富士通が9月14日に発表した国産CPU「FUJITSU-MONAKA」。発表本文が掲げるのは最大3.8GHzという数字ですが、同じ資料の製品表には2.1GHzと2.9GHzが並んでいます。その差を決めているのは、性能の優劣ではなく冷却方式でした。散文ではなく表のほうに、この製品の設計思想が表れています。
富士通は2026年9月14日、国産次世代CPU「FUJITSU-MONAKA」と、同CPUを搭載したサーバ「Fujitsu MONAKA Server」を2026年11月から販売すると発表した。演算部に2nm、キャッシュとI/O部に5nmを適用した3D積層構造で、最大動作周波数は3.8GHz、メモリ転送速度は8800MT/s。AI推論のスループットは他社CPU比2倍で、同等の処理量に必要なサーバ台数と消費電力を半減できるとしている。
サーバは国内の笠島工場で製造し、ソブリン用途向けの2Uと1U、アカデミア・HPC用途向けの2Uマルチノードを用意する。1Uは空冷で周囲温度40度まで動作する。CPUの提供は2026年度第4四半期から、サーバの出荷は2027年4月以降を予定する。
3.8GHzは、最大値だった
発表本文で最初に目を引くのが、3.8GHzという数字です。ただし、これは最大動作周波数です。同じリリースに載っている製品表には、別の数字が並んでいます。
ソブリン用途向けの2Uモデルは、ベース周波数2.1GHz。1Uモデルは、空冷で運用するときが2.1GHz、水冷で運用するときが2.9GHzです。アカデミア・HPC用途向けの2Uマルチノードモデルは水冷で、2.9GHz。コア数はいずれも144コアで共通しています。
つまり、同じCPU、同じ1Uの筐体でも、冷やし方によってベースの働き方が変わります。2.1GHzを基準にすると、2.9GHzは約38%高い計算になります。数字だけを並べれば、空冷は低いほうに見えます。
空冷という選択が意味すること
けれど、富士通がこのリリースの「背景」に書いた3点を読むと、空冷モデルを用意した狙いが見えてきます。
書かれているのは、生成AIの拡大で計算資源の供給が追いつかず電力需要が急増していること、機密情報を自社で管理・運用したいというニーズが高まっていること、そして水冷の専用設備を持たない拠点でも運用できるAI基盤が必要とされていること。3つ目は、空冷対応の1Uモデルが用意された背景を読み解く手がかりになります。
水冷を導入するには、配管と熱交換の設備が要ります。既存の建物に置くサーバ室では、その整備自体が導入の条件になることがあります。そこに置けるかどうかは、性能の高低より手前にある条件です。空冷で周囲温度40度まで動くという仕様は、性能とのトレードオフを受け入れながら、水冷設備のない拠点まで設置できる範囲を広げた設計だと読めます。
同じ発想は、1Uモデルが採用したCDI/CXL技術にも表れています。メモリやアクセラレーターをサーバの枠を超えて配置し、必要な場所へ割り当てる。AI推論ではメモリ不足が課題の一つになるため、1台ずつ増設するだけでなく、融通できる構造にしておく。限られた電力と面積のなかで、どう配るかという問題に組み替えているわけです。
「2倍」と、日程の読み方
そのうえで、AI推論のスループットが他社CPU比で2倍という数字が置かれています。比較の相手となるCPUの機種や、測定に使ったモデル・条件は、今回の発表資料の範囲の外にあります。現時点では、富士通が公表した比較値として読むのが正確でしょう。
日程は、少し丁寧に読む必要があります。「2026年11月販売開始」と、実際の提供・出荷の開始は別の時期です。CPUの提供は2026年度第4四半期、つまり2027年の1月から3月。サーバの日本・欧州向け出荷は2027年4月以降になります。その前に、2026年度下期から金融・通信・製造分野の一部の顧客へ先行提供が行われます。Hot Chips 2026の技術レポートで示されていた2027年投入という日程とも、整合しています。手元に届くまでの距離を、あらかじめ織り込んでおくと良さそうです。価格は、まだ発表されていません。
「国産」は、どこまでを指すのか
もうひとつ、この記事で触れておきたいのが「国産」という言葉の射程です。
FUJITSU-MONAKAは日本で設計・開発され、搭載サーバは石川県の笠島工場で製造されます。CPUはコアダイに2nm、SRAMダイとI/Oダイに5nmを採用しており、Hot Chips 2026の技術レポートでは、それぞれTSMCのN2PとN5だと報告されています。設計の主権と、製造の場所は、別々に数えるものです。
これは弱点ではなく、ソブリン性が連続量であることの表れだと考えています。innovaTopiaはこれまで、デジタル庁の「源内」やNoetra、トムソン・ロイターの事例を通じて、主権を「持っているか、いないか」の二択で見ない立場を取ってきました。譲れない一点をどこに置くか。今回とくに形になったのは、国内でCPUを設計することと、部品の出所やサーバの製造履歴を追えることでした。
そして、Fujitsu KozuchiやTakaneと組み合わせた垂直統合モデルまで示されている点は見逃せません。CPUを売って終わりではなく、その上で動くAIまで含めて管理下に置ける構成を、最初から提示しています。
富岳のためのCPUから、データセンターのCPUへ
A64FXが富岳を主な舞台としてきたプロセッサであることを思うと、今回の位置づけは対照的です。FUJITSU-MONAKAは、データセンターの棚に並び、既存の建物の電力と空調のなかで動き、業種ごとのAIを載せることを想定しています。その一方で、理化学研究所と開発中の富岳NEXTに向けては、FUJITSU-MONAKA-Xの開発が進んでいます。一般のデータセンター向けのMONAKAと、次のスーパーコンピュータへ向かうMONAKA-X。この二つの展開がどこで交わるのかは、これから見えてくるところです。
【関連記事】
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富岳NEXTの開発体制を報じた記事。FUJITSU-MONAKA-XとNVLink Fusionの組み合わせに触れている。
【解説】フィジカルAIとNVIDIA・Noetra1兆円構想|世界の頭脳が日本に集うのはなぜか
国産の計算基盤をめぐり、どこまでを国産と呼ぶのかを問うた記事。ソブリン性の射程と、現実的な線引きの置き方を扱っています。
【編集部後記】
2nmのCPU、と聞いて思い浮かべる像はたぶん、チップ全体が最先端で作られている姿です。ところがHot Chips 2026の説明によれば、FUJITSU-MONAKAで2nmが占めるのは総シリコン面積の3割に満たないといいます。
縮めて効く回路にだけ最先端を使い、残りは5nmに置く。呼び名は一つでも、中身は使い分けでできています。次に「2nmのチップ」という言葉を見かけたら、どの部分が2nmなのかを一度確かめてみてください。
【用語解説】
最大動作周波数
CPUが条件のそろったときに到達しうる上限のクロック。実際の常用速度を示すベース周波数とは別の指標である。
ベース周波数
定められた環境条件のもとで、継続的に動作することを保証するクロック。製品の仕様表ではこちらが基準になる。
3D積層構造
複数のチップレットを平面に並べるのではなく、垂直方向に積み重ねる実装。チップ間のデータ転送距離が縮まり、遅延と消費電力を抑えられる。
コアダイ/SRAMダイ/I/Oダイ
CPUを機能ごとに分割した個々のチップ。演算を担うコアダイ、キャッシュを担うSRAMダイ、外部接続を担うI/Oダイに分け、それぞれに適した製造プロセスを割り当てる。
N2P/N5
TSMCの製造プロセスの呼称。N2Pは2nm世代、N5は5nm世代にあたる。微細化の効果が大きい回路にN2Pを、縮みにくい回路にN5を使い分ける設計が広がっている。
MT/s
Mega Transfers per second。メモリが1秒間に何回データを転送できるかを示す単位。8800MT/sは毎秒88億回にあたる。
CDI/CXL技術
Composable Disaggregated Infrastructure と Compute eXpress Link の略。メモリやアクセラレーターをサーバ筐体の外に配置し、複数のサーバから必要な分だけ割り当てられるようにする構成と、その接続規格を指す。
2Uマルチノード
ラックマウントサーバの実装形態の一つ。Uはラック内の高さの単位で、1Uは約44.45mm。2Uの筐体に複数の独立したサーバを収め、設置面積あたりの処理能力を高める。
AI推論
学習済みのAIモデルを実際に動かし、入力に対して出力を得る処理。モデルの学習とは求められる計算特性が異なり、メモリの容量や帯域が制約になりやすい。
ソブリン性
データや計算基盤を自らの管理下に置ける度合い。設計、製造、運用、ガバナンスなど複数の要素からなり、持つか持たないかの二択ではなく程度として捉えられることが多い。
A64FX
富士通が開発したArmベースのCPU。スーパーコンピュータ「富岳」に採用され、PRIMEHPC FX1000/FX700にも搭載された。
FUJITSU-MONAKA-X
富岳NEXTへの搭載に向けて富士通が開発中のCPU。FUJITSU-MONAKAとは別系統の製品として位置づけられている。
【参考リンク】
世界トップレベルのAI推論性能を実現する国産次世代CPU「FUJITSU-MONAKA」とソブリンAI基盤を実現する国産サーバ「Fujitsu MONAKA Server」販売開始について|富士通(外部)
2026年9月14日の富士通の発表。本記事が読み解いた製品表の数値と「背景」の記述は、いずれもこのリリースに掲載されている。
FUJITSU-MONAKA|富士通(外部)
FUJITSU-MONAKAの公式製品ページ。144コア構成やArm CCAの採用、検証機トライアルの案内を掲載している。
ソブリニティを実現するAIサーバの国内製造開始|富士通(外部)
2026年2月12日の富士通の発表。MONAKA搭載サーバを含むAIサーバの国内製造開始を予告した、今回の前史にあたる。
Fujitsu Kozuchi Enterprise AI Factory|富士通(外部)
Fujitsu Kozuchiの専有型AIプラットフォームの公式ページ。LLM「Takane」を中核に据えた構成を説明している。
スーパーコンピューターからデータセンターへ:Armを活用した富士通の事業拡大|Arm(外部)
Armによる技術解説。チップレット構成や2ソケット最大288コア、PCIe 6.0とCXL 3.0への対応を説明している。
「富岳NEXT」について|理化学研究所 計算科学研究センター(外部)
理化学研究所による富岳NEXTの紹介ページ。理研・富士通・NVIDIAの三者連携という開発体制と、研究開発の範囲を示している。
【参考記事】
Fujitsu’s Arm-based Monaka Data Center CPU at Hot Chips 2026|ServeTheHome(外部)
Hot Chips 2026の講演レポート。コアダイのN2P、SRAMとI/OダイのN5、DDR5 12チャネルなどを報告。
富士通「MONAKA」の全貌、2nmを演算部に絞る144コア3D積層CPU|XenoSpectrum(外部)
MONAKAの内部構成を詳報した記事。36コアのコアダイ4基という構成や、N2Pが総シリコン面積の3割未満という数値を伝える。
Hot Chips 2026: Fujitsu’s Monaka CPU|Chips and Cheese(外部)
コア設計に踏み込んだ分析記事。6基のALUや64KBの命令キャッシュなど、公開されたバックエンドの構成を読み解いている。
富士通、国産CPU「FUJITSU-MONAKA」と搭載サーバーを2026年11月から販売|IT Leaders(外部)
同日の国内報道。CPUの提供とサーバ出荷の時期、1Uサーバの冷却条件と冷却電力を最大80%削減という数値を整理している。
高度なAI推論性能の次世代CPU「FUJITSU-MONAKA」|AI Watch(外部)
同日の国内報道。ソブリン用途とアカデミア・HPC用途それぞれのラインナップ図を掲載し、今後の追加計画についても触れている。


















