手術室で働くロボット「hinotori」を擁する川崎重工グループが、次の行き先に選んだのは高齢者の自宅でした。発表された試作機は、階段を上り、転倒した人に声をかける姿を図版に描いた四本脚のロボットです。工場と病院で磨かれたロボット技術は、家の中でどんな役割を担えるのでしょうか。
川崎重工業は2026年10月6日、ヘルスケア分野向けソーシャルロボット「Home LEO(ホーム・レオ)」の試作機を製作したと発表した。フィジカルAIを活用して周辺環境を認識し、状況に応じて判断し、自律的に行動するロボットで、高齢者の在宅生活の支援を目指す。会話や見守りによる生活習慣・好みの理解、転倒や体調変化、火の不始末などのリスクや異変の兆候の検知と家族・介護関係者との連携、住居内の移動や物品の探索、本人の同意を前提とした医療機関・介護施設とのデータ共有を掲げる。
これらの特長には今後の開発で実装予定の機能も含まれる。試作機の寸法は全長640mm×全高675mm×全幅390mm。行政や医療・介護機関などとの連携を図りながら実証試験を重ね、2028年度の市場投入を予定している。
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ヘルスケア分野向けソーシャルロボット「Home LEO」の試作機が完成
【参考動画】
【編集部解説】
川崎重工業といえば、二輪車や鉄道車両、航空機、そして工場で働く産業用ロボットを思い浮かべる人が多いはずです。その会社が、高齢者の暮らす家の中に入っていくロボットを発表しました。
Home LEOの意味は、単体の新製品というより、川崎重工グループのヘルスケア事業の地図に、在宅という新たな領域が書き加えられることにあります。
グループはこれまで、手術支援ロボット「hinotori」で手術室を、屋内配送ロボット「FORRO」やセミヒューマノイド「Nyokkey」で病院や介護施設を支えてきました。9月にはイタリアのジェメッリ大学病院と次世代医療ソリューションの開発に向けた覚書も結んでいます。そこへHome LEOが加わることで、支援の範囲が医療機関・介護施設から在宅にまで広がる、と川崎重工は位置づけています。
病院と施設と自宅は、本来ひと続きの生活です。それを別々の機器ではなく、一つのグループの技術でつなごうとしている点に、この発表の視座の高さがあります。
では、四本脚で歩くことは何を変えるのでしょうか。
今後の実装予定の機能も含めて描かれたリリースの図版には、ロボットが階段を上る場面と、「固定式フックでドアを開けられる」と書かれた場面があります。一般的な車輪型の移動ロボットにとって、階段は移動範囲を大きく制約します。ドアの開け閉めにも、それに対応する機構と制御が欠かせません。
家の中で移動できる範囲は、利用者のそばで見守れる場面を左右します。階段に対応できれば、2階の寝室と1階の居間をまたいだ見守りにもつながります。川崎重工はこうした住居内の移動を、長年培ってきたロボット技術にAIを融合して実現するとしています。対応できる階段やドアの条件は、これからの開発で明らかになっていく部分です。
この「動ける」ことを支えるのが、川崎重工がうたうフィジカルAIです。
フィジカルAIは、周囲の状況を認識し、判断し、現実の世界での行動につなげる技術です。リリースの図版には、転倒した利用者のそばでロボットが「大丈夫ですか?起き上がれますか?」と声をかける場面と、スマートフォンに届く転倒アラートが描かれています。リリース本文も、異変を検知したら本人に働きかけ、家族や介護関係者と連携すると説明しています。
天井のセンサーや固定カメラも異変は検知できます。ただ、そばへ行って声をかけることはできません。検知から本人への働きかけ、関係者への連絡までを一台でつなぐことが、Home LEOの描く見守りの構想です。
もう一つ見逃せないのが、4つ目の特長に掲げられたヘルスケアプラットフォームです。
日々の会話や行動、健康状態を継続的に記録し、医療機関や介護施設と共有する。これが実現すれば、診察室での数分間だけでは見えなかった体調の変化が、日常のデータとして医師や介護職員に届くようになります。
家の中の会話や健康状態に関する情報は、慎重な取り扱いが求められるデータです。川崎重工がこの共有を「本人の同意」と「適切な情報管理」を前提とし、「セキュアな通信環境」で取得すると最初から明記していることには大きな意味があります。見守りの信頼は、検知の精度と同じくらい、データの扱いへの信頼で決まります。誰がどのデータを取得・保管し、誰と共有するのか。その運用の設計も、今後注目したい点です。
なお、リリースが挙げる特長には「今後の開発で実装予定の機能」が含まれており、寸法も試作段階のものです。朝日新聞の報道によれば、価格は未定ながら、川崎重工は個人で利用できる料金体系をめざしており、犬の姿にしたのには親しみやすさや「心のケア」につなげる狙いもあるといいます。
川崎重工は今後、厚生労働省や経済産業省、地方自治体、医療・介護機関、AIテック企業などとの連携を図りながら実証試験を重ね、2028年度の市場投入を目指します。
住み慣れた家で暮らせる時間を、一日でも長くする。人手不足が続く介護の現場にとっても、離れて暮らす家族にとっても、それは切実な願いです。重工業の技術が、その願いにどこまで応えられるのか。2028年度に向けた実証の歩みに注目したいと思います。
【編集部後記】
「Home LEO」の「LEO」は、ライオンのことではありません。Linking Life、Empowering You、Optimizingという3つの言葉の頭文字です。そして名前の先頭に置かれたのは、ロボットではなく「Home」、住み慣れた家でした。
テクノロジーの相談窓口に立っていると、離れて暮らす親の見守りは「カメラを付けるかどうか」から話が始まることが少なくありません。家を主語にしたロボットは、その出発点を変えるかもしれません。あなたなら、実家のどの部屋にまず来てほしいですか。
【用語解説】
フィジカルAI
ロボットなどの機械が、カメラやセンサーで周囲の状況を認識し、判断し、現実の世界で体を動かして行動するためのAI。画面の中で文章や画像を生成するAIと対比して使われることが多い。
ソーシャルロボット
人と会話したり感情に働きかけたりして、社会的なやりとりを担うことを主な役割とするロボット。工場の産業用ロボットとは目的が異なる。
セミヒューマノイド
人間の上半身のような腕や頭部を持ちながら、脚の代わりに車輪などで移動するロボット。完全な人型(ヒューマノイド)に比べて安定性を確保しやすい。
ヘルスケアプラットフォーム
健康や生活に関するデータを集めて蓄積し、医療機関や介護施設など複数の関係者と共有するための基盤。Home LEOでは、会話や行動、健康状態のデータを本人の同意を前提に共有する仕組みとして位置づけられている。
年度
日本の会計年度は4月1日から翌年3月31日まで。2028年度は2028年4月から2029年3月までを指す。
【参考リンク】
川崎重工業株式会社(外部)
二輪車、鉄道車両、航空機、産業用ロボットなどを手がける総合重工業メーカーの公式サイト。今回のHome LEOの発表元である。
株式会社メディカロイド(外部)
手術支援ロボット「hinotori」を開発・提供する医療用ロボットメーカーの公式サイト。hinotoriは今回の発表にも登場する。
【参考記事】
火の消し忘れも検知、川重が犬型AIロボを開発 28年度に販売へ(外部)
川崎重工が開発中の犬型ロボットを報じた朝日新聞の記事。犬型にした狙いと、個人で利用できる料金体系をめざす方針を伝えている。
次世代医療ソリューション開発に向けたイタリア・ジェメッリ大学病院との覚書を締結(外部)
川崎重工の欧州R&D拠点が2026年9月11日、ジェメッリ大学病院と次世代医療ソリューション開発の協業検討で覚書を結んだ。
フィジカル AI とは? | NVIDIA(外部)
フィジカルAIを、ロボットなどの自律マシンが現実世界を捉えて理解し、込み入った動作をこなせるようにする技術として解説する。


















