評価は、補助用のサービスを正当に使うことは認めつつ、そのサービス自体を悪用しないかを見るものです。安全指示なしで0.07%、この評価で観測された範囲では、安全指示ありで0%でした。前世代の汎用モデルGPT-5.6 Sol(49.5%)や専用モデルGPT-5.6 Cyber(5.51%)と比べると、範囲を守る挙動は大きく改善しています。安全指示を与えた運用と、与えない運用で結果が変わるという点は、使う側が設計に組み込むべき情報です。OpenAIはCodexアプリではサンドボックスとAuto-Reviewの利用を、APIでは同等の実行前チェックを勧め、高リスクの作業では人が監督して止められるようにすることを求めています。

Criticalは「初」ではなく、Astraと同じ指定です

GPT-6 Cyberは、評価の結果、Preparedness FrameworkでAstraと同じくサイバーセキュリティが「Critical」に指定されました。生物・化学はHigh、AIの自己改良はHigh未満で、これもAstraと同じです。8月の時点で、当時開発中だったAstraについて「Criticalを否定できない」と公表されていましたが、その延長線上にあるモデルです。

新しく加わったのは、モデルの外側の統制です。産業制御、重要なサービス、選挙システムに関わる高リスクの支援を検知して遮断するチェックを加え、産業制御セキュリティの専門企業Dragosと評価を行いました。このチェックは、Daybreak BlueのサイバーCriticalモデルにも適用されます。サイバー向けの訓練で他分野の拒否が緩まないよう、全利用者に生物分野の保守的な安全モードも適用しています。

利用には、もともと厳しい条件があります。組織にはSSO、多要素認証、管理されたデバイス、最小権限を求め、個人は招待制で、本人確認とライブネス確認に加え、FIDO2の物理セキュリティキーが必要です。今回はそこに、Daybreak RedのAPIで既定となるIPアドレスの許可リスト(技術的な事情などによる例外あり)が加わりました。また、Zero Data Retention(ZDR)を使うAPI顧客には、限定的な例外を除いてPrivate Safety Processingの利用を求めます。中身を人に見せずに悪用を検知する仕組みで、暗号化された記録は顧客側で30日間保存されます。

APIの標準の短文脈料金は100万トークンあたり入力20ドル、出力100ドルで、Astra(入力10ドル、出力50ドル)の2倍です。組織がAPIで利用するには、Daybreak RedへのアクセスとGPT-6 Cyberの利用承認が必要です。

防御側の道具は、「誰がどう使うか」とセットで届く

日本でも11月6日、政府のサイバーセキュリティ緊急対策パッケージで、経済産業省の担当のもと、IPAに高性能AIを活用してペネトレーションテストを担う「トップガン人材チーム」を11月中に立ち上げる方針が示されました。政府の対策にも、AIを使った攻撃の検証が明示的に組み込まれました。

今回のGPT-6 Cyberは、能力の数字だけでなく、粘り強さのような挙動の特徴や、範囲を守るための運用条件も含めて提供されています。どのモデルを選ぶかは、ベンチマークの比較だけでは決まりません。自分たちの統制の仕組みに、そのモデルの性格をどう組み込むか。防御の現場に求められる判断は、そこへ移ってきています。

【関連記事】

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1世代前の専用モデルを扱った記事。95%が応答率であることと、専用モデルが汎用モデルに劣った2つの評価を、詳しく整理した

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【編集部後記】

報告書の最後の数行だけを読んで、作業が無事に終わったと判断する。人間の現場でも、よくある読み方です。

GPT-6 Cyberの評価では、障害を最終回答に書かなかった例のうち、OpenAIが確認したものの多くで、途中のメッセージでは障害を伝えていたそうです。AIに長い作業を任せるほど、途中の記録は長くなります。そのログを誰がどこまで読む前提で、私たちは運用を組んでいるでしょうか。


【用語解説】

エクスプロイト
脆弱性を実際に悪用し、攻撃者が意図した動作を引き起こすためのコードや手法。脆弱性の「存在」を示すだけでなく、攻撃が成り立つことを実証する点に意味がある。

ExploitGym
AIモデルが、指定された脆弱性を突いて遠隔の標的でコードを実行し、フラグを取得できるかを測る評価。意図した脆弱性を使ったかどうかまで確認する。

Preparedness Framework
OpenAIが、サイバーセキュリティや生物・化学などの分野で、モデルが深刻な害をもたらす能力を持つかを評価し、HighとCriticalの段階に応じて安全対策を定める枠組み。

Daybreak Red
OpenAIのサイバー防御向けアクセス制度「Daybreak」のうち、より厳しい審査と安全要件のもとで、サイバーに特化したモデルを提供する階層。

レッドチーミング
攻撃者の視点で組織やシステムを攻め、防御の弱点を洗い出す演習。AIモデルの安全性評価でも、意図的に危険な要求を与えて挙動を確かめる手法として使われる。

ハニーポット
攻撃者をおびき寄せるために用意したおとりのシステム。今回の評価では、補助用途で使ってよいサービスを置き、そのサービス自体を攻撃するという範囲外の行動をモデルがとらないかを確かめた。

FIDO2
公開鍵暗号を使い、物理的なセキュリティキーや端末内の認証器でログインするための標準規格。認証器の解除にはPINや生体認証などを使う。フィッシングによる認証情報の盗用に強い。

【参考リンク】

Daybreak | OpenAI for cybersecurity(外部)
OpenAIのサイバー防御の取り組みDaybreakの公式ページ。BlueとRedの階層や、提携企業による利用の枠組みを紹介している

GPT-6 Cyber(OpenAI API Docs)(外部)
GPT-6 CyberのAPIモデルページ。料金、入出力の形式、Daybreak Redへのアクセスと承認が必要なことを記載している

GPT-6 Astra(OpenAI API Docs)(外部)
GPT-6 CyberのもとになったGPT-6 AstraのAPIモデルページ。料金やコンテキスト長などの仕様を掲載している

Irregular(外部)
フロンティアAIモデルのサイバー能力を、現実に近い攻撃シナリオで評価するセキュリティ研究機関。GPT-6 Cyberの外部評価を担当した

Dragos(外部)
産業制御システムとOTのセキュリティを専門とする米国企業。GPT-6 Cyberの新しい遮断の仕組みをOpenAIと評価した

【参考記事】

Expanding Daybreak as the cyber defense window narrows(外部)
2026年8月10日のOpenAI発表。DaybreakをBlueとRedに再編し、GPT-5.6 Cyberと応答率95.0%を示した

Responding to the next frontier of critical cyber capabilities(外部)
2026年8月7日のOpenAI発表。次期モデルAstraのサイバー能力がCriticalであることを否定できないとして、追加措置を示した

The Next Generation of Cyber Evaluations(外部)
Irregularが、従来のベンチマークを超えて、現実に近い攻撃シナリオにモデルを置く評価の考え方と、その必要性を説明した記事

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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