日立建機×イグニサス、Robloxメタバースで「重機ファンダム」始動—Z世代・α世代へ広がる新たな産業ファン体験

巨大な油圧ショベルが、Robloxの3D空間にやってくる——。日立建機が、NEC発のメタバース企業イグニサスと手を組み、Z世代・α世代に向けた新しい「重機ファン体験」の実証に乗り出しました。社会インフラを支える建機メーカーが、なぜ今ゲームプラットフォームに踏み込むのか。その背景には、建設業界の構造的な担い手不足と、BtoB企業ならではの新しいファンマーケティング戦略が見え隠れしています。


日立建機株式会社は、重機ファンコミュニティ「重機ファンダム」の活動の一環として、イグニサス株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:小林大剛)と2026年4月20日に技術検証契約を締結した。イグニサスはNECのSSI(Structured Spin-In)プログラムから誕生したスタートアップであり、ゲームプラットフォーム「Roblox」向けのクリエイティブ制作やソリューション開発を手掛けている。

今回の提携では、イグニサスが新たに制作するRoblox上のメタバース空間「イグニサスワールド」において、重機ファンダムとのコラボレーションの展開可能性を検証する。対象はZ世代・α世代であり、エンターテインメントを通じて重機の魅力を伝える。日立建機サステナビリティ本部本部長の佐々野茂樹、イグニサス代表取締役の小林大剛がそれぞれコメントを発表した。

From: 文献リンク重機ファンダム:メタバースで新たなファン体験を創出するイグニサス株式会社と技術検証契約を締結

【編集部解説】

日立建機がメタバース領域で本格的に動き出した、というニュースです。建設機械という、メタバースとは一見最も縁遠そうな世界の企業が、なぜいま「Roblox」に目を向けたのか。その背景には、業界全体が抱える深刻な課題と、新しいエンゲージメントの形が見え隠れしています。

まず押さえておきたいのが、日立建機は世界トップ10級の大手建設機械メーカーであるという点です。エンドユーザーは現場のプロフェッショナルが中心で、消費者層との接点は希薄でした。にもかかわらず、2024年6月の第一回オフ会を皮切りに重機ファンコミュニティの活動を開始し、2025年7月には公式ファンクラブの特設ページを開設、同月末の第二回オフ会には約200名規模が集う活発なコミュニティへと成長しています。ファミリーマートと連携した重機ブロマイドプリント施策など、BtoBらしからぬ取り組みを矢継ぎ早に展開してきました。

今回提携するイグニサスは、NECのSSI(Structured Spin-In)プログラムから誕生したスタートアップです。なお、SSIモデルはGlobal Catalyst Partners Japan(GCPJ)が提唱・運営してきた新規事業創出モデルとして知られ、NECはGCPJの2号ファンドにLPとして参画しています。イグニサスは、Robloxをはじめとするメタバース空間向けのクリエイティブ制作・ソリューション開発を手掛けており、2026年3月にはNEC自身のオープンイノベーション施策で、Robloxでの累計プレイ回数10億回を超える人気クリエイターと連携した広告展開も実施。デジタルネイティブ層へのリーチ手法において確かな実績を持っています。

ここで重要なのが、Robloxというプラットフォームの位置付けです。日本ではまだ過小評価されがちですが、Roblox公式IRによれば2026年3月期四半期時点で日次アクティブユーザー(DAU)は1億3,200万人、四半期のエンゲージメント時間は310億時間に達しています。Z世代・α世代を含む若年層に強く、Robloxは「ゲーム」というよりも、友人と過ごす”場所”そのもの。テレビCMや学校訪問では届かない層に、自然な形でブランドを体験させられる稀少なチャネルなのです。

ではなぜ「いまこのタイミング」なのでしょうか。建設業界の人手不足は構造的な問題で、国土交通省の資料によれば2024年の建設業就業者のうち55歳以上が36.7%、29歳以下はわずか11.7%と、高齢化と若年層の入職減少が顕著に表れています。10年後、20年後に社会インフラを誰が支えるのか——この問いに対し、即効性のあるリクルート活動だけでなく、子どものうちから「重機ってかっこいい」という認知の種を撒く長期戦略が必要になっているわけです。

ポジティブな側面として、この取り組みは「BtoB企業のファンマーケティング」という新しい潮流を象徴しています。消費者と直接接点を持たない企業でも、ブランドの世界観や製品の機能美を通じてファンを生み、人材獲得や業界全体のイメージ向上につなげる——日本のものづくり企業にとって示唆に富むモデルケースになる可能性があります。

一方で、注意すべき論点もあります。メタバースの世界はトレンド変化が激しく、Robloxユーザーの興味関心も流動的です。一過性のキャンペーンに終わらせず、バーチャル空間での体験を「実際にこの業界で働きたい」という意思へ橋渡しする設計が、検証フェーズの本質的な勝負どころになるでしょう。また、Z世代・α世代と接点を持つ以上、未成年保護やデータの取り扱いなど、プラットフォーム固有のコンプライアンス対応も今後問われていきます。

長期的に見ると、これは単なるPR施策ではなく、「産業の物語をどう次世代に継承するか」という命題に対する一つの解です。重機を”推し”の対象にするという発想は奇抜に見えて、実はインフラを支える仕事への敬意を社会全体で育て直す試みでもあります。日立建機の動きは、製造業全体が直面する「担い手不足」を、テクノロジーとコミュニティの力で乗り越えるための、興味深い実験として注目に値します。

【用語解説】

メタバース
インターネット上に構築された3次元の仮想空間。ユーザーはアバターを通じて他者と交流したり、イベントに参加したりできる。近年は単なるゲーム空間ではなく、企業のマーケティングや教育の場としての活用も広がっている。

Z世代・α世代
Z世代は概ね1990年代後半から2010年代前半生まれ、α世代は2010年代以降に生まれた世代を指す。生まれた時からデジタル環境が当たり前に存在する「デジタルネイティブ」であり、スマートフォンやSNS、ゲーム空間を通じたコミュニケーションが主流である。

UGC(User Generated Content)型プラットフォーム
ユーザー自身がコンテンツを制作・投稿し、それを他のユーザーが楽しむ仕組みのプラットフォームを指す。Robloxが代表例である。

SSI(Structured Spin-In)モデル
シリコンバレー発祥の投資・新規事業創出モデル。大企業の内部で生まれた事業アイデアを、社外の独立したベンチャー企業として一旦スピンアウトさせ、成長後に大企業が買収優先交渉権を行使して取り込む(スピンイン)ことを前提に設計されたスキーム。日本ではGlobal Catalyst Partners Japan(GCPJ)がこのモデルを提唱・運営しており、NECもGCPJの2号ファンドにLPとして参画している。

ファンダム(Fandom)
特定の対象(作品、ジャンル、企業、人物など)を熱狂的に愛好するファンの集団・文化を指す英語。「重機ファンダム」は、重機を愛するファンが集うコミュニティとして日立建機が運営する公式ファンクラブの愛称である。

BtoB企業のファンマーケティング
従来、企業を顧客とする取引(BtoB)を主としてきた企業が、エンドユーザーである一般消費者層(ライト層)にもブランドの魅力を伝え、長期的なファンを育てようとするマーケティング手法。人材獲得や業界全体のイメージ向上に寄与する施策として近年注目されている。

ウェルビーイング(Well-being)
身体的・精神的・社会的に良好で満たされている状態を指す概念。企業活動の文脈では、従業員や顧客、地域社会の総合的な幸福度の向上を意味する経営指標として活用されている。

【参考リンク】

日立建機株式会社 公式サイト(外部)
建設機械大手の公式コーポレートサイト。製品情報、ソリューション、サステナビリティ活動、IR情報などを掲載している。

重機ファンダム 紹介ページ(外部)
日立建機サステナビリティの一環として、重機ファンダムのビジョンや活動内容を紹介している公式ページである。

イグニサス株式会社 公式サイト(外部)
NECのSSIプログラムから誕生したメタバース領域のクリエイティブ・マーケティング企業の公式サイト。サービス内容や対象プラットフォームを掲載している。

Roblox 公式サイト(外部)
世界最大級のUGC型ゲームプラットフォーム。Z世代・α世代を中心に世界中で利用されている3D空間である。

Roblox 公式IRサイト(外部)
Roblox CorporationのIRサイト。DAUやエンゲージメント時間など、最新の四半期実績データを公開している。

NEC(日本電気株式会社)公式サイト(外部)
日本電気株式会社の公式サイト。SSIプログラムなど新規事業創出やオープンイノベーション活動の情報も掲載している。

【参考記事】

イグニサス、日立建機の「重機ファンダム」と技術検証契約を締結(外部)
イグニサス側からの公式プレスリリース。Roblox上「イグニサスワールド」での次世代向け重機体験の検証開始を伝える。

「日立建機公式ファンクラブ」ページ開設!7/27(日)に本社でイベント開催!(外部)
日立建機公式ニュース。2025年7月8日に公式ファンクラブ特設ページが開設されたことを伝えている。

日立建機公式ファンクラブ第二回オフ会に200名が参加(外部)
2025年7月27日の第二回オフ会に約200名が参加した実績を報じる日立建機公式リリース。

「建設機械の日」記念、ファミマプリントで重機ファンダムブロマイドを販売開始(外部)
2025年11月開始のファミマプリント施策。全8種類のブロマイドをL判200円・2L判300円で販売する公式発表である。

累計10億プレイのRobloxクリエイターとタッグ!NEC発ベンチャー「イグニサス」(外部)
2026年3月のNEC Open InnovationのPR施策で展開したRoblox広告事例を伝えるプレスリリース。

Roblox Investor Relations Corporate Overview(外部)
2026年3月期四半期時点で日次アクティブユーザー1億3,200万人、エンゲージメント時間310億時間を示す公式IR資料である。

国土交通白書 直面する課題(国土交通省)(外部)
2024年の建設業就業者の年齢構成(55歳以上36.7%、29歳以下11.7%)を含む人手不足の構造を示す一次資料である。

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【編集部後記】

「重機」と「メタバース」——一見すると遠い世界の組み合わせに、少しワクワクした方もいらっしゃるのではないでしょうか。社会インフラを支える産業が、Robloxというデジタルネイティブ世代の”居場所”に降り立つこの取り組みは、私たちが「未来の働き手」をどう育てるかという問いへの、一つの応答にも見えます。

みなさんが普段「かっこいい」と感じるテクノロジーや産業は、何でしょうか。そして、その魅力を次の世代へ手渡すために、私たちには何ができるでしょうか。ぜひ、ご自身の”推し”の文脈で考えてみてください。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。