NEDOが2030年頃の量子コンピュータの産業化を掲げるなか、「どの計算が実際に役立つのか」というユースケースの見極めが課題になっています。ただ、現状では量子ビット数やエラー率の制約から、量子計算だけで大規模な計算を行うのは難しい、と今回の共同研究の発表でも述べられています。そこで鍵になるのがAIとの組み合わせです。10月28日に公表された日本企業6社の共同研究は、その検証を2028年度まで続ける取り組みです。何を確かめ、何がまだ見えていないのでしょうか。
10月28日に公表された研究開発は、TOPPANホールディングス、アイシン、旭化成、ソフトバンク、AGC、DICの6社が、NEDOが公募した「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の「ユースケース創出に向けた大型実証」に共同提案し、採択されたものだ。6社は協定書を締結し、2026年度から2028年度まで、量子コンピュータによる計算を中核に、機械学習をはじめとするAI技術と統合した材料開発基盤の構築をめざす。研究開発項目は、量子計算の適用領域の検証、量子計算活用技術の開発、シミュレーション結果と実験結果の比較の3つだ。対象には電池材料、光機能性材料、超電導材料などが挙がる。各社は異なる材料領域での検証を担い、ソフトバンクは量子コンピュータとスーパーコンピュータを連携させた計算基盤でのデータ生成と、AIによる活用技術の開発を受け持つ。
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量子コンピュータを活用した材料開発基盤構築の研究を6社で開始
【編集部解説】
同じ枠のなかで進む、アルゴリズム開発と材料の現場
国内にも、材料計算向けの量子アルゴリズムを開発する企業があります。テラスカイのグループ会社であるQuemixは、量子化学計算のアルゴリズム「確率的虚時間発展法(PITE)」を開発し、量子による高速化が数学的に証明されたとしています。2030年を目標に、材料計算・シミュレーション分野での実用化をめざしています。
NEDOの同じ「ユースケース創出に向けた大型実証」には、Quemixも別の提案で実施予定先に入っています。件名は「量子コンピュータを用いた材料シミュレーション基盤の開発とその電池材料への実証」です。テラスカイの発表によると、グループ会社のQuemixは東北大学と組み、放射光施設ナノテラスの実測データと比べて有効性を示す計画です。今回の6社の件名とは、別々の提案です。なお、NEDOは2026年7月17日に実施予定先を公表しており、今回の6社の件名もその一覧に載っています。
同じ制度のなかで、アルゴリズムと計算基盤を磨く側と、材料開発の現場に近い企業が検証する側が、並行して動いている、と整理できそうです。Quemixは、三井金属と2026年7月17日に資本業務提携を結ぶなど、事業会社との接点も広げています。
大企業が束になることの意味
アルゴリズムが理論上速いことと、実際の材料開発で役に立つことは、同じではありません。今回の研究開発は、量子計算を含むシミュレーションの結果をもとに材料を合成・評価し、実験結果と比べて「量子計算の実益」を検証する設計です。旭化成やTOPPANが実験結果のフィードバックを担うなど、材料開発の現場に近い企業が加わる点は、アルゴリズム開発だけでは得にくいデータにつながる可能性があります。
6社は、それぞれ強みを持つ領域で検証を担います。電解液や電極、光学硝材、色材、超電導材料、添加材料、高分子など、対象は多岐にわたります。対象が多岐にわたることで、どの材料のどの計算で量子が効き、どこでは効かないのかという切り分けが、一つの枠組みのなかで見えてくるかもしれません。「効かなかった」という結果も、先端材料の開発では貴重な知見になりえます。
まだ見えていないこと
6社のリリースには、使用する量子コンピュータの機種、予算額、連携する「量子計算の専門機関」の名称、成果の評価指標が書かれていません。NEDOの実施予定先一覧にも、事業期間と予算規模の記載はありませんでした。成果が論文やデータとして公開されるのか、各社の社内知見にとどまるのかも、現時点では読み取れません。
2028年度までの成果が先端材料の知見として、どこまで外に出てくるのか。その行方が、今後の注目点です。
【用語解説】
量子ビット
量子コンピュータにおける情報の最小単位。6社のリリースでは、現状の量子ビット数やエラー率の制約が、量子コンピュータ単独での大規模計算を難しくしている要因として挙げられている。
確率的虚時間発展法(PITE)
Quemixが開発した量子化学計算のアルゴリズム。同社は量子による高速化が数学的に証明されたとし、国内で特許を取得している。
NanoTerasu(ナノテラス)
宮城県仙台市にある3GeV高輝度放射光施設。2024年4月からユーザーへの放射光利用を開始し、材料科学や生命科学などの先端研究を支える。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
アルゴリズムを磨く側と、実験で確かめる側が、同じ制度のなかで量子計算の使いどころを探っています。今回の6社の取り組みは、その動きの一場面に見えました。一方で、2028年度までの成果がどこまで外に出てくるのかは、まだ分かっていません。うまくいかなかった計算の記録も、この分野の次の一歩につながる手がかりになるのではないでしょうか。


















